圧電式指圧計 Piezo-Type Pressure Indicator
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チャージアンプ Charge Amplifier
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 シリンダ内チャージの圧力をその時間経過として測定するには圧力変換器,指圧計 Pressure Transducer, Pressure Indicator, Pressure Pick-up が必要である.指圧計としてよく使われるものは,歪みゲージ式と圧電式であり,それぞれに長所,短所を併せ持ち,適材適所で使用される.右図は圧電式圧力変換器の一例である.
 
 圧電式圧力変換器の長所はその 高い周波数特性 であり,衝撃波の到来や火花点火機関のノッキングを計測する場合には必須である.もうひとつの長所は 広いダイナミックレンジ である.ひとつの素子で数気圧から数百気圧までの計測に使える.一方,センサの出力インピ−ダンスが極めて高いため,入力インピ−ダンスの高いアンプで受けなければならず,測定装置周辺の浮遊容量を拾いやすいため,直流ドリフトが避けられない*1.つまり,急激な圧力変化の交流は正確に測れるが,真空からの圧力というような,直流的絶対圧力値が不確定になりやすい.計測しようとするにあたり,それまでに貯まった電荷をまず捨て,捨てたら直ちに測ることが必要であり,その初期状態圧力が別の手法で既知になっていることが望ましい.Farnborough 型の薄膜接点を使って,途中のどこかでひとつ参照絶対圧信号を与えるという手法を併用することも考えられている.

 圧力情報は電圧出力にして得るが,電圧出力を得るためにはチャージアンプ Charge Amplifier で駆動されなければならない.圧力変換器を自作するのは難かしい*2から,一般には測定器メーカから購入する必要があるが,それを駆動するための Charge Amplifier は,電気回路と部品を選び,慎重に配置すれば,自作しても測定器メーカの既製品と同等もしくはより精度の高い良いものを得ることも不可能ではない.下記が自作した Charge Amplifier の一例である.  圧電式圧力変換器:Kistler, AVL


 Kistler 601A は広く永く使われている代表的な圧電式圧力変換素子である.感度は -300 pC/MPa くらいである.エンジン指圧計として使う場合にはこの素子を水冷アダプタ内に組み込む.水冷アダプタの螺子は通常の点火プラグのそれと同じ M14, P=1.25 である.最近は水冷アダプタ不要の素子も出ている.上図の回路は,これも広く永く使われてきた Kistler 社の Model 504 というチャージアンプを参考にして組んだものである.Kistler 社の Model 504 はトランジスタのディスクリート回路で構成されているが,その初段に使われている MOS FET トランジスタはごく僅かなノイズで容易に飛んでしまい,それには,たびたび,おおいに泣かされたものである.いまは Model 5011B が Kistler 社の標準チャージアンプになっている.

 上の回路はトランジスタのディスクリート回路を OP アンプ IC に置き換えたもので,前段がいわゆるチャージアンプである.圧力をダイアフラムに受けて圧電素子が出す電荷 ΔQ はチャージアンプで -ΔQ/C1 なる電圧に変換される.後段が箇々の圧力変換素子の変換定数の差を吸収するための連続可変ゲイン電圧増幅器である.後段の可変ゲインで,例えば電圧出力を圧力差 1 MPa あたり 1 V などと,きれいな整数関係に合わせる.チャージアンプのゲインを変えるにはフィードバックキャパシタ C1 の容量を変えればよい.ただし,E 系列と呼ばれる等比級数に分割された値しか採れない.それゆえ前段で連続可変ゲインにすることは困難である.電荷/圧力の変換定数は負なので,電圧出力は正になる.

 上図のように圧電素子をチャージアンプに繋ぎ,"基準重錘型圧力計" を用いて既知の圧力を加え,静的に検定・校正 Calibration する.チャージアンプ単体の機能は圧電素子を繋がず,Calibration Input に交流発信器をつないで,入力と出力とが同形かどうかオシロシコープで調べればよい.

