タイアについて
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タイアへの窒素 N2 ガス充填は有意義か
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タイアについて

Continental と Bridgestone
タイアは新しくなければならないか
タイアの値段
デフレは未完了


Continental と Bridgestone * この記事は VW Vent を使っていた 1996 年から 2007 年のことで,一部,現在では通用しないところがある.

 Continental のタイアはただ堅いだけのタイアで,たいしたものではないと以前は思っていた.VW Vento に最初から付いていたのが Continental Sport Contact, CH90, 185/60 R14, 82H であった.

 3 万 8 千 km を走行し,かなり減ってきたことが見てすぐに分かるようになった.冬の朝,車庫から道路へ,低速で直角に曲がりながら出ると,タイアの変形が路面との摩擦に耐えきれなくなってブチッブチッという音を発する.それが不愉快で,タイアを交換することにした.

 当時も,またその後も,我国では最高に乗り心地が良く,あわせて静粛性が高いと言われている Bridgestone Regno GR-7000 を選び,ついでにさらなる乗り心地の改善を期待して,タイアの偏平率を一段落として 65 とし,外径がほぼ等しくなるよう 175/65 R14, 82H を採用した.ホイールは 6J×14H2, ET 45, 4-Hole/PCD 100, センターハブ径 φ57 の純正スチールホイールである.

 乗り心地と静粛性とを上げようというこの一連の思惑は全くの失敗に終わった.走ると道路の凹凸に応じて上下にフヮフヮする.ブレーキングの最終段階で,道路との相対速度が順次リニアに下って行くという実感がない.言い換えれば前後方向の剛性がない.高速道路走行でフラフラとした感じもある.路面から聞こえる音についてもその改善幅は僅かなものである.50 k 円近くも支払ったものなので,しばらくはそのままで走っていたが,やはり辛抱しきれなくなった.

 もとの Continental Sport Contact に戻すことにした.Continental Sport Contact には数種類あり,CH90 と CH51 とを Yahoo Auction で見つけて入手した.製造年週は 1990 年代の値になっていて,若いものでも 5 年前の製造になる.これらの型番のものは,少なくとも我国では現在市販されていない.EcoCP, EcoEP などにすでに替わっている.

 6J×14H2, ET 45, 4-Hole/PCD 100, センターハブ径 φ57 の純正アルミホイール:BBS_RA (上記写真) が偶然にもほぼ同時に見つかった."Der Erste" として売られた車にはもともとついていたし,オプションとしても存在していたものである.近くの James でこれにタイアをはめてもらった.

 とにかく,ほぼもとに戻しただけなのだが,その差は歴然としている.こちらの方が圧倒的に堅牢な操縦安定性と乗り心地が得られる.


タイアは新しくなければならないか

 タイアは -- と同じように新しいほど良いといい,そのことにひどく神経質な言辞がとびかっているが,未使用のまま屋内で保管されていたのであれば,4 年は問題のある数値ではない.ただ,下ろしてからトレッドゴムが一皮むけるまでは本来のトラクションが得られないので,その点にだけは注意は必要である.また,寿命そのものはそれ相応に短くなるのは避けられない.Michelin は製造後 6 年経過したらそれ以上使わないことを推奨している.経験ではサイドウォールやショルダに皺 (しわ) が出るのが早く,これが寿命になる.製造後 8 年というもので 8,000 km, 製造後 6 年のもので 15,000 km 走れた.その時点でトレッドは 6 分山程度残っていた.供試タイアは Continental Sport Contactで,前者は CH51,後者は CH90 である.

 購入した一台の車で,いったい何種類のタイアを試すことができるかを考えると,せいぜい 3 種類くらいだろう.15,000 km くらいで寿命になったら,次にまた別にものを試す楽しみができる.二度目の Continental Sport Contact の次に供試したタイアは 6 年ものの Michelin MXV3-A であった.このタイアは腰の強いよいタイアだったが,やはりゴムが硬くなっているのか,湿潤路ではやや滑り気味で,そうしたときに高い周波数の音が出た.



・Michelin MXV 185/60-14 82H, 91 年式ランチア・デドラのスペアタイヤを外したもの 1本, ・Pirrelli P4000 185/60-14 82H, 93 年式ランチア・デドラのスペアタイヤを外したもの,というのが Yahoo Auction に出品された.新品同様とはいえ,さすがに 10 年以上経過したタイアを試す気力は出なかった.

