工学を記述する



 昭和 40 年代に書かれた学術論文をたまに出してみると,その内容,文章の充実に驚かされる.今の我々がいかに体力,気力,文章表現において駄目になっているかを実感する.かつて,学術団体の定期刊行物や論文集の編集委員をしていたとき,査読結果判定が困難になって編集委員に諾否の判断が委ねられると,投稿された文書を丹念に読まざるをえなくなるのだが,大抵は読み進めるのが大いに困難であった.文章を書くうえでの基本的な Format が満たされていないことが多いのである.そうした論文執筆だけではなく,ちょっとしたレポートや意見/感想などを書くときにも,以下のような点に気を配っていただければ,読む側にも抵抗が無くなろうというものである.



主語を明確に

 日本語は明治時代以降変革を遂げ,それまで無かった概念や事象を日本語で表現できるようにするために,多くの新しい語彙を取り込み,また新たに造ってきた.世界を見渡せば,自国の言葉で現在の科学技術を記述することができるという国は圧倒的に少なく,多くはできない国なのであって,そういう意味では日本語の機能は誇るに足るものである.

 ドイツ語に較べ,英語には三格( ...に)と四格( ...を)を区別するための活用がないので格があいまいになりやすい.ロシア語では格が六つもある.格の多いことが表現を正確にするとばかりは言えないが,誤解が減ることは確かであろう.工学では意味の一義性ということが重要である.どこから見ても複数の解釈が存在しえないように文章を書くということである.もっと単純に言えば,主語と述語との関係を厳密にして文章を書け,ということである.

 日本語では暗黙の主語は表記しないことになっている上に,「A はそれを」 と四格で使うべきところを 「それを」 を省いて 「A は」 として,話題の焦点をそれにあわせる 「表題化」 といえるような手法が,法律の条文などを除いて,通例のことになっている.
 例えば 「燃料は軽油を用いた」 というような表現が,論文の 「実験装置および方法」 などの章で,しばしば用いられるが,このとき 「燃料」 は主語ではなくて 「著者は」 が暗黙の主語として別にある.こういうときには 「燃料には軽油を用いた」 のように 「に」 を一字追加して表題化を避けるのがよい.
 「表題化」 とはつまり,「燃料は」 で,いま話そうとしている題目が 「燃料」 であると特定するのである.「燃料は」 は 「燃料については」 というのと等価である.「このラウンジはソファがあって」 (嵐山光三郎,かわいい自分には旅をさせろ,講談社),というような表現も,「ラウンジには」 と一文字追加すれば工学の文章になり得る.

 別の例を挙げよう.新聞を読んでいると 「特に中小企業は経営が苦しい会社が多い」 という文章に出会った.「中小企業は経営が苦しい」 のか 「苦しい会社が多い」 のか,文体としてはおそらく後者であろう.教育大学の先生の文章ということらしいが,せめて 「特に中小企業では経営の苦しいところが多い」 程度にしてもらえまいか."企業" と "会社",同じもので二重になっているのはこれまた見苦しい.

 上述の 「表題化」 は現在の日本語に蔓延している.それの行き過ぎが,主語のすぐあとに読点のつけるというやりかたになっている.たとえば,
 「ミズナラの果実ドングリは,枝葉の部分.... 」, 「ドングリ澱粉や脂肪は,発芽に必要.... 」, 「この秋に発根は,乾燥防止や春の早めの発芽に好都合である.」(渡邊 定元:「本」,平成 6 年 6 月,講談社)のように.9 割方はこの調子で主語のすぐあとに読点が出てくる.
 「その花は赤い」 と言うような短い文章でなら,主語のあとに読点を入れて 「その花は,赤い」 とすることはまずなかろう.しかし,少し長くなれば主語のすぐあとに読点が出てくる文が多くなる.暗黙の主語となっているのか,表題として挙げただけなのかを,書き手が意識せず,区別していないのであろう.日本語の文法では「は」 は格助詞ではなく,副助詞とされているとのことである.格助詞は「が」 だと言うが,主格を表すのにつねに 「その花が赤い」 とばかり使うわけにはいかない.「その花は赤い」 として主格を表さざるをえない場合のほうがむしろ多い.

