スワール,タンブル,スキッシュ Swirl, Tumble and Squish
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4-ストローク機関の吸気 ディーゼル機関の混合気形成と燃焼


スワール Swirl と タンブル Tumble

 吸気弁を通して新気を吸入するのはシリンダにチャージを用意するためであるが,それに留まらず,シリンダでの燃焼をスムーズに進行させるための流動をチャージに与える役目も担う.吸入行程で付与される流動はおおまかには スワール Swirl と タンブル Tumble である.その様子を下の図に示す.スワールはシリンダ軸まわりの旋回流である.タンブルはクランク軸方向のシリンダ軸と直角の平面にある軸まわりの旋回流である.通常,シリンダ内にできる旋回流は下右側の図のように,これらが大なり小なり合成されたものである.

 旋回中心軸はシリンダ軸と常時一致しているわけではなく,しばしば偏心したり傾いたりするが,ほどほどであればいずれもスワールと呼んで差し支えない.タンブルはシリンダ軸線方向に下降・上昇するいわゆる縦渦である.

 吸入行程におけるシリンダ内の流れ は,こうしたスワールやタンブルという,シリンダ径に近いスケールのおおまかな流れに 乱れ Turbulence が付随したものである.

 圧縮行程でチャージが圧縮されたとき,スワールの旋回中心軸はシリンダ軸方向に向いたものであり,流動に許される場の径も圧縮の前後で変わらないから,アコーデオン型モデルとして右に図示したように,強度の大小は別として,圧縮上死点においてもスワールは存在し得る.

 一方,タンブルにとっては,圧縮上死点では通常僅かな燃焼室隙間高さしか許容されないから,一般には圧縮上死点に近づくとタンブルは,まず,三つ子渦に形を変え,さらにその三つ子渦も押し潰されて,ずっと小さいスケールの渦や乱れへと崩壊せざるを得ない.ただし,Wall-Guided や Air-Guided の直噴火花点火機関において,扁平なタンブルが残るようピストン頂面形状が工夫されている場合にはこの限りではない.


 上死点近傍の位相で,タンブルは比較的小さなスケールの渦に変わり,その タンブル崩壊 によりチャージに与えられる乱れは急速燃焼を目指す火花点火機関の燃焼場に欠かせないものになっている.そうしたことから,タンブルは火花点火機関においてしばしば議論されるが,ディーゼル機関では下に述べるスキッシュ Squish の陰に隠れてしまう.燃焼の場となる圧縮上死点近傍で,チャージ主流のおおまかな流れ方向やその速度を決めるのはまずスワールである.タンブルは崩壊して主流を失う.

 シリンダヘッドまわり,吸入ポートの配置と形状を工夫してスワールを付与する手法に螺旋ポート Helical Port と接線方向ポート Tangential Port の二通りある.それらを右に示す.


 Herlical Port では吸気弁隙間を通るときにすでに角運動量が与えられているのに対し,Tangential Port ではシリンダ壁に沿った接線的な主流が与えられることでスワールが構成される.Spiral Port, Directional Port という呼び方も昔はなされていた.

 スワールがどの程度付与されているかを表すのに,チャージの運動量モーメント (角運動量) を考える.運動量モーメントとは質点の位置ベクトル r と運動量ベクトル mw の外積 r×mw のことである.

 吸気弁隙間を通る新気の速度はどの向きにも均一にというわけではないので,その極限として,弁の傘部に衝立 Shroud が付いていて,その方向部位には流れ出ず,それ以外の方向には均一の速度 w0 で入って行くとする.特に Tangential Port ではこの考え方でも現象との乖離は小さい.

