身につける服や靴 |
Clothes, What am I wearing? |
服飾評論という業界があるということを知らないわけではなかったけれども,そうした方面には興味はなかった.図書館で醸造関係の書籍を物色していたとき,隣の棚にある "九割の人が間違ったスーツを着ている" とか,"九割の人が間違った買い物をしている" という副題のついた本が目に付いたので,序でに借りてきて読んだ.そのときならびにその後,あわせて下に示した書籍に目を通した.これらの書籍にある "成功する男の","成功する人だけが知っている", "抜き出る男は" * というような題目からして中味の "胡散臭さ" が知れようというものであった.賛同できるいくつかの事項がないではないが,そこにあるような内容で他人を啓蒙してはいけないのではないかという思いを拭い切れない.それでこのページを用意する気になった.2014 年 5 月の連休である.
宮崎俊一:成功する男のファッションの秘訣 60 -- 9 割の人が間違ったスーツを着ている -- 宮崎俊一:成功している男の服選びの秘訣 40 -- 9 割の人が間違った買い物をしている -- 落合正勝:成功する人だけが知っている着こなしのディテール -- 組み合わせの技術を学ぶ -- 落合正勝:服飾評論家が見てきた洒落者たちの風景 -- なぜ,ケネディはボタンダウンを着なかったか -- 中島 渉:スーツの法則 -- 抜き出る男は第一印象で差をつける -- |
森岡 弘:男のお洒落の方程式 -- たかが見た目で損をしない -- 森岡 弘:男の休日着こなしの方程式 森岡 弘:男のファッション練習帖 |
* 米国で今も読み継がれているといわれる John T. Molloy: "Dress for Success", Peter H. Wyden, 1975, ISBN 0-883-26078-6 ならびに "John T. Molloy's New Dress for Success", Warner Books, 1988, ISBN 0-446-38552-2 を意識しての命名だと思われるが,"for Success" の方にはまだ泥臭さがない.
"日本人のほとんどはスーツのサイズが合っていません。カッコよさにセンスは不要。サイズを正しくするだけ!" と仰るのは尤も (もっとも) なれど,正しいサイズとはどういうものかが定義されているわけではない.たいていの人はひとサイズ大きいものを着ているというようなことが指摘されている.身長・胸囲/胴囲をもとにした "YA 体", "A 体", "AB 体", "BE 体",それぞれの号数で "3号" から "8号",計 24 サイズが我国で流通している既製服のそれであろう.これらのなかのどれかで適う人は幸せである.合う服が我国にない場合にはどうするのか.
自分の肩に服の側がきちっと嵌まってくるかどうか,そこが服を選ぶ先ず最初の関所である.肩にしっとりと嵌まってこそスーツの上着でありジャケットである.もっとユルユル,服の肩先が自分の肩よりズッと外に出ているのが自分の好みというようなことはまずあり得ない.続いての関門は,首から肩先へと繋がる肩線の形状である.肩線 Shoulder Line については下方で項を改め,写真も挙げる.英吉利的な肩線は U 字のように肩先で上昇し,肩線と袖との "縫い目 Seam" から袖側が膨らむ.これに対し,亜米利加服の肩先はいわゆる "Natural Shoulder" であって,Seam から袖側へ上方への膨らみがない.つまり,肩線が U 字のように肩先で上がらない.
どの肩線 Shoulder Line を好むか."自分の肩に嵌まり,肩線も好みのもの",そこが選択の原点であり,それは基本的にどこのメーカのどの銘柄をという決定になる.言わずもがな,自分の体躯に合うサイズが用意されていなければ,いくら肩の嵌まりが良くても購入に至らない.サイズについては順次下方で述べる.
* 中島 渉:スーツの法則 -- 抜き出る男は第一印象で差をつける -- には肩の納まりが大事であるとの指摘がなされている.
まだ大学,学部 3 年生のとき,昭和 38 年, 1963 年ころに上着を作ってもらった."作ってもらった" というのは親が払ってくれたという意味である.大阪心斎橋にかつてあったニッケ (日本毛織) ショウルームであった.当時,自分の躯に適う既製服はなかった.時の経過とともに,行く仕立屋レヴェルが少し上がって,神戸三宮の洋服屋で誂える (あつらえる) ようにもなった.そのときまだ "Bespoke", "Sartoriale" などという語彙は頭にない.こうしたときに一番問題になったのが "肩の納まり".仮縫いを重ねれば重ねるほど "肩の納まり" は不自然なものに変わり,左右に差が出てくるのであった.自分の体躯が歪んでいてそこに問題があったに違いないが,この段階で "肩の納まり" がその人の服にとってどれだけ重要なことであり,そこで本来の服としての Form と "肩の納まり" とをどう妥協すべきかを学んだ.昭和 42 年, 1967 年,大学院修士課程を修了するときに,いわゆるディレクターズスーツ Director's Suit (Stroller, Black Lounge) なるものを誂えてもらった.これの上着は 47 年経過したいまでもなんとか着ることができる.