 主語が 「は」 ではなくて 「が」 で受けられているときには,そのあとにすぐ読点が来ることが少ない.たしかに「が」 の場合には主語であるという意識がはっきりしているということであろう.「は」 の場合には表題化と主語化とが極めてあいまいのままで使われるのが,現在の日本語の特徴ということになろう.しかし,工学に関係する文章ではこのあいまいさは排除されるべきである.

 村田美穂子「助詞『は』のすべて」 至文堂,1997 年,ISBN4-7843-0187-9,が参考になるかもしれない.

注:格助詞,文中の体言(相当句)が他の言葉とかかわり合う関係を示す助詞 - 「の・が・を・に・と・へ・より・から」.副助詞,ある語に付いてその語自身の意味に限定を加えることを示す助詞 -「は・も・さえ・ばかり・だけ・しか・くらい・など・ほど・まで」.新明解国語辞典 第四版 三省堂

能動と受動の区別が不明確なのは願い下げ

 「そこには,世論を大事にはするが世論からは侵食されないという姿勢が貫徹しており,一種の畏怖さえ感じさせる.」(加藤陽子,「本」 平成 6 年 6 月,講談社)とある.ここで問題なのは 「貫徹している」 と能動になっていることで,そこは 「貫かれており」 で完全に置き換えられ得るのだから,受動体で書かれなければならない.

 「この情報は計算機で処理する」 というような表現もしばしば見受けるが,「この情報は計算機で処理される」 というように書くよりないのではないか.

 6 月末になると梅雨明けの大雨が降り,しばしば気の早い台風も近づく.日本人の感心の第一はまずその日の気象にあるのか,朝の NHK のニューズのトップは大雨 / 台風情報である.それをぼんやりと聞いていると,そこに 「東海道新幹線は始発から平常通り運転しています」 というような表現が出てくる.これは決定的に誤りである.これに較べれば 「燃料は軽油を用いた」の方がまだ日本語の論理に則っていると言える.「東海道新幹線は」のところを前節 "主語・述語" に挙げた表題化であるというなら,主語は暗黙の主語となって,アナウンサが新幹線の列車を運転していることになる.ここはあくまでも受動形で 「東海道新幹線は始発から平常通り運転されています」とするよりない.

 日本経済新聞の月曜版の記事に 「トヨタはこれまで,豊田家の番頭が支えてきた.」 という文があった.ひとつの文章に主語がふたつあるかのようである.おそらくここでの 「は」 は 「表題化」 に使われているので,『トヨタについては,これまで,豊田家の番頭が支えてきた.』ということなのであろうが,『豊田家の番頭がトヨタをこれまで支えてきた.』とするほうがそれぞれの単語の格が明確になる.前者を主語にしたいということであるなら 『トヨタはこれまで,豊田家の番頭に(よって)支えられてきた.』と受動体の表現を採らねばならない.

 「なになにの収支は何パーセント改善した」 というような経済紙特有の表現もある.常識では "改善する" の主語は人間であって,物や状況ではない.これと同じ流儀を工学に持ち込むと厳密性に欠けることになる.日本語では受動形の表現は輸入品であって,まだなじんでいるとは言えないのかもしれない.一般の人になじんでいなくとも,工学者に求められる文というものがあり,その閾値は一義性の有無であろう.「残業時間を削減するための策を講じなければ何も解決しない」 というくらいになると善し悪しはかなり微妙であるが,"解決" するの主語は人間なのだから 「解決されない」 とするよりなかろう.

 自動詞,他動詞の区別になるともっとあいまいになる.「混合する」 という言葉などはしばしば区別なく使われる.例えば 「燃料が空気と混合してしまった」 というように.個人的には 「混合」 は名詞形でしか使わず,動詞には 「混ざる」/「混じる」 と 「混ぜる」 を,そのときどきに応じて使い分けるようにしている.例文なら 「燃料が空気と混ざってしまった」 ないし 「燃料が空気と混じってしまった」 である.「決定する」 もまた同じように,「旭高校が今年の県代表に決定した」 のように使われる.しかし,厳密には何かを 「決定する」 のは人間がするのである.動詞としては 「決まる」 と 「決める」 を使い分けるのがよい.「旭高校が今年の県代表に決まった」 とすれば迷うことがない.上の 「残業時間を削減するための策を講じなければ」 という文でも 「残業時間を減らすための策」 の方がよい.