 その配置を右図のように仮想し,吸気弁位置をシリンダ軸中心から a,吸気弁傘部の衝立 Shroud が存在する角度を β,その位相を α とすれば,流入新気の運動量モーメントは,シリンダ軸中心から見て,右中段の図で表されるように,


ここに,hin は吸入弁隙間高さ,ρ は新気の密度である.この吸気弁からの流入によって,シリンダには最外径をシリンダ径 Dcyl,角速度を ω とする剛体渦が構成されたと考えると,その剛体渦の運動量モーメントは,シリンダの高さを Hcyl として,右下の図で,


 前者の運動量モーメントと後者の運動量モーメントとが等しいとおくと,

 これが下死点における状況である.その後,圧縮されて上死点に至る過程で,スワールの運動量モーメントはかなり減衰するが,何割かは残る.また,ここで取り扱っているような強制渦 Forced Vortex から自由渦 Free Vortex へとその形態を変える.以下に述べるような,ピストンにキャヴィティを持つような場合にはシリンダ径 Dcyl の代わりにキャヴィティ径 Dcav を入れて考えればよい.


 スワールの回転角速度のクランク軸角速度 ωN に対する比は スワール比 Swirl Ratio と呼ばれる.圧縮終り近くの燃料が噴射される時点において,減衰するものの依然残ったスワールの角速度 (ωsw)declined,燃料噴射期間 θinj,燃料噴射ノズルの孔数 znz とのあいだの最適関係は,燃料噴霧あたり扇面角度の関係 から,スワール比で表現して以下のようになる.

 スワールの実測例を下に示す*2.圧縮行程ではシリンダ軸に比較的近いところを軸とする強制渦であるが,膨張行程に入ると壁近傍の速度が急速に低下して自由渦に移行することが知られる.シリンダ軸方向の流れ成分は小さい.高さ方向速度分布などの数値計算結果も論文に出ている.


 *2 Itoh, T., Takagi, Y., Ishida, T., Ishizawa, S. and Ishikawa, T.: "Analysis of In-Cylinder Air Motion with LDV Measurement and Multi-Dimensional Modeling", COMODI 85, (1985), 185. http://www.jsme.or.jp/esd/COMODIA-Procs/Data/001/C85_P185.pdf


スキッシュ Squish

 直接噴射式ディーゼル機関ではピストン側にキャヴィティ Cavity を設けてそこを燃焼室とする形式が採られる.このとき圧縮行程でのピストン移動は,シリンダからピストンキャヴィティ内にチャージを押し込もうとする流動を生む.これを スキッシュ Squish という."グシャと潰す" というのがこの語彙のもともとの意味である.圧縮上死点を越えて膨張行程に入るとキャヴィティからシリンダへの流れとなり,それは逆スキッシュ Reversed Squish と呼ばれる.比較的小型のディーゼル機関ではこの流動が燃料と空気の混合に寄与すると期待される.火花点火機関の燃焼室には一般にキャヴィティがないから,スキッシュが考慮されるのはエンドガス部位でノッキングが起こるという問題に関連しての場合のみである.

 スキッシュ押し出し速度 wr とキャヴィティへの流入速度 w を右図のような配置で考える.チャージの粘度や壁との熱伝達を無視して,ピストンの移動で容積が小さくなる部位にあるチャージが容積の変化しない空間へと移動するとする.基本は幾何学であるが,その移動と同時に,全体として圧縮されているので,チャージの密度 ρ が上がる.ここに xclr はシリンダの隙間高さである.関係式はまず,

微小時間 dt については,

これから,スキッシュ押し出し速度 wr については次のようになる.


シリンダ隙間高さ xclr での表現するために,

と書き,この関係を入れて整理すると,

シリンダ隙間高さ xclr ならびにその時間変化は ピストン-クランク機構 から導くことができて,押し出し速度,流入速度を評価できる.一例を右に示す.


 密度変化を考慮したとしても上述の考察は準静的な幾何学であって,実際にはもっと複雑である.


 上の図は軸対称三次元数値計算でスキッシュ流の経緯を示したものである*3.圧縮行程では,上掲の幾何学を敷衍したような比較的単純な押し出し流れになっている.上死点 TDC に近づくにつれ,キャビティ内部,お椀の部分に巻き込み流れが形成され,上死点前 10o でドーナツ形渦らしきものができる.特徴的なのは上死点 TDC 通過後の挙動であり,キャビティのリップ部に強い吐き出し流れが生まれる.この図にはそこに生じる乱れ u' は示されていないが,この吐き出し流れと乱れは,ディーゼル燃焼での後燃え低減や "すす" の酸化に大きく貢献する.