1980 年代 (昭和 55 年から) になって,ようやく国際学術集会に出席して論文発表ができるようになった.UC Berkeley で開催された学会の序でに San Francisco にある Cable Car Clothiers とか Brooks Brothers とかの店に寄って既製服 "Ready-made", "Confezionato" に手を通してみると,肩の納まりが思いのほか悪くないのである.この段階で "誂え服 Bespoke", "Sartoriale" から離脱し,以降これまでずっと既製服で過ごしている.すでにそのとき,仕立代を払ってくれる親も喪っていた.一着の代金は一挙に半分以下に低下し,衣服費は大きな問題でなくなった. * Berkeley から San Francisco へ向かう鉄道 BART, Bay Area Rapid Transit はかつては日曜日午前中は運休であった.いまは 8:00 am から動いている. |
もちろん,誂え服から既製服に心変わりした理由はそれだけではない.アメリカ調の肩と肩線を出すのは仕立屋の技量にも拠るのであろうが,誂え服ではなかなか真っ当な "Natural Shoulder" が得られないというようなこともそのひとつであった.上の写真は望むところの "Natural Shoulder".ここで言う "肩に嵌まる" と言う表現は,着たときにも,肩ならびに肩線,あるいはまた,それらと腕との関係がこの写真と変わらないというようなことである.実際に着てみると,ハンガーに掛けて眺めた状況から変わってしまう服もないではない.
"誂え服 Bespoke, Sartoriale" と "既製服 Ready-made, Confezionato" との中間に位置する形態に "Made-to-Measure, Su Mizura" というやりかたがある.Milano の M. Bardelli などへ行けば,袖先などまだ仕上げられていない既製服が数多く懸かっている.まだ購ったことはない.我国ではこういう形態は普及していないようである.ただし,イージーオーダとかパターンオーダとかも "Made-to-Measure, Su Mizura" と呼ぶのかもしれない.
上着については,現在,アメリカのサイズ表示で "41-Long" とあるものを購入している. この "41" は服の側の大きさではなく,躯の胸囲を表しているようである.もちろん単位はインチ.躯の太さ・横幅をこれで代表させ,身長・縦寸の大小への対応に "Short", "Regular", "Long" の三種類がおかれる.それ以外に "Big & Tall" などもある.
着られる服であるかどうかは,上記の表示サイズを得たうえで,下記の四寸法を知ればほぼ判定できる.
寸法測定は平らなところに置いて Measurements taken with garment lying flat 着丈: 後衿ぐり中央から後身頃裾まで |
身幅 Chest は服のサイズ Tag の数値,胸囲寸の半分に相当するものであるが,躯ではなく服の寸法なので,服を着て動けるだけの余裕を持たせた値になっている.Brooks Brothers の紺ブレザー,41-Long, "Madison Fit", 比較的最近,2013 年夏に購入したものを測ってみると,
着丈: 81.5 cm (32"), 身幅: 54 cm (21-1/4"), 肩幅: 46 cm (18-1/8"), 袖丈 64.5 cm (25-3/8") であった.アメリカ人は平均的に "手が長い" *.袖丈を 1 インチほど詰めるだけで自分にピッタリと合う. * 物理的な寸法以上の意味を込めているわけではない.
かなり以前に我国で購った J. Press, オンワード樫山 の紺ブレザー,AB8, C100-W90-T185 の実寸は,
着丈: 79, 身幅: 58, 肩幅: 48, 袖丈: 62
である.日本サイズの既製服で,とりあえず着ることができるのはこれだけであるが,身幅と肩幅が広すぎ,着丈が 2 cm ほど足りない.表示の C100-W90-T185 の意味は 胸囲 100 cm,身長 185 cm あたりの人向けであると思われるが,そう違わない体躯なのに,現実には自分の服になるというわけではない.