 最後に換装したタイアは Continental Eco Contact CP であった.ポロ "9N" の新車に装着されていた 185/60R-14, 82H,南アフリカ製.このタイアは乗り心地と進行方向の剛性を両立させたタイアであると評価できる.サイドウォールが柔らかい感じであるが,制動時に腰砕けになることがない.Michelin MXV3-A より Comfort 寄りの設定になっている.トレッドパターンはよく似ている.エンジンの硬さもすっかり取れた VW Vento にはこれくらいが妥当だろう.* ここで現在と言っているのは VW Vent を廃車にする前の 2005年から 2007 年のことである.


タイアの値段 * この記事は VW Vento を使っていた 1996 年から 2007 年のことで,一部,現在では通用しないところがある.

 需要不足,生産過剰,デフレ更新などと言われているが,我国におけるタイアの値段は国際的にみて低廉というわけではない.185/60 R14, 82H 米国で US$50, ドイツで 55 Euro 程度である.米国では All-Season タイアが主流なので欧州と直接の比較はできないが,欧州よりやや高めである.

http://www.tirerack.com/tires/index.jsp で米国における価格を見ると,
 185/60R14V  Pirelli P7000 $47
 185/60R14H  Pirelli P6000 Sport Veloce $56
 185/60R14H  Bridgestone Potenza RE92 $57
 185/60R14H  Firestone Firehawk GTA $49
 185/60R14H  Continental Touring Contact CH95 $55
 185/60R14H  Yokohama Avid H4 $47

http://www.buy-in-the-web.de/reifen/shop.htm でドイツにおける価格を見ると,
 185/60R14H BRIDGESTONE RE720 53.38 EUR
 185/60R14H CONTINENTAL EcoCP 54.71 EUR
 185/60R14H CONTINENTAL Premium 57.67 EUR
 185/60R14H DUNLOP Sport D8 44.53 EUR
 185/60R14H FIRESTONE F700FS 47.09 EUR
 185/60R14H FULDA Attiro 46.89 EUR
 185/60R14H GOODYEAR NCT5 53.89 EUR
 185/60R14H GT RADIAL Champiro 44.18 EUR
 185/60R14H KLEBER Viaxer 50.31 EUR
 185/60R14H MEGA Optima 42.44 EUR
 185/60R14H PIRELLI P6000 55.88 EUR
 185/60R14H PIRELLI P6000pow. 57.52 EUR
 185/60R14H SIME MonzaHR7 44.48 EUR
 185/60R14H TOYO E10 46.89 EUR
 185/60R14H UNIROYAL R540 51.95 EUR
 185/60R14H VREDESTEIN Protrac2 51.03 EUR
 185/60R14T CONTINENTAL EcoEP 52.36 EUR
 185/60R14T FIRESTONE F580FS 44.38 EUR
 185/60R14T VREDESTEIN T-Trac 50.21 EUR

 普段なじみのないタイアが出てくる.タイアの銘柄やタイアメーカについては,以下の url からたどればよい.
  http://www.rubberstation.com/Mm2.htm
  http://www.tgi.co.at/linksmain.htm
  http://www.crain.co.uk/plants_list.asp

 世界中,各国どこでもほぼ同じタイアを売っているメーカと,その国に特化した商品構成をとっているメーカとに大雑把に分類できる.Michelin, Continental などは前者であり,Dunlop は後者に属する.Dunlop Sport D8 など,VW の Original Equipment としてそのまま我国にまでついて来るので,しばしば見るのだが,我国でそのタイアを単品で買えるところを知らない.

 ドイツでよく見受けるタイアに Vredestein がある.オランダのタイア会社のものである.オランダとインドネシアとのふるくからの関係で,インドネシアに工場があるらしい.インドネシア製ながら Vredestein "Protrac2" が我国でも 185/60R14H サイズを 3,600 円にて入手できる.試してみたいと思うがまだ果たせない.Vredestein には "Sportrac" in partnership with Giugiaro Design というのがあり,いかにも美しそうで気になるけれども,我国では入手できない. url は http://www.vredestein.com/english/index.html



タイアへの窒素 N2 ガス充填は有意義か

 空気の代わりに窒素 N2 をタイアに充填すると乗り心地が大きく良くなるうえ,内圧 (空気圧とは呼べなくなる) の経時低下も少ないという人がある.一方でそんな効果は全くないという人もいる.良い効果がある理由として「窒素には空気と違って熱膨張がない,故に内圧変化がなく安定している」などというようなことが言われているようであるが,その記述が誤りであること論を俟たない.そういう広告や記事はサッサと無視しなければならない.しかし,窒素ガス充填によって乗り心地が変わるという事実があるのなら,その理由を考えてみるのも悪いことではない.