 *3 三浦登・福田瑞穂:自動車設計と解析シミュレーション, (1990), 培風館, 152.ISBN4-563-03458-4, ¥5800


スワールとスキッシュの干渉

 スキッシュでなら,吸入時の容積効率低下なくして燃焼室に数十 m/s の流れをつくることができる.高回転形ディーゼルには必須である.

 しかしながら,キャビティの形状やスワール比との関係はきわめて複雑である.リエントラント形キャビティにおいてすら,キャビティ軸を中心とする単純・唯一のドーナツ形渦は容易には形成されないとされる.キャビティの底側とキャビティの入口側とで 回転方向が逆のドーナツ型渦が対にできる ことの方が多いと言われている.かつて,スキッシュとスワールが同時に存在する場合にはスキッシュによる流れは僅かで,スキッシュの燃焼への効果は認められないとされたこともある.さすがにいまはそこまで否定的に言われることはない.

 上図は,スワールが共存する場合について,リエントラント形キャビティ内の流れを CFD で計算した一例*4 である.下段のスワール比 0.8 では,単純なドーナツ形渦が上死点前後にわたって続くのに対して,上段のスワール比 1.7 では,ドーナツ形渦は明確でなく,回転方向も逆になっている.

 *4 Uchida, N., Shimokawa, K., Kudo, Y. and Shimoda, M., "Combustion Optimization by Means of Common-Rail Injection System for Heavy-Duty Diesel Engines", SAE Paper 982679, (1998)

 また別の例*5 を示そう.吸入行程でスワールが付与される場合には,キャヴィティ内部にもスワールができているので,圧縮行程でスキッシュ流がキャヴィティに流れ込むと,もともとあったにスワールとスキッシュがキャヴィティ内で干渉し,スワール無付与の場合とは大きく異なった渦流れがキャヴィティ内にできることがある.

 右の図がそれで,上側のスワール無付与の場合には,ドーナツ状環状渦はキャヴィティ周辺部で底から開口部方向へ,下から上への向きであるのに反し,下死点でスワール比 2.5 のスワールが付いている下側の図のドーナツ状環状渦は,ドーナツ状環状渦が見られるとは言え,キャヴィティ周辺部で開口部から底向へ,上から下へへと向いている.環状渦の形状も複雑である.それだけでなく,キャヴィティ中心部にもうひとつ別の小さいドーナツ状環状渦ができているのが見える.

 教科書などにあるスキッシュ流れの模式図で,キャヴィティ内ドーナツ状環状渦の巻方向がバラバラなのはこうしたことが下地にあるからであろう.

At 5o bTDC, no swirl added at BDC
At 5o bTDC, swirl ratio of 2.5 added at BDC

 *5 Merker, G. P., Schwarz, C., Stiesch, G. und Otto, F., Verbrennungsmotoren - Simulation der Verbrennung und Schadstoffbildung, 3. Auflage, (2004), Teubner-Verlag, Stuttgart


 高圧燃料噴射の時代になって,混合 Mixing への重要性はスワールからスキッシュへと移っている.日常会話での "Squish" には "役立たず" という意味もあるが,ディーゼル機関の世界にはそれはない.

 スワール,タンブル,スキッシュはシリンダ内ではスケールの大きな流れである.噴射された燃料が燃えるにあたり,後燃えを減らしたり,すすの生成を抑制したりするには,そうした主流ながれに伴う乱れが別途大きく寄与する.燃焼場にいかにして,最適のクランク角度位相で,乱れを与えるかについても考えなくてはならない.

 火花点火機関で特に重要な "タンブル Tumble" については,詳しく述べるために別途 タンブル崩壊乱れ のページに移した.



  Still not fixed.


名古屋工業大学 機械工学科の 「エンジン工学」 という科目で講義していた内容の一部,もしくはそれをすこし増補したものである.
読者を想定している書きようであるかもしれないが,聴講者のある講義が基であるがゆえであり,本稿の趣旨は自分のためのこころ覚えである.

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