理解するとはどういうことか 補遺
 これでは理解が浅い,その二



 別件で Search Engine を動かしていたら,偶然以下の記事に出くわした.課外活動団体が開いている BBS 掲示板である.「タイアへの窒素 N2 ガス充填は有意義か」 というところを見てのことらしい.

タイトル : 太田先生のページを見ていたら・・・?
投稿日 : 2005/04/16 (Sat) 02:46
だいぶ前に、タイヤ内の空気が熱で膨張し、空気圧があがるから サンレイクは、少なめに空気を入れているという話があった。 そこで、定積下で熱により空気圧がどれだけ上昇するか概算してみ たら、20→40℃で 0.5気圧くらいしか上がりませんでした。 この話をhotta君にしたら「水分も考えればもっと大きくなるよ」 と言ってたので考えてみましたが、結局計算方法が分からなかったので、タイヤ空気圧のことはしばらく忘れていたのですが、今日 太田先生のページを見ていたらこのことについて先生が解説され ていました。
水と空気がどのような平衡状態にあるかが分かれば計算できるのでしょう。 あと先生のページには、他にも答案の書き方についての苦言とかがありました。熱力IIが太田先生の人には、参考になるかもしれません。(ページの最後のほう)がんばってください・・・

タイトル : Re: 太田先生のページを見ていたら・・・?
投稿日 : 2005/04/17 (Sun) 02:23
タイヤに窒素入れたり、純空気入れたりして試すなんて・・・ 太田先生って面白い事やってるんだね。 どうもこれを読む限り水分が重要だね。
「平衡状態を解く」って聞くと実験でやった断熱火炎のプログラムを思い出すなぁ。 どんな計算してるのか良く分からなかったけどあんなので解けるんじゃない?

 水が関与していることを前提とすれば,そこから後は,どの程度になるかを推算するのは簡単なので,それを指摘するに止めておいたのだが,そのあとの評価もできないということらしく,愕然とさせられた.二人とも機械工学科の学生ですでに三年次なんだろう,大丈夫か.ここを見た納税者は税金を納めたくなくなくのではなかろうか.「菊と刀」 は今は昔で,当人はこれを恥ともなんとも思っていないと看て取れる.学生であるから未熟さが残るのは仕方無いことながら,その道のプロになるにはこれではいけないという気持ちが本人達にない.日本機械学会など,関連学術団体の会員にもなっていないし,そういう意識の片鱗もないのだろう.上掲の記事を含め,大人の社会ではない.光源氏の元服は十二歳のときである.成人式の意義や如何.

 その上,温度と熱とをどうやら区別できないようである.どういう計算をしたのか知らぬが,20o C 40o C で 0.5 atm も上がったら,それこそ走行安定性など議論できないではないか.教えられたことや,解答がなされているものなら解るが,その次へ自分で行く能力がついていない典型例である.後者は出された課題も理解せぬまま過ごしたことを告白している.重ねて,それは本人にとっては大変なこと (もちろん負の意味で) であるのに,事の重大さを自分で認識していないことも知れる.前者は,載ってもいない水分の計算があたかもそのページで解説されているという文章を綴っており,筋の通した書き方ができるようになるまでまだ遥かな時間が必要なようである.折角なので,以下に第零近似のようなものを挙げておく.

 気液平衡まで行かなくても,飽和蒸気圧さえ考えれば十分である (また,化学平衡と気液平衡とは別物である).トラック・バスなどの高圧タイアを除き,乗用車などの低圧タイアの内圧はゲージ圧で 2.5 atm くらいである.いま,それを絶対圧 350 kPa あたりに想定する.水の飽和蒸気圧は蒸気表を見ればすぐに分かる.熱力学の教科書巻末にも必ず付帯表があり,温度基準の表から,
  0o C: 0.61121,15o C: 1.07057,20o C: 2.3392,25o C: 3.1697,40o C: 7.3844,50o C: 12.351 kPa
などと読み取れる.

 いま,40o C において,水分は気化し,水蒸気分圧は飽和状態にあるとすると,全圧 350 kPa の場では,水蒸気分圧 7.3844 kPa,乾き空気分圧 342.616 kPa であり,ある容器内に,水蒸気 7.3844 mol,乾き空気 342.616 mol が存在すると想定できる.これの温度が 20o C にまで下がれば,水分 7.3844 mol のうち 20o C での飽和蒸気圧相当分 2.3392 mol しか気相で存在できず,残りの 5.0452 mol は液相である.同じく蒸気表から,20o C で気相蒸気の比容積は v'' = 57.7615 m³/kg であるのに対して 20o C で液相水の比容積は v' = 0.0173126 m³/kg であって,実に 57655 分の一に凝縮する.液相水容積を無視し,存在する気体のモル数は 342.616+2.3392=344.96 mol である.20o C と 40o C とで気相蒸気のモル数比は n40/n20 =1.0146 になる.このとき想定した水分がこれより多くても差し支えない.液相で存在している分があるだけである.飽和状態より少ないときは計算値が変わる.