 それで,ものは試しと窒素ガスを充填して走行してみた.窒素を充填するにあたって,車輪をリフトアップした.もともとタイアには空気が入っており,車重を懸けたまま空気を抜くと大きく形状が歪んでビード部から気体が漏れるようになることを恐れたのである.ゲージ圧で 240 kPa が内圧の設定値であれば,絶対圧は 340 kPa であり,大気圧以下まで抜くことはできないから,順次,絶対圧で半分,175 kPa (ゲージ圧で 75 kPa) あたりまで抜いて,その後もとの内圧になるまで窒素を入れた.そういうことを 4 回繰り返したから空気の残存量は全体の 1/16 程度となり,空気中の窒素含有率が 0.78 なので,窒素以外の残存は 1.5 % 程度となる.すなわち,98.5% 程度はまちがいなく窒素で満たされている.もちろんこの作業の終わりに,内圧を冷間静止状態で規定値に合わせた.これで実際に走行してみたが,空気充填との差は実感できなかった.マンホール鋳物蓋が路面より下がっていて段差となり,それが 4 つほぼ等間隔に現れるところを毎日ほぼ同じ速度で走るのだが,唯一そこを通過するときの感触がややマイルドになったように思われた.

 窒素ガス充填を謳う業者がどのようにしてもともと入っていた空気を排除して窒素と置き換えているのかは知らない.しかし,窒素も沢山要ることだし,おそらくここでやったように何回も入れては捨てるというような丁寧なことはしないだろう.車重を懸けたまま空気を抜くのなら頼まない方がよい.それではタイアが大きく変形し,タイアの為によくない.そのうえ真空引きなどとんでもない.もし,リフトアップして大気圧まで空気を抜き,その後窒素をゲージ圧 240 kPa になるまで入れるのなら,窒素含有率は (340-22)/340=0.935 であって,窒素充填とはいえ 93.5 % しか入ってはいないことになり,窒素充填とは名のみである.

 まず,物性として窒素と空気とで差があるのかどうかをおさえておく.いま,せいぜい数十気圧程度までなら,空気も窒素も理想気体として取り扱って差しつかえないから,状態式 が成り立ち,p, V, n, , T はそれぞれ内圧,タイアの内容積,充填ガスのモル数,一般ガス定数,ガスの絶対温度である.ガスの温度が上がればタイアの内圧が上がる.タイアには車輌走行時のヒステリシスロスから生じる発熱があり,そのうちの幾分かを内部のガスがもらうから,タイアに充填されているガスの温度は上昇する.容積変化はほぼ無視できようから,温度が上がることによる内圧上昇はほぼリニアであるとみなせ,内圧上昇によって乗り心地は硬くなる.もし窒素の比熱が空気のそれより格段に大きいのであれば,温度上昇は小さい.しかし,空気の定容モル比熱 Cv は 20.796 kJ/(kmolK) であるのに対して窒素の定容モル比熱は 20.791 kJ/(kmolK) であり,比熱の差はほとんどない.空気の成分はおおまかに N2: 78, O2: 21, Ar: 1 であって,窒素の割合が大きく,物性値も窒素と空気とで大きくは変わらない.もちろん比熱は無限大ではなく有限の値をとるから, 「窒素には熱膨張がない」 などということはありえない.

 いま,タイアが突起を通過する状況を,タイアに対してある一定の仕事 W が与えられると考え,そのとき内部のガスは断熱変化過程に従うとすると,
   

ここに
κ はガスの比熱比である.κ が小さい方が pV の変化が小さくて有利である.空気のそれは 1.402, 窒素のそれは 1.398 である.それにしても差は 1 % という世界であり,有意差があるとはいえない.しかしここからは,窒素と同様に不活性ガスであるからといって,タイアにアルゴン Ar やヘリウム He を充填するするのは良くないということが知られる.アルゴン Ar やヘリウム He の比熱比 κ は 1.66 と大きいからである.窒素 N2 を充填するくらいなら,比熱比の小さい炭酸ガス CO2 を充填する方がましなのは明らかである.しかし,それは乗用車用などの低圧タイアに対してだけであり,CO2 は高圧・低温で液化するので,その条件に近いトラック用などの高圧タイアには使えない.