どの文字をどう使うか

1. 半角と全角

 日本語ワードプロセッサでは,そこで使う文字について,「全角」 文字モードと 「半角」 文字モードを切り替えるようになっている.漢字,平仮名,片仮名はいわゆる 「全角」 文字である.もっとも,片仮名にはいわゆる 「半角」 文字のモードもあるが,これについてはあとで述べる.数字,アルファベット,ギリシャ文字などにはいわゆる 「半角」 文字のモードがある.英文・独文・仏文など,欧文のワードプロセッサではこのモードしかない.

 全角,半角というような,文字のサイズについての表現は現在では必ずしも適切なものとはいえない.1-byte 文字,2-byte 文字,というほうがよいと思うが,定着していない.「全角」, 「半角」 がなぜ適当でないかというと,それを認めると 「倍角」, 「四倍角」 というものを認めざるを得ないからである.それらはかってワードプロセッサ専用機で等幅の文字しか扱えなかったとき,文字の大きさを 2 分の 1,2 倍という単位で指定する方法であったにすぎず,現在ではそれらは過去の遺物となってしまっている.いまは文字の大きさはたいていポイント数で表わされる.

 印刷用の和文の活字に近いプロポーションの JIS X-0208 の文字が 「全角文字」,ASCII / JIS X-0201の文字が 「半角文字」 と呼ばれていた (私家版 fj 用語集 http://www3.justnet.ne.jp/~s_kishimoto/ より).

 「半角」 文字;1 byte 文字とはいわゆる ASCII Character である.1 byte を 16 進数 (0, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, A, B, C, D, E, F なる一桁の文字で 10 進数の 0 から 15 までを表現する.接頭詞 $ あるいは接尾詞 H をつけて 16 進数であることを示す) 二桁で表わし,文字と数値との対応が取られる.$31 (31H) を通常我々が使っている数字の "1",$41 (41H) を大文字の "A" とするたぐいである.以下に ASCII Code と英文字・数字・記号との対応を示す.
 
 $00 から $1F までは Carriage Return ($0D), Line Feed ($0A) などを含む Control Code である.$7F は Delete で,これも Control Code である.本来の ASCII Code では,スペースを文字として数えても,15 * 6 − 1 = 89 文字 しか表わせない.$80 から $FF まで 15 * 8 = 120 文字 分余っているのでそこの 1 byte ごとに文字が割り当てられている.しかし,ここのところを使うときには注意が必要である.コンピュータの機種や OS に依存するし,ネットワーク経由では送受信できないことがしばしばである.

 漢字や仮名を数値コードで表現するには 1 byte では足りないので 2 byte 使って 1 文字が表現される.2-byte 文字と呼ばれる所以である.そのコードには 「区点コード」, 「シフト JIS コード」, 「JIS コード」 の三種類がある.あとの二つは 16 進数四桁で表わされているが,区点コードは 10 進数四桁である.また別に 「EUC コード」 なるものもあり,あわせて四種類とすることもある.

 数字,アルファベットなどにもいわゆる 「全角」 2-byte 文字がある (区点コード 0316 ~ 0390).しかし,数字,アルファベットなどにはこの全角 2-byte 文字を使わず,いわゆる 「半角」 1-byte 文字で書いてほしい.その理由は見た目のバランス,美しさ,ということもあるが,"Data Feed" という考え方があるためである.

 いま全角 2-byte 文字で数字と英文字を書くと,細明朝体で表示して
 
のようになる (細明朝体は等幅 Font ではなく,Proportional Font であるが,全角 2-byte 文字で数字と英文字を書くと,上のように等幅 Font として表示される).これを Times Font に変えると
 
となり,何が何だかわからなくなってしまう.Times Font は与えられたデータをすべて 1-byte 文字であるとみなすのでこういうことになる.英文字を主として使っている国では 2-byte 文字のフォントを使っていないから,数字,英文字であっても全角 2-byte 文字で書かれたものを認識することができない.
 同じ Times Font でも 1-byte 文字でなら
 
のようになる.いま,
「$00 から $1F までは Carriage Return ($0D), Line Feed ($0A) などを含む Control Code である.」
と,細明朝体で書いて,それが 1-byte 文字列で認識されても
 
のようになるだけであって,主要な情報はかなりの程度に残る.