身幅は 54 でピッタリ,これ以下はだめ.肩幅は 47 よりも 46 の方がよい.着丈は 81 はあった方がよい.80 でもやや短い感じ.袖丈は 61-62 に縮める.着てみて袖丈を決めた方がよいが,おそらく 61 でも問題ない.というあたりで,自分の服のサイズを認識している. なお,"着丈" の適正値もしくはガイドラインは何で決まるのかは,上に挙げた書籍には定義されていないし,説明もない.奇妙に聞こえるだろうが,"着丈" は,下で述べるズボンの "股下 Inseam/Inside Leg" と同寸ということではないであろうか.上下のバランスからしてそのあたりになる.股下と同寸よりやや短めにすれば軽快感やスマートさが出る.右に挙げた写真では着丈は短めであり,着丈で重さや軽さが出るといった状況を判断するためのひとつの目安になろう.ただし,短めの着丈は年寄りの若作りには効かず,単に貧乏臭くなるに過ぎない.中年以降の人ならこの写真の着丈よりもう少し長目の方が良い.やはり,着丈は "股下" と同寸 が基本.32 inch = 81 cm. |
アメリカに行く機会より欧州に出掛ける機会の方が圧倒的に多いのに,コート Coat などを除き,欧州で服を買うことはまずない.アメリカで売られている既製服では,上述のように,身長の大小に対して "Short", "Regular", "Long" の三種類が用意されているけれども,欧州ではそれは一般的ではない.ほぼ "Regular" だけと言ってよいのではなかろうか.全く無いというわけではないらしいが,"Long" に相当する服はほとんど見つからないのである.欧州の服のサイズは躯の胸囲を半分にして身幅とみなした数値を cm 単位で表したものである.1 inch = 2.54 cm なので,US41 は 41×2.54÷2 = EU52 である.と,一概に言い切れるかというとそうでもない.UK/German/Italian/French sizing はそれぞれ微妙に異なる.また,奇数サイズ,例えば 51 や 53 などはおそらくない.
現地で試着を重ねてきたので,必ずしもアメリカまで出掛けなくとも,Mail Order で服を購って,それで大きな失敗はない.Brooks Brothers, Lands' End, Jos. A. Bank, Paul Fredrick, J. Crew, Ralph Lauren, Paul Stuart など,Tag には 41-Long とあるものでも,服の大きめ・小さめなどを含め,それぞれの特徴がある,そういうこともおおよそ把握した.もっともアメリカでとて,どれにでも "Long" があるわけではないし,もとのサイズ "41" すら品揃えにないものも少なくない.Only even R sizes, no odd size of jacket. というのも普通のことである.帰国便の出る空港で荷物を預けて身軽になり,あと一時間あるというようなときに,空港内の店で試着し,経験値を蓄える.我国とは異なり,膨大な品揃えで顧客を待つ市内の店では,既製服ながらも,客の体形と好みに極力合うものを店員が絞り込んでくるので,買わずに店を出られないということになりがちであるが,空港の店でなら,買うことを前提にしないで遠慮なく試着できる.
要するに,自分に合う服が国内で調達できる方には何も言うことはないけれども,そうでない方には国内で服を買うという意識を払拭するのがよく,欧州で合う服があればありがたき幸せ,そこで見つからなくともアメリカでなら,順次調べて行きさえすればなんとかなるというただそれだけのことかもしれない.自分には 41-Long なるサイズで適する.なかでも,Brooks Brothers の 41-Long, Madison Fit の肩が好ましい.著名ブランドを選んでいるということではない.Lands' End や Paul Fredrick のジャケットでも同サイズで合う.しかし,やや甘い.
ただ,アメリカの服を着る欠点がないわけではない.内ポケットの深さが相当に浅いので,日本の札が入る長財布なら頭三分の一が飛び出て,ボタンはかからない.不注意に上着を脱ぐと,財布がどこかに飛んで行って大枚を失う.別途対策が必須.もっとも,我国の夏期に守りとおすのは困難ではあるが,上着は本来脱ぐものではない.
永く文部教官,大学が国立大学法人になってからの数年は大学教員,それ以外の職業についたことがない.仕事は "教育・研究" ということになっており,日常パリッとした服を着ていなければならないという職業ではない.所属は工学部機械工学科の実験系であるから,大学で作業服を着ている時間も長い.
職業上見苦しくない服を着なくてはならないという局面は,学術講演会で論文を発表するとか,他大学へ特別講義に行くとか,工学鑑定を裁判所から依頼されて宣誓に行くとか,鑑定人尋問のために出廷するとかというときに限られる.何度かそういう場で他の人の服装を眺めていて,スーツである必要はなく,ジャケットとズボンで差し支えないと分かってきた.学術講演会の付帯行事で Laboratory Tour などもあり,潤滑油に塗れた歯車などが置いてあったりするから,飛び切り上等の "誂え服 Bespoke" で行くと,その服を汚したときの損失があまりにも大きい.既製服でなおかつ上下別のセパレーツなら,床に膝をついてズボンに油をつけてしまっても,上下あわせて同時にではなく,片方を失うだけで済む.貧乏人が採るべき "被害最小の原則" *1 にかなう.
そうこうして行き着いたのが上着は紺のブレザー,ズボンは Khaki ないしは Stone の綿 Twill トゥィルパンツという組み合わせであった.