 
タイア内に存在する水滴

 タイアをリムに組みつけるときに,タイアのビード部分をブラシを使って濡らしている.組みつけ時に滑りをよくしてタイアを傷めない工夫であろう.そうすると,新規に組み上げられたタイア/ホイールの場合には中に水滴が存在していることになる.さらに,充填される空気も湿り空気である.タイア内部にある液体水と蒸気とは気液平衡状態にある.冷間時に水滴であった水はタイア内部のガス温が上がれば
蒸発して気体のモル数が増える.状態式 モル数 n の増加でタイア圧が上がることになる.水滴はそれが液体である限り,気体の状態式 に,水滴のモル数を勘定に入れなくてもよいが,気化して蒸気になるとモル数 n に繰り込まれなければならない.液体では容積はごく僅かであっても,気体となったときの水のモル数は系の状態を大きく変える.状態式 における V の変化はほとんど無く,T は走行時のころがり抵抗でそれなりに上がるが,水分があるときとないときとで大きな差があるわけではない.タイアに充填された空気に水分があると,ころがり抵抗による温度上昇で水滴が気化したとき,その分だけ気体としてのモル数 n が増し,それは直ちに内圧 p に反映され,その圧力上昇が車輌を跳ね上がりやすく,硬い乗り心地にする.

 このように,窒素 N2 充填というのは窒素 N2 の性質ではなくて,水を含まないガスを充填するという意味であると推測できる.露点温度摂氏マイナス 60 度という,水蒸気をほぼ含まない 「純空気」 を充填して走行してみれば,そこのところを判定できる.ボンベ入り窒素よりボンベ入り「純空気」の方が圧倒的に高価であるのだが.新規に組み上げてエアコンプレッサから空気を入れたタイア,ボンベ入りの窒素を充填したタイア,ボンベ入りの 純空気 を充填したタイア,の順に試して,二番目と三番目とで私には全く有意差が認められなかった.* 大気圧換算 7 m3 入りのボンベ一本の中味が,工業用窒素なら二千数百円であるが,純空気はほぼその十倍の値段である.

 つまり通常のエアコンプレッサで作る圧縮空気で 3 回ばかり空気を抜いては入れ,抜いては入れすれば,窒素充填と同等の乗り心地が得られるということになる.それでタイア内の水滴は排出される.もちろんエアコンプレッサのタンク内も水に関しては液体と水蒸気との気液平衡状態にある.しかし,全圧を十気圧とすればその空気に含まれる水蒸気はおおまかに十分の一になっているわけで,そのタンク上部から気体のみをタイアに充填すれば大気に較べ含有水蒸気量が十分の一になった空気がタイアに入る.

 酸素分子と窒素分子の大きさ (分子直径) は,酸素:3.64 オングストローム,窒素:3.78 オングストロームと窒素分子の方が若干大きい.ファン・デル・ワールス式の定数から見積ってみても,それぞれの値は若干小さくなるものの大小関係はそのままである.「ゴム材料の選び方,使い方」 オーム社,によると,ゴムに対する透過性 (透過速度) は,窒素は空気の約 1/3 である.それゆえいくぶんタイア圧 の経時低下は窒素充填の方が少ないことは納得できる.それにしても空気を充填しておいても抜けて行くのは酸素の方が多いということであるから,長い目でみれば,空気を入れ続けても中身は順次窒素単体へと近づく; もちろんこれはほんの少しのことなので,冗談というか言葉のあや.

 航空機のタイアには窒素が充填されている,それゆえ自動車にも,というのもうなずけない.まず,民間旅客機が飛行する上空,高度 10,000 m の気温は摂氏マイナス 60 度くらいになり,そこで水分の露結がないという要求に応えるのが第一義であり,つづいて,乗用車用タイアの内圧は 200 kPa 程度であるのに航空機用タイアの内圧は 1450 kPa 程度であって,着陸の際にタイアから空気が漏れ,近くに燃料が存在すれば火炎放射機となり得て,そうした危険を避けるという安全性からの要求が第二義である.自動車にはそこまでの要求はない.

 充填ガスが替われば加速/減速時の内部流動挙動が変わり,ガスとタイア内壁とのあいだの熱伝達挙動が変化するという可能性は別途存在する.これは簡単な熱力学で考えるわけにはいかない.数値計算をやってみようという方が出てこないか.*
* タイア内部の流動を考えてみたという方はいて,内部流動が解析的に解かれている:"タイヤの中の台風".

 理想気体の状態式 は 「気体はその種類にかかわらず,同じ性質,同じ振る舞いをする」 ということを謳っているのである.タイアの温度・圧力条件でなら空気も窒素も高い精度で理想気体とみなし得る.Joseph-Louis Gay-Lussac が 1802 年に発見したのが気体の膨張と温度との関係であり,「いくつかの異なる気体が,一定圧力のもとでは同一の熱膨張率を示す」 という現象であったことを思い起こしていただきたい.熱膨張において空気と窒素が違うなんてことはないのである.

 この記事はもともと,すぐ上のピリオドで終わっていたのである.水分を含む空気と窒素/純空気とで,走行中のタイア内圧にどれくらいの差があるか分からない場合には -> 理解が浅い,その二 へ.


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