 例えば,数字や英文字を全角 2-byte 文字で書いて,プリンタに打ち出し,それをファックスでニューヨークへ送れば,むこうの人も読めるが,それをそのまま電子メールで送ると,何も伝わらない."Data Feed" とは,本来大きさや量を表わす数値などを,紙に書いて受け渡すのではなく,電子的なコードとして意味のある数値のままで伝える,ということである.鐸木能光「テキストファイルとは何か」 地人書館,ISBN4-8052-0680-2,が参考になる.

 片仮名にはいわゆる 「半角」 文字のモードもあることを先に述べたが,全角平仮名,全角片仮名,
 
を半角片仮名に変えると
 
のようになって,ヰ wi,ヱ we が 「イ」, 「エ」 に変わってしまう.半角片仮名については漢字コード表にも出ていないので,どのようなことで定義されているのかわからない.また,電子メールでは基本的に半角片仮名は使ってはいけないきまりである.

2. Serif / Sans serif の区別をしっかりと

 
 前者は Times フォント,後者は Helvetica フォントである. 「髭 Serif」 のあるなしに留意されたい.漢字 / 仮名の場合には 「明朝」,「ゴシック」 の違いである.技術文書では地の文 (Body) は通常 「髭 Serif」 付きフォントで書かれる.

3. フォントと表示可能な文字

 欧文標準 13 フォント:Times, Helvetica, Courier,それぞれのフォントが持つ 4 つの書体 (標準,太字,斜体,太斜体) の合計 12 フォントと Symbol フォントを加えた合計 13 フォントのことである.文書中にこれらの書体だけが使われていれば,フォント関連で問題が発生することは,世界中で基本的にないとされる.Acrobat 形式の文書ではこれらに加え,さらに記号用の Zapf Dingbats フォントが標準に採用されている.
 欧文フォントには,英文にはなく,独文,仏文などの欧州他言語に付属する強調符号付きの文字なども含まれているし,通貨記号なども比較的よく揃えられている.

 

4. 漢字 / 仮名フォントのなかにある半角英数字

 漢字や仮名を含むフォントも 1-byte 英・数文字を併せ持っている.例えば細明朝フォントの半角英数字は Times フォント相当,中ゴシックフォントの半角英数字は Helvetica フォント相当である.しかしながら,細明朝フォントのなかの 1-byte 英・数文字ベクトルデータには Roman (立体) のそれしかなく,斜体,太字などのベクトルデータがないため,斜体は単に Roman (立体) を傾けたものとしてしか打ち出されない."a", "m", "v", "Q" などを較べてみれば,それが知られる.
 

注意事項いろいろ

○ 半角の 「,」, 「.」, 「:」, 「;」, 「)」 の後には必ず半角のスペースをおく.英文タイプライターから Key を打ちはじめた人にはこの習慣がついているはずだが,日本語ワードプロセッサが Key 入力の最初であった人は,全角のコンマ「,」は一文字であってなお,文字を構成する平面空間の後半が白く空いているので,コンマ を入力したあとスペースを置く必要はない,ということが習慣になって,半角の 「,」, 「.」, 「:」, 「;」, 「)」 のあとにもスペースを置かないでよいと考えているのではないだろうか.全角のコンマ「,」には必要がないが,半角の 「,」 のあとには必ず半角のスペース 「 」 を入れなければならない.逆にこれらの直前にスペースを置いてはいけない.もちろん,半角の 「(」 の前にも必ず半角のスペースをおく.

 MS Windows を OS に使っている人の多くが半角の括弧前後にスペースを置かず,この原則に抵触しているのはどういう理由によるのだろうか.また,全角文字だけが続く文の中でなぜ括弧だけを半角にするというような操作ができるのか,実にに不可思議である.例えばこういうふうに,"TEL:052-735-7785(ダイアルイン) ".この表示では,半角英数字のあいだに全角の ":" が挟まっている.これまた奇異である.

○ 数値とそれに付帯する単位記号とのあいだには必ず (英・数文字としての,当然半角の) スペースをおく.
60kg, 40.5m/s, 10.8MJ/kg⋅K ではなく 60 kg, 40.5 m/s, 10.8 MJ/(kg⋅K) などとする.Italic (斜体) で書いてはいけない.「半角」 Roman (立体) で書く.