紺のブレザーは制服の気風を残したものであるし,綿トゥィルパンツは将校が日常に履く軍の実務制服を原点としたものであるから,それなりの質実剛健さもある.これを自分の定番として停年退官までのおよそ 25 年を過ごした.右の写真は Dessau Gas Engine Conference での状況である.写真で分かるように,欧州で開催される学会で,このスタイルが大勢ということはまずないが,それで問題ない. |
下に履くこのズボン,Brooks Brothers で "Advantage Chino" *2 と呼びならわして,ただの Chino と区別し,Lands' End では "Dress Twill" と呼び, Casual Chinoと区別している,それらの前者を採る."綿パン" ではあるが,仕立て方はスーツの対として履くズボンと変わらない.もちろん,"折り山線 Crease Line/Pleat Line" は必須.胴前のプリーツについて,"Unpleated"/"Plain Front" を選ぶか "Pleated" を選ぶかは次項で述べる上着の Fit との関係で決めるべきものである.また,裾を シングル折り返し "Hemmed" とするか,ダブルカフス "Cuffed" とするかという選択が付け加わる.自身のサイズには,胴廻り Waist と股下 Inseam を,35-32 のように指定する.
腰廻り Hip は指定できないので,そのブランドで出している Classic Fit とか Slim Fit あるいは Traditional Fit,Tailored Fit とかのなかから合うものをさがす.このとき股位置での横幅,いわゆる 渡り "Fork, Thigh width at fullest part" 幅を確認するのがよい.サイズ 35 のズボンならこの値は 15" くらいである.近年我国で売られているズボンでは,この渡り幅が小さく,13-1/2", 33.5 cm しかないというものも多く,昔日より極端な細め指向になっているように思う.また,我国では Traditional, Tailored, Slim Fit の選択肢がほとんどないのも残念である.
自分に合った股下 Inseam 寸法をどう決めるかの判断に "Break" という概念がある.ズボンの下端が靴の甲に当たって裾近くにできる弛み たるみ のことである.ここに僅かな弛みを残すのを "Medium Break" とか "Short Break" と言い,それが真っ当な丈である.そこからいくらかの偏差はその人の好み.ズボン丈が短か過ぎてスッテンテンなのも大人として恥ずかしいが,"Full Break" は Gambler のものとする考えもあるので注意が必要である.Waiter にはもちろん,レストランの黒服マネージャには "Short Break" より長いズボンは許されないとも聞く. ズボンは Hip で吊ってはくものである.つまり,ベルトが水平ないしは背骨側に上がっているということでないと,すっきりした垂直線が出ない.中年になって腹が出てくると,それとは逆に,腹で吊ってはくことになり,前が上がるので,ズボンの側面に後ろ下がり 45o くらいで皺が波状に何本も付く.右の写真はその一例.上着の肩に出るたるみや皺とともに,ズボンのこれも避けるべき要目である."Break" は皺の一種ではあるが,皺が Positive な意味を持つのはおそらくそこだけ. |
*1 "被害最小の原則" とは,例えば,昼時にとある駅に降り立ったとして,駅前にある食堂に初めて入ったなら,値段で下から二つ目のものを頼む というようなことをいう.
*2 Brooks Brothers ではズボンは "Dress Trousers" と "Casual Pants" に分類され,前者は主にウール Wool のズボンである.後者 "Casual Pants" の中に "Advantage Chinos" や "Garment-Dyed Chinos" などがある.Chino には折り山線がないのが一般である.
肩の嵌まりや着丈,肩幅,身幅の合ったものが見つかったとして,その次に肩線 Shoulder Line が自分の気に入るかという問題がある.
すぐ右の写真は英国調の肩線,U 字のように肩先で上がっている.肩先はまた Rope Shoulder とか Roped Sleevehead と呼ばれ,No Shirring で Sleeve Crown が立っている.低い目の位置ながら胴もかなり絞られている. 右奥の写真は伊太利 Kiton の既製服である.肩線はほぼ直線で下降するが,肩のエッジ Edge は鋭い. アメリカの服はこれらとはかなり違い,肩のエッジ Edge が立たない,いわゆる "Natural Shoulder" である.さらに,胴の絞りも比較的小さい.胴にダーツをとらない "Sack Suit" という伝統的な服もいまだ廃れずに存在する. |
こうしたところが服のシルエット Shilhouette であり,それぞれ各人の好みに添えばよい.しかし服の選択はここまでではまだ終わらない.どれぐらい roomy もしくは tight なものを好むかという "フィットないしはカット" というところが残っている. 上述のようにアメリカの服は基本的に Natural Shoulder であるが,そこが似ているにしろ,Brooks Brothers を例にとれば,さらに Madison Fit, Regent Fit, Fitzgerald Fit, Milano Fit に分かれている. 右の三枚の写真は共に Madison Fit のそれであり,胴の絞りは緩やかで,襟の折り返し,ラペル Lapel の幅も広く 3-1/8" ある."Wider chest and deeper armholes for a more comfortable fit" と謳われている. |
Regent Fit, Fitzgerald Fit, Milano Fit の例を順に右の写真で示す.この順に服は細身に,かつ Fit は tight になって行く.右奥の Milano Fit はかなり極端ではあるが,傾向をよく示している.着丈が相当短い. 上着のボタンをとめてなおベルトのバックルが見えるというのは卒業前の若者に限られるのではないか.2014 年 5 月現在,我国においてもこの Milano Fit に近いものが流行しているらしく,朝の NHK News 番組に出てくるアナウンサ達の何人かがこういう服装をしている. |
Madison Fit 以外には着たことがないので詳しいことはわからない.Fitzgerald Fit, Milano Fit は主に "Back to Campus, back to Town" というような若者向きのカタログに出ている.Milano Fit などになると,肩幅の定義が怪しくなるだろう. 肩幅は縫い合わせ目のところで測る Shoulder Seam to Seam, Seam to Seam across the Top of the Shoulder を守る限りとりあえず間違いなく数値は得られるが,Shoulder to Shoulder の意味を肩の高さから高さを下げながら水平に腕の外側間として測ると数値はどんどん大きくなる.また,現実にも,Seam to Seam 寸の小さい服については,袖丈をその分だけ長くとっておかないと,ワイシャツの袖先が見えすぎてしまう.