 "Time Constant" となっているスウィッチは,フィードバックキャパシタ C1 に貯まる容量をある一定の速度で逃がすためのものである.エンジンが連続的に運転されているとき,指圧計から出てくる本来の圧力信号だけなら問題ないのであるが,系の浮遊容量がそれに乗っていると,それが積分的にフィードバックキャパシタ C1 に蓄積されて,零レヴェルの直流ドリフトを招く.チャージアンプの入力バイアス電流が無限小でないことも直流ドリフトを与える.放っておくとチャージアンプの出力はアンプの電源電圧近くに達して飽和し,圧力経緯を示すべき本来の交流的信号が発せられなくなる.これを防ぐために,零ドリフト分くらいをフィードバックキャパシタ (図の C1) から抵抗を介して常時逃がし,何時見ても圧力経過が見えるというようにする機能である.上記の,校正 Calibration をする際にはもちろんこれを切っておかねばならない.つまり,校正に懸かる数分程度の時間,この圧電式圧力変換素子とチャージアンプの組み合わせというシステムは,両者を繋ぐ低容量ケーブルを含め,直流ドリフトが無視できる程度の安定性を持たねばならないというわけである.従って,エンジン連続運転して圧力履歴を採取するときでも,直前に Zero SW で出力レヴェルを一旦零にリセットし,"Time Constant" を切って測るのが望ましい.小さな "Time Constant" が設定されているということは,圧力信号のいくらかを捨てているという意味であることに留意されたい.そうして採取された圧力データから算出された熱発生速度には定量性がなく,詳細な議論の資料にならない*1.歪みゲージ式指圧計で計測した場合に較べ,圧電型で計測すると圧力波形が,特に膨張行程で "痩せる" とよく言われるのはこれに因ることが多い.

 チャージアンプではフィードバックキャパシタ C1 を短絡,すなわち Zero SW を押したときに直流電圧出力が零 0 となり,スウィッチが開いたとき以降の偏差が出力される.Zero SW を押したときのときの圧力が大気圧であれば 101.3 kPa に相当して,例えば 0.1013 V が出力されるような機能は用意されていない.つまり,直流の絶対値は得られず,あるところを基準とする相対値でしかない.歪みゲージ式ではセンサ自体に原点を持つのでそうしたことが可能である.この点も圧電式の欠点であるかもしれない.基準とするあるところを特定すには別途手段が要る.絶対真空を用意してそこで Zero SW を押した後に測定すべき圧力場に繋ぐということが可能であれば直流レヴェルで絶対値が得られる.

 前段チャージアンプに使われている OPA111A はいまは亡き Burr-Brown*3 の OP アンプであり,極めて高い入力インピ−ダンスと極めて低い入力バイアス電流特性を有する最初の OP アンプ IC といえるものである.これが発売されて,われわれ機械屋にもチャージアンプや電流電圧変換 I-V アンプを容易に自作できるようになった.

 ピストンエンジンに付ける指圧計は通常シリンダにひとつ,多くとも二個であるが,衝撃波管では衝撃波の伝播速度と到達時期を知るために数個設置する必要がある.その費用がばかにならない.チャージアンプを自作するメリットは衝撃波管関連の実験装置を組むときに出てくる.上図には示されていないが,図中の "Zero" スウィッチとして手動押しボタンの他に,リードリレー式のものが並列に設けられていて,パルス信号で遠隔操作できるようになっている.衝撃波管などに,複数台のチャージアンプを練成で使うときには,そうして一斉に出力レヴェルを零にリセットする.