○ 単位記号の大文字 Upper Case と小文字 Lower Case とは厳密に区別する.k: kilo = 10^3, K: degree Kelvin, m: meter or milli = 10^(-3), M: mega = 10^6 など要注意.2 Kg, 60 Km などと書いてはいけない.[kW] を [Kw] と書いてあるのなど,実に恥ずかしい.

○ 変数は原則として Italic (斜体) で書く.やむをえない場合には 「半角」 Roman (立体) も許される.

○ 半角の英・数文字と全角の漢字・仮名とのあいだにはすきまをおく.すきまをおかないと詰まり過ぎた感じを与え,バランスが悪い.よく知られたワードプロセッサ Microsoft Word には自動的に 「すきま」 を空ける機能がある.ただし,その間のとりかたはずいぶんと稚拙であり,ほとんど使い物にならないといってよい.それゆえ,半角の英・数文字と全角の漢字・仮名とのあいだには,半角の (英・数文字としての) スペースをおくことを勧める.

○ 技術文書は通常横書きである.そこでの句読点には 「.」, 「,」 が使われる.熱力学や材料力学の教科書,あるいは日本機械学会論文集などをいちど見ていただきたい.句読点には 「.」, 「,」 が使われているはずである.日本の役所などの書類では,現在そのほとんどが横書きになっているが,句読点は 「。」, 「,」 と定められているようである.それゆえであろうか,高等学校の物理や化学の教科書でも句読点は 「。」, 「,」 になっている.我々が書く文書には一般的には 「.」, 「,」 を推奨する.横書きに 「。」, 「、」 を使うのはやめてほしい.せめて「。」, 「,」 でありたい.読点「、」 は横書きの文書では収まりが悪い.

○ 長音記号は 「」 であって,Hyphen ではない.例えば "" というような表示は変だと感じられるだろう.逆に住所や所在地を丁目や番地を略して書くときに「」のように,長音符号が使われているのは実に見苦しい.Hyphen を使うべきである.また,全角の数字は冗長でもある.

○ +−  −−−−−これらは半角のマイナス. - - - - - これらは半角のハイフン

○ 参考文献の所在など,著書や論文のページを表示するには p. 120 のようにする.「p」 は小文字 Lower Case とし,「.」 は省略の意である.「.」 とページ数とのあいだには半角のスペースを置くことが望ましい.P120, P.120, P. 120 など,大文字 Upper Case 「P」 を使うことは正しくない.複数のページにまたがることを示す場合には pages の省略形で pp. 120-125 のように書く."〜" は我国では 「−から−まで」 の意味で使われるが,英文ではそういう使い方はないとのことであり,pp. 120~125 のようにはしない.なお,p. 120 というような表現が文頭に来るときには省略せず,Page 120 is ..... のような英文とする.

○ リットル をどのように表示するかは悩むところである.Times Font, Italic (斜体) の 「」 などは充分とはいえない.全角 2-byte 文字でよいのなら 「」 SJIS: 8650, 区点11.17 がある.しかし英文で論文を書いているときには全角 2-byte 文字をその中に使えない.半角 1-byte 文字では Belmont Font, Roman (立体) の 「」 が辛うじて使える.当方では MathType という数式記述ソフトウェアに付属する MT Extra というフォントをこれだけのために使っている.使用フォントに制約があるときにはこれもできない.そのときには "cm³", "m³" の単位で表示するよりない.

○ 重力加速度の表示にもまた悩みがある.Times Font, Italic (斜体) の 「」 はよくない.Times Font, Roman (立体) の 「」 は問題外である.Courier Font, Italic (斜体) の 「」 などがなんとか使える.

○ 引用符 Quotation mark 「"」: Inch Mark であり,厳密にはこれは引用符 Quotation mark ではない.「'」: apostrophe or foot/feet である.
 引用符としては,全角 「“」 「”」,「‘」,「’」,「′」 「″」,半角 があり,それぞれ区別して使う.独文では引用符として の組み合わせも使われる.

 数年前から NHK のニューズ番組では,画面の底部に文字が出るとき,引用符のつもりであろうが, の組み合わせが使われるようになった.これは独文と較べると開け閉め,逆の記号になっている.各国の文書を見てもこの組み合わせが引用符となっている例を知らない.日本語横書での引用符は「」なので,それにつられて開始は左肩,終了は右裾と勝手に解釈して使っているのだろう.一般に英文で使われる 「“」 「”」,あるいは独文式くらいを使うのが適当ではないか.