この "フィット Fit" というのはどういうことか,について自分でも充分解っているわけではない.London は Hackett の店で Morning Coat を購ったとき,自分ではこのサイズと納得したものよりひとつ小さいサイズを薦められ,窮屈なくらいにピッチリしてこその礼服であるとの主張をもって,頑としてそれしか売ってくれなかったということがある.いまも用のあるときにはそれを着ている."フィット Fit" というのはそういうことかもしれない.ここでは,肩,肩線,着丈,胴の絞り,フィットなど,それぞれ独立であるかのような記述になっているかもしれないが,全体としてひとつということであるのは論を俟たない.
ワイシャツのことである.こちらも元々は "誂え" から出発した.昔は中元とか歳暮とかの品にデパートが売っている "仕立券付きワイシャツ" というのが多く含まれていた."誂え" といえどもそのレヴェルであり,貰い物のお裾分けを着ていたのである.80 番手双糸どころか海島綿ブロード 120 番手というような高級なものも内にはあった.生地や柄を自分で選ぶといっても,貰い物の中から選択するだけであった.何時の頃からかはっきりした記憶がないが,Ascot Chang という Hong Kong の店で誂えるようになった.定期的に日本の都市にも出張して来て,注文を受け,採寸していた.ここに発注していた主なものは "Button-down*1 Collar" のそれであったが,注文の回を重ね,採寸,修正がある度に襟の納まりが悪くなって行った.
いまはそういうことを止め,アメリカで販売されている既製品を購入している.サイズは "17-34, Trim Fit/Slim Fit" である.前の数字が "首周・襟回",後ろの数字が "裄丈" である.これを cm で表示するなら "43.5-86.5"."Sleeve Length" とあっても "袖丈" ではなく,襟下中央から袖端 までの長さ: "裄丈" で表示されている."裄丈" のサイズにはまだ上がいくつかあるが,"首周・襟回" のサイズには上はそう残っていない.ワイシャツの身幅はワイシャツの "首周・襟回" に連動して大きくなり,Regular/Standard Fit では身幅が大きすぎる.それゆえ "Trim Fit" を選ぶ.それでもまだ身幅はやや大きい.平均的に "アメリカ人は手が長い" ことは上に上着のところで述べたが,それに加え,胸回りに較べて*2 相対的に "首が細い" と知られる.
満足しているわけではないが,ワイシャツは消耗品に属すると言わねばならないものであるから,拘らないように自分を抑えている.白いシャツの襟先と首筋部分が黄ばむと作業着へ格下げするよりない.なにより,我国で売られている既製ワイシャツではまず "袖丈" が足りないから,やむを得ずこういう買い方になる.決まったものを必要なときに,家から一歩も出なくとも,比較的短時間で入手できるということも "誂え" から既製品に移行した理由である.Baird McNutt の Irish Linen 製などを含め,既製品でも真っ当なシャツと言いうるシャツには胸ポケットはない.シャツは下着との概念が踏襲されていると承知するものの,それなりに不便である.程々で妥協するのがよい.
*1 "Button-down" という語には「服装や行動が型にはまって月並みな」という意味がある.
*2 既製の Vest を買うとき,アメリカのものでは "L" サイズではブカブカで,しばしば "M" サイズを選ぶことになるが,日本では "LL" とか "XL" サイズでなければ身幅 54 に達しない.
靴のサイズはまずは "足長 Foot Length" で表示され,補助的に "幅 Width" が添えられる.