*1 チャージアンプのフィードバックキャパシタ C1 を短絡,すなわち Zero SW を押したままにすると,圧力履歴ではなく,その微分履歴 dp/dt, dp/dθ が得られ,それには直流ドリフトは含まれない.また,小さすぎる "Time Constant" を与えたことによる誤差を含まない.ドリフト分を含む,あるいはドリフト分以上に電荷を逃がした可能性がある圧力履歴を記録せず,微分波形履歴を記録して,後ほどオフラインでそれを積分することで圧力履歴を得るというやりかたをしている研究室もある.圧電式圧力変換素子とチャージアンプの組み合わせでは,それくらいドリフトに悩まされてきたということである.またこのことから,チャージアンプというのは積分アンプであることが分かる.圧力の時間微分履歴 dp/dt, dp/dθ から圧力履歴を求める際には,再びその積分定数をどう採るかという問題が浮上する.少なくともどこかのクランク角度位相一箇所であろうとも,そこの圧力の絶対値が既知でなければならないと積分定数が決まらない.こうしたことに対応できる Farnborough 型接点の出現に期待する.

 チャージアンプにフィードバック抵抗を入れて Time Constant を与えるということは,圧力波形とその微分波形という両極の中間にあたる信号を作ってそれを採取していることになる.あるいは High-pass Filter を掛けて低域をカットしているというように解釈してもよい.

*2 衝撃波関連の教科書には旧来,圧力センサの製作法が掲載されている.それに倣っていろいろ試みたが,広い範囲で直線性が出るものを作れなかった.衝撃波を扱う場合,入射衝撃波速度で圧縮温度を算出するから,その到来時期を知ればよく,波形そのものが正しくなくてもよいということが多いが,ピストンエンジンのシリンダ内圧力計測では波形が命である.

*3 Burr-Brown の製品はその名称とともに Texas Instruments に引き継がれている.OPA111A はいまは Discontinued になっているが,OPA124 あたりが代替品であろうし,Analog Devices をはじめ,同等品はその後多く出ている.OPA627 は現行品である.上図の下にコメントしてある後段用のアンプ Harris HA2525 も高速 OP アンプの決定版には成り得なかった.NS の LH0032 も使った.代替としては NS の LM6361 であろうが,これもいまは Discontinued らしい.


・ チャージアンプ取り扱い注意事項

1. "Time Constant" という機能は,とにかく波形が見える,ということを主眼としたものであるから,上に述べたように,定量性を望む場合には切らねばならない.そこの表示が "Short", "Medium", "Long" などとなっているので紛らわしい.たいていは "Long" のところで "Time Constant" という機能が切れる.

2. とにかく湿度を嫌う.西欧の低湿度の国で使うことが前提となっているのかと思うほどである.日本には,特に名古屋の夏の気候には向いていない機器である.使わないときにはアンプごとデシケータに入れておくのがよい.しかし,何台ともなるとこの手は使えない.アンプのケースに穴を開け.そこから窒素ガスを送ってパージするという手がある.ケーブル入力接栓:BNC コネクタなど,外側のみならず狭い内部もラッカーシンナやアセトンなどを綿棒につけて拭い,脱脂・清潔を保っておく.併せて,ときにはケースを開け,入力接栓から回路基板の入力点,およびその周辺の脱脂をはかる.

・ チャージアンプ製作上の注意事項

1. ケーブル入力接栓:BNC コネクタには接地されていない絶縁型を使う.基板にテフロン端子を立て,OP アンプの負入力ピンを,基板にではなく,そこへ直接繋ぐ.このテフロン端子へはすべて空中配線する.この周りの徹底した脱脂を行う.OP アンプの負入力ピン:テフロン端子に繋がる線にロータリスウィッチなどを配置しない.自作の場合,フィードバックキャパシタ C1 をロータリスウィッチなどで切り替えられるようにしない.直付けすべきである."Zero", "Time Constant" のスウィッチも OP アンプの出力ピン側に付ける.電圧出力用 BNC コネクタは接地型でよい.

2. 電源トランスや電圧安定化基板をチャージアンプ基板とをケース内に同居させない.直流 ±15V 電源にはもちろん安定化されたものを用意する.場合によっては積層乾電池二個使って,直流 ±9V 程度で駆動するのもよい.

3. フィードバックキャパシタ C1 には良質のスチロールコンデンサを.後段の連続可変ゲイン調整用ヴォリュームには 10 回転ポテンショメータを,ロック機構付きのダイアルと合わせて.



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