エンジン摩耗削減に貢献するエアフィルタ
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 「律速」 "Rate Controlling" という語彙がある.何がその現象を支配しているかを言うときに使われる."Dominant" というのも近い意味を持つ.エンジンの摩耗を抑えているまず最初はエアフィルタであって,エンジンオイルが第一番ではない.大枠を承知していないと時として大きく誤ることがある.


 昭和 40 年代までは,街中にもボーリング屋が存在し,国華ボーリングというような名のついたトラックがエンジンを積んで走っているのを見ることができた.たいていは 0.5 mm 間隔でオーバーサイズピストンというものがあり,ピストンに合せてシリンダをボーリングしたものである.こうした会社はいまでも存続しているが,サーキットを走行する人達御用達であって,ファミリーカーを買う人がここへエンジンを持ち込むことは現在ではまずない.いまではそんなことをしなくても 10 万 km 走行の使用に耐える.このようにエンジンの寿命が延びたのはシリンダやピストンリングなど,金属材料の品質が上がったからではない.こういうと不思議に感じられるかもしれないが,エンジンの摩耗低下に最も貢献したものはエアフィルタ,エアクリーナ Air Filter, Air Cleaner である.もちろん道路の舗装率が上がったこともいくらかは効いている.

 蛇腹状に折り曲げられた乾式濾紙が多く使われるが,濾紙と呼んではいるものの,濾過材は不織布 Nonwoven Fabrics であり,その頃これが出てきて,粉塵捕捉性能が一挙に上ったのである*.流体潤滑状態下でも潤滑油中に含まれる粉塵は研摩剤となって磨耗を促進する.

 * 不織布の製造と応用,中村義男編集,シーエムシー,ISN4-88231-072-4, (2000),pp. 184-187


 右上の図は粉塵吸入によるエンジン摩耗 Abrasive Wear の実験結果** であり,灰色で示された六十分のあいだ粉塵が吸入され,それに起因してシリンダとピストンリングの摩耗が進む様子が示されている.吸い込んだ粉塵のうち,シリンダとピストンリングのあいだに介在することになるのはその数百分の一であろうが,一旦,数十 mg 以上吸入した経緯があると,その後粉塵を吸入しなくなっても,程度は下がるものの,永く摩耗は進行する.放射性同位体 Radioisotope, Fe59, Cr51 を使う方法で測定されている.吸入粉塵について記述がないが,JIS の試験用粉体であると想像される.

 簡単な構造で,それほど高価でもないフィルタを設置するだけで,エンジンは 100,000 km ないしそれ以上の走行に耐えるから,現在では上記のような粉塵吸入の効果について実験する人もいなくなった.しかし,エアフィルタが必須であることを忘れてはならない.残されたこのデータひとつから読み取れることは少なくない.エアフィルタの装着で,粉塵の流入が阻止されているときは上図横軸で 25 から 75 分に相当し,そこでの摩耗量増加速度はほぼ無視できるレヴェルである.横軸 0 から 20 分あたりが,始動からの冷間運転による摩耗の進行であると推測される.

 ** 古濱庄一,内燃機関工学, 産業図書, ASBN: 4-7828-4027-6, (1970), p. 242 (刷によってページが少し異なる.第六刷では p. 246)

 エアフィルトレーション技術 Air Filtration では,一般に粉塵捕捉能力と圧力損失とは相反するけれども,高捕集効率と長寿命の両立には,濾材面積を大きくかつ粉塵保持容量を大きくすればよく,表面積を増やすために濾材のプリーツ加工がなされる.JIS D-1612: 自動車用エアクリーナ試験方法,JIS Z-8901: 試験用粉体 が規定されており,関東ローム層の砂塵で,JIS-7 種:中位径 30 µm と JIS-8 種:中位径 8 µm の二種類が濾過すべき粉塵に想定されている.性能評価では所定の圧力損失に達するまでの時間とその時点までの捕捉量が求められる.エアフィルタ寿命までの総捕集率は 99.5% くらいらしい.粉塵捕捉能力と圧力損失とは基本的に Trade-Off の関係にあるので,低圧力損失を謳うエアフィルタを使うのは,粉塵捕捉能力データを入手した上のことにするのがよい.

 エアフィルタもいまは国際規格の上に乗ったものになってきており,ISO で規格が審議されている.TC22/SC7/WG3 などの会議がそれであり,現在の試験方法に ISO/CD 19713: エアフィルタ粒子カウント試験方法などがある.10 µm 以上の粒子であれば試験用粉体の種類に依存せず,試験法に一般性があるが,それ以下についてはまだ問題があるとのことである.

 エンジンオイルを 3,000 km 走行ごとに交換するとか,古いエンジンには固いエンジンオイルをというような言辞を一概に否定するわけではないが,ともに,エアフィルタの性能がまだ充分でなく,40,000 km でエンジンをボーリングに出した,あの四十数年前の残滓を聞く思いである.エンジニアリングとはもう少し根拠に裏付けられたものである.固いエンジンオイルをという前にせめてコンプレッションゲージを出してくるべきである.かつてはコンプレッションゲージが指し示す圧縮圧でもってシリンダ摩耗の進行を推定していた.いまはコンプレッションゲージの出番が著しく減っている.


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