"足長 Foot Length" の表示がどういう根拠にもとづいているのか,詳しくは知らないが,だいたい右の表に示される関係で各国,地域での値を換算できる.ただし,こういう表は表それぞれに幾分の違いがあり,表の脚注にはたいてい参考にする程度以上のものではないとの断りがついている. 右端の欄に "cm" ならびに "inches" とあるのが素の足の長さである.その寸法より 4 ないし 10 mm 大きい寸法を靴のサイズとしたものが日本サイズである.アメリカのサイズは,店においてある Brannock Device で素の足長を測り,それの 3 倍から 22 を減じた値らしい.右の表でもそうなっている. "幅 Width" はそれ直裁ではなく,"足囲 Foot Circumference, Girth" をもとに,幅の狭いものから広いものへと "A" から A, B, C 順に "F" ないし "G", "H" くらいまでの記号で表現される.下右の表は JIS で規定されている "足囲 Foot Circumference" と "幅 Width" 表示との関係である.下掲,左の表はアメリカ人から見た靴の幅とその表示を関係付けたものである.A, B, C 順の記号以外にアメリカでは "N, Narrow", "M, Mediam", "W, Wide" などもしばしば使われる.イギリスでは C, D, E, F, G, H の連番表示である. |
Men's: Width Conversion in US |
Shoe Width to Foot Circumference, Unit: mm JIS S 5037: 1998 | |||||||||||||||||||
X Narrow |
A |
JP Size | D | E | 2E | 3E | 4E | F | ||||||||||||
Narrow |
B, N |
26.0 cm | 243 | 249 | 255 | 261 | 267 | 273 | ||||||||||||
Med Narrow |
C |
26.5 cm | 246 | 252 | 258 | 264 | 270 | 276 | ||||||||||||
Medium |
D, M, R |
27.0 cm | 249 | 255 | 261 | 267 | 273 | 279 | ||||||||||||
Med Wide |
E |
27.5 cm | 252 | 258 | 264 | 270 | 276 | 282 | ||||||||||||
Wide |
W |
28.0 cm | 255 | 261 | 267 | 273 | 279 | 285 | ||||||||||||
X Wide |
EE, 2E, WW, XW, X |
|||||||||||||||||||
XX Wide |
XX |
|||||||||||||||||||
XXX Wide |
3E, EEE, EW, 4E, H |
平均的に,日本人の足幅はアメリカ人のそれに較べて広く,甲も高い.国産の靴の一般的な "幅 Width" は "EEE, 3E" であるのに反し,アメリカの市場では "D" が最も多く.それが Medium である.アメリカでいう "X Wide, Extra Wide" でも "EE" 相当にすぎず,日本の平均 "EEE, 3E" に達しない.
イギリスでは,Narrow: E, Standard: F, Wide: G, Extra Wide: H となっていて,通常の標準幅は "F" というが,Crockett & Jones や Edward Green の標準は "E" であるらしい.EX などと X を添字として F との中間であることを表す.ただし,イギリスの "E" はアメリカの "D" 相当と噂される.イギリスでいう "F" は上右の表 (おそらく JIS S 5037: 1998) にある "4E" より幅広の "F" とは別物であり,E, F, G, H で "足囲 Foot Circumference, Girth" が 1/4" = 6.35 mm ずつ増えるとなっているから,イギリスサイズ表示の意味は F : 2E, G : 3E, H : 4E あたりであると考えるのがよかろう.
自分の素足を測ってみると,足長 260 mm,足幅 103 mm,足囲 263 mm である*1.US9 / UK8 / EU42.5 / JP27 が該当し,足囲の値から "3E" を選ぶのがよいということになる.Paris を本拠とするフランス靴 Alessandro Berluti の Démesures というのを試履したところ,細身ながら,UK9 なら履けると知られた.ただし,価格は ¥241,000/$2,140/1,530€+Tax. もっともこれを購ったというわけではない.どういう寸法表示のものなら自分の履けるサイズなのかをまず知ろうとしてのことである.
*1 アシックス足型計測サービス Asics Foot ID Static という三次元足形光学計測 (I-Ware Laboratory, Infoot Usb)では,足長 270 mm,足幅 107 mm,足囲 269 mm と,自分で測った値より大きく出ている.