○ 括弧のあとにピリオド 「.」 が来るような場合,全角 「)」 を使うと 「(A).これに」 というようになって間が抜けたことになる.これを避けるには半角の 「)」 を使って, 「(A).これに」 とするよりなかろう.鈎括弧にも全角の "「 」" だけでなく,半角の "「 」" もある.

以下に例を挙げる.右側が上の原則に則った表示である.

平成11年度概算要求  →  平成 11 年度概算要求
3月18日の委員会  →  3 月 18 日の委員会
建設予定の3,4,5号館の敷地  →  建設予定の 3, 4, 5 号館の敷地
先の合意(午前中を予定),外国への  →  先の合意 (午前中をを予定),外国への
極微構造デバイス研究センタ− →  極微構造デバイス研究センター
リフレッシュ教育推進経費(案)  →  リフレッシュ教育推進経費 (案)
(A).これによって  →  (A).これによって
「朝日新聞」.さらに続けて  →  「朝日新聞」.さらに続けて

○ 工学などの論文では図 (写真であっても図,Figure と表現する) は必ず本文から参照される.
 つまり,1) 「燃料のオクタン価を 80 に下げたときの指圧線図を図 6 に示す」 というような文によって,そこにある図が何であるかが本文中で定義される.もちろん図の下には Caption, 見出し,短い説明文 が付く.2) 「圧力上昇が見られ,10°aTDC には大きな発熱があったことがわかる」 というように,その図を示すことで著者が述べたいことを本文で説明する.というのが必須であり,図とテクストに整合性が無いということはありえない.
 大学の入試問題でも 「図に示すような滑車を使って」 などと書き出していきなり問に入る例が多く見られるが,恥ずかしいことである.



文字は内容を伝達する手段.工学では "一義性" が重要

 定期考査の答案を採点していて,暗澹たる気持にさせられた.もう少し文字を丁寧に書けないのか.文字は書き手の考えや意向を伝達する手段であり,書き手がそう思って書いても,読み手が別の文字や字句として受け取れば,伝達という機能は果たされない.定期考査の設問に解答するということは,自分のこころ覚えに手帳へ控えておくということとは違い,工学の中味を伝えるためのものであろう.以下に例をあげる.

 
 "const." のつもりらしいが "10rst" のように見える.最初の字はとても"c" には見えない.また,"const." は "constant" を縮めたものであり,省略有という意味でのピリオド "." は欠かせない.つまり,これでは意味は伝達されない.平仮名の 「か」 という字は漢字の 「加」 から来ているので,「カ」 部分と 「ヽ」 部分とはもともと同格の重みを持つ.平仮名の 「が」 は 「カ」 に点が三つ付いているのではない.読点についても 「。」 にするのか 「.」 にするのかという意識が全く感じられない. 「成」 についても言いたいことは山ほどある.たった一文ですら問題点は一つや二つでない.[平仮名の由来:http://meiko.web.infoseek.co.jp/kana/hiragana.htm]

 最初 「入口」 とは読めず,「スリロ」 とは何のことかと訝しく思った.「で」 という字も 「乙」 という字に点が二つ付いていると読んだ.「流体」 の 「流」 の字も変である.「が」 については上記と同じことがあてはまる.
 
 これもまたひとを疲れさせる.最初は "CO2" のつもりなのだろうが,普通には "w2" か "ω2" と読むだろう. "H2O" の "O" は "H" と同じサイズでなければならないが,極端に小さい.なぜこのように書くのだろう.後尾は 「反応式を満足し,」 と読ませたいのだろうが,どのようにしたら 「を」,「満」 と読めるのか.句点についても 「、」 にするのか 「,」 にするのかという意識がない.

 これらの例は工学を学ぶということと対極に位置している.このままでも一人前のエンジニアと言えるのか.このままで世に出るのか.これを大学で矯正せよと要求されても筋違いである.小学校で仮名すらもまともに教えてもらえなかったのだろうか.そういえば,「ゐ」,「ゑ」,「ヰ」,「ヱ」,「ヲ」 はほとんどの人が書けないという.「いろはうた」 も知らないんだろう.昔から "読み書き算盤" というが,こうした基本は大学入学以前に済ませて来てもらいたい.


Back to Homepage