 一方,20o C から 40o C に温度があがるときの効果については,容積一定でモル数変化がないとして,状態式 を使い,温度寄与圧力上昇比は,pT40/pT20 = T40/T20= 313/293= 1.0683 と出る.ここで考えている問題では,モル数増加と温度上昇とが同時に起こるので,双方の効果を合わせた圧力上昇比が p40/p20 =(n40/n20 )(pT40/pT20) = 1.084 になる.ここでは圧力上昇比を求めたが,本来は状態式 にそれぞれ nT の値を直接入れて比較すればよいのである.40o C で絶対圧 350 kPa であったものは 20o C に下がったとき絶対圧 323 kPa になっている.これと同じことを 50o C と 20o C の間でやれば,n50/n20 =1.0294,pT50/pT20 = 1.1344,p50/p20 =(n50/n20 )(pT50/pT20) = 1.135 になる.

 20o C においてゲージ圧で 250 kPa までコンプレッサからタイアに空気を入れ,走行しているときタイア内部の空気温度が 40o C になっているなら,そのときのタイア圧は 280 kPa になっている.窒素や純空気を充填するなら,モル数増加がなく,温度が圧力上昇に寄与するのみであるから,これは 274 kPa である.ここで,標準大気圧は 101.325 kPa としている.この最後の節でなぜ計算値がこうなるか分からないのなら中学校へ戻られよ.



 さらに,別のことで Search Engine を走らせていたら,これまた,キャンパス日記という Web site に下のように出ていた.単位取得難易度を主な興味としているようである.

 

 一回読めば理解できるかどうかの回数は別として,本は読めば解るように書かれているはずであり,教科書に使われる本ですらその例外ではない.書籍のレヴェルにはエレヴェスト山脈からマリアナ海溝までの高低差があり,読者の素養レヴェルにも天と地ほどの差があろうが,後世を含め,どれほどの高さの人が読もうが著者以外誰一人として解らないものならそれは欠陥本であろう.持参した本の中身と寸分違わないそのままの講義を聞き,本と同じことを板書されるのなら,受講者は自室でそれを読めば事足りるはずで,電車賃を払ってまで出かけて来るに及ばない.講義の時間内で,聴講者を解った気にさせることならできる.しかしそれは却って無責任な扱いである.熱力学はもともと解りにくいものであり,それを意識しないで理解へ近づくことはできない.もちろん解った気になっただけでは最終考査の問題は解けない.少しでも解るには講義という段階だけでは無理で,自らの咀嚼を経てどこが解らないかを絞り込まなければなるまい.どこが解らないかが判ってきたら,熱力学が少し解ってきたということであり,そこへ来たなら卒業してよい.それ以降足りないところは自分で補える.しかし,そこへも来ない段階では卒業する資格は無い.
 上の節に示した,分圧を考えれば済むような簡単なことを演習例としたことはないから,その簡単なことを 試験問題 にしたとしても,講義では出て来たこともない試験問題であると言い募るに違いない.熱力学の考査に熱力学以外の問題を出したことはないし,講義内容以外の試験問題を出したこともなく,そこに乖離は皆無である.数年前に出した問いに近いものを再試験問題にまぎれ込ませてあるのは,過年度多重受講生数消化対策であって,該当年度受講生救済用ではない.遅刻して受験できなかったというのは,何の断りも無く,勝手に席に着こうとしたがゆえである.



 少し前に卒業した,かつての学生と話していたら,話題がこのページのことになった.講義内容と試験問題との間に乖離があるかどうかという議論である.彼の表現によると,この Web site にある エンジンオイルの粘度と粘度指数 というところが例えば講義内容でであるとして,それに追加された エンジンオイルの粘度と粘度指数 補遺 というようなところが試験問題として出た,と言う.前者を聞いた段階で,後者を聞かずにそこまで諒解している学生など普通にはいない,というのが彼の意見である.当方からすると,それ以前の問題としか言いようがない.その "エンジンオイルの粘度と粘度指数" というところには "補遺" を含め,学問という部分は何も無い.そこでは単に定義を述べているにすぎないのだから.前者と後者で乖離があるわけもなく,換算するだけのこと,146 mm は 5¾ inch ですよというのと同等である.そんな換算のようなものを試験問題にしたことはない.まだ解っていないようである.


>Back to Homepage