自宅の下駄箱にある靴を調べてみたところ,
Scotch Grain, 3828, JP26.5-EEE, Outsole 30.0×11.0 cm, Balmoral Wing-Tip, Full Brogue Oxford
Scotch Grain, 4016, JP26.0-EEEE, Outsole 29.0×11.5 cm, Balmoral Straight-Tip, Cap Toe Oxford
Regal, Imperial, 4580-FE11, JP27.0-EE, Outsole 29.5×10.5 cm, Punched Cap Toe, Blucher
Regal, Imperial, 2220-FC11, JP26.5-EEEE, Outsole 29.5×11.2 cm, Balmoral Wing-Tip, Full Brogue Oxford
Regal, Imperial, 4516-FE11, JP26.5-EEEE, Outsole 29.5×11.2 cm, Plain Cap Toe, Quarter Brogue, Blucher
Regal, G5H 06, JP26.5-EE, Outsole 29.8×10.7 cm, Balmoral Wing-Tip, Full Brogue Oxford
Florsheim, Edgar, US10.0-EEE, Outsole 30.0×11.0 cm, Balmoral Straight-Tip, Cap Toe Oxford
Florsheim, FLS Richfield, US10.0-EEE, Outsole 30.0×10.7 cm, Moc Toe, Blucher
Bostonian, Impression, US9.0-EEE, Outsole 30.0×10.8 cm, Balmoral Punched Cap Toe, Quarter Brogue Oxford
GT Hawkins, Air Light, UK8.0, Outsole 29.3×10.5 cm, Balmoral Wing-Tip, Full Brogue Oxford
GT Hawkins, HL13002, TR Kassel2, US9.5/EU43/JP27.5-4E, Outsole 30.5×11.0 cm, U-Tip
Yanko, Nova-Moc, UK9.0-E, Outsole 29.0×10.0 cm, Kilt Tassel Loafer
Ecco, 08_107724, EU43, Outsole 30.0×11.5 cm, U-Tip
Barisal, EU43, Outsole 31.0×11.5 cm, U-Tip Venetian Moccasins
Lloyd, UK9/EU43, Outsole 30.5×11.0 cm, Wing-Tip, Full Brogue, Blucher
AirWalk Desert/Everest Boots, US9.0/JP27.0/EU42, Outsole 30.5×11.0 cm
Keen, KC0912, US10-D/UK9/JP28.0/EU43, Outsole 30.0×11.0 cm, Finlay Casual
Mizuno, LD40 5KF-640, JP27.0-EEE, Outsole 30.0×10.5 cm
Mizuno, LD40IIISW 5KF-341, JP27.0-EEEE, Outsole 30.0×11.0 cm
という具合である.Outsole とあるのは,靴底の最大長さと最大幅である.上の "足囲 Foot Circumference, Girth" と "幅 Width" 表示との関係表に抵触するのは,Regal, Imperial Grade, JP27.0-EE と Regal, JP26.5-EE ならびに Yanko, UK9.0-E であって,表にある足囲より自身の足囲の方が大きいけれども,なんとか履ける.Outsole 長さや幅も Fit のひとつの目安ではあるが,29.0×10.0 cm でも普通に履け,30.5×11.5 cm でもかなりきついということもある.
こうして改めて眺めると,たいした靴はないと知れた.本当に真っ当な靴を別注するなら £3,500 くらいの支払いを覚悟して掛からなければならないという範疇のものなのに,これまで $350 くらい以上のものを買った覚えがないから当然のことである.
冠婚葬祭用の Balmoral Straight-Tip 二足, Scotch Grain, 4016, JP26.0-EEEE と Florsheim, US10.0-EEE の比較が特徴的であり,前者のサイズが JP26 であるのに対し,後者のそれは JP28 相当と,日本のサイズで 4 サイズ大きいはずのものである.共に Balmoral 内羽根式である.自分の足に対して後者の方が靴として大きいというわけではない.後者では履くと羽根が最後まで閉まらず,V 字形に開いてしまって,履いて式に出るには出られるが,甲高の足には依然それなりの問題が残る.履くときにかなり苦労が要る.履いてしまえばなんとかそのまま過ごすことができる.足長サイズが大きいから捨寸はある.そう年式の古いものではなく,Made in India である.ドイツで買った靴をいま見ると,それらのサイズはすべて EU43 であり,"Width" の記号表示がない.現実には,それらのいくつかはやや大きく,しっかりとしたフィット感はない.言うまでもなく,履くときに苦労が要るということはない.一方,Lloyd だけは結構きつく,履き込みにいくらか苦労し,付属の70-cm 靴紐を 90 cm のものに換えてようやく実用になっている.Blucher 外羽根式だからできるる甲高への対処である.
Bostonian, US9.0-EEE は著名な Crown Windsor ではなく,"Impression" であるものの,優雅なシルエットを残している.作りはサイズの読みよりは幾分小振り.1990 年頃のもので,Made in USA,当時 $150 くらいであった.現在の Bostonian *1 にはこうしたものがないし,もちろんアメリカ国内では生産されていない.Lloyd は Made in West-Germany で,1980 年代のもの.*1 1970 年代のものは Bostonians となっている.同一のメーカであると思われる.
イギリス製の靴が上のリストにないのは,訪問時に買物に割くだけの時間的な余裕があった様 (ためし) がなかったことと,程よいデザインの靴を見つけても,店には "EEE" 相当のものが用意されていなかったという不運に拠る.
一時,靴を Mail Order で国外から輸入しようと考えたことがあった.上述の "足長 Foot Length","幅 Width","足囲 Foot Circumference, Girth" などはそのときに得た知識である.いまは考えていない.まず第一に,サイズ表示と実際の靴の大小,フィットとが靴の製造業者や靴の型番によって大幅に異なる.買ったが小さくて履けないということが起こり得る.第二にはその上,輸入時に悪名高い革靴の関税がある.個人輸入の場合には革靴の価格の 30% もしくは 4,300 円のどちらか高い方.ただ,商品価格の 60% が課税価格なので,現実には 18% の関税,これに消費税が加わる.法人が輸入する場合の関税はさらに高率と聞く.我国で 例えば 6 万円で売られている靴では,その内およそ 2 万円が税金であろう.そうした靴といえども現地で買えばそれほど高額ではない.半額くらいではなかろうか.また,我国で高級靴とされているものが,その国では普通の人が普段に履いているものであることも少なくない.
そういうことで,国外ブランドの靴を国内で買ったこともない."幅 Width" が "D" でぴったりという細身の足の方には,もっと購買の自由度は高く,イギリスの美しい靴を躊躇なく購う喜びもあるのであろう.いずれにせよ,国外ブランドの靴でその品揃えを誇っているような店は東京に集中しており,京阪神に幾つかという程度であって,名古屋あたりには見当たらない *2. *2 2015 年 2 月に大阪駅で一時間余の空き時間があったので,阪急メンズ大阪というところに行ってみたが,F: 2E 程度までの狭幅ものしか品揃えがなかったうえに,ほとんどが爪先の細く長い若者向きのデザインであった.阪急メンズ大阪では,上着やズボン,コートなどについてそれらの品揃えは貧しい.それ故か空いていた.
アメリカで比較的高級とされていた靴のメーカは世紀が進む頃に大衆路線に舵を切った.Ralph Lauren の店で売られている靴は Edward Green のそれであり,Polo の銘板がついているものは Crockett & Jones 製である.Brooks Brothers にある Cordovan の靴は Alden 製であろう.J. Crew には Alfred Sargent のものが置かれている.それなりのレヴェルというのがどのあたりにあるかがこういうことから判る.けれども,そういう場所で "Width: EEE" のものが見つかることはない.アメリカでいま製造されている靴をいま普通に購うとしたら,Allen Edmonds の Park Avenue くらいか.
靴のさらなる問題は,履いていて一度大雨に会ってしまうと,価値の 7 割くらいを一瞬にして失ってしまうことである.濡れた靴をなんとか元に戻す手法があるというけれども,現実には雨で濡れ,その濡れた靴でその後も歩き廻ってしまうと,本来のレヴェルにまで戻ることはないと思う.想定しているのはもちろん 皮底の靴 である.その点,スーツ,ジャケット,ズボンなどが雨に濡れたあとクリーニングに出して回復する程度とは大きな差がある.確かに,靴一足の価格はジャケット一着のそれよりは低い.経済原理に合っていると言えばそのとおりである.
高校生の頃,昭和 34 年 (1959 年) 前後には "誂え靴" を履いていた.そういう時代でもあったのであろう.昭和 36 年 (1961 年) 以降いつごろからか記憶がはっきりしないが,大学生になってしばらくしてから既製の靴ですごすようになった.服と同様,"誂え" から離脱し,それはいまも変わらない.請負形式の注文では "でき" が悪くても引き取る義務がある,そこが辛い.停年退職後,靴の減りもかつてよりは格段に少ない.以前には買わなかった Walking Shoes などを購うようにはなった.しかし,これぞというものにはいまだめぐり会わない.皮底のよいものが特に少ない *3. *3 ポリウレタンの靴底は空気中の水分で加水分解され,15 年くらい経つと黒い粉末と化す.
冒頭に挙げた本にあった記述のうちから,その幾つかについて.
「21 ウールのパンツはミディアムグレーとチャコールグレーの二本を用意したい.」
「セレクトのポイントは,細身のシルエットでノータックのデザインであること.p. 62」
上に書いたように,綿トゥィルパンツを仕事着としているのであるが,グレィのウールズボンを紺のブレザーと合わせれば,国際学術集会の Banquet にもそれで出られるから,もちろんそれも所持している.ある程度の年齢に達した大人の男性なのだから,ウールのパンツ二本などといわず,せめて五本ないし七本であろう.グレィなら容易に上着と合わせられるとの文意と受け取れるけれども,グレィという色は奥深く,少し青味がかっているとか,織りが目につくというようなことでも合ったり合わなかったりして,Matching には工夫を要する.さらには,我国では畳の部屋で正座という局面もなきにしもあらず.それを翌日にも履けるか.細身のシルエットでノータックと限定するのもいただけない.プリ−ツの有る無しは上着のフィットとの関係で決めるものである.
「16 チノパンはシルエットと仕立てが命. p. 41」
「ここでいうチノパンとは.もちろんドレス仕立てのもの.」
「タックについては,現在はノータックが主流です. p. 42」
ドレス仕立てのものでも Dress Twill なる生地ではなく,"Brushed Twill", "Washed Twill" 生地を使ったもの,ないしはそれに近いものがあり,それらはこの Context では含まれない.仕立てが命というより先に "生地が命".ノータックが主流というわけではないことは前掲.
「ジャケットはよりカジュアル感を出すために,メタルボタンとなっているが,よりフォーマル感を高めるのであれば,通常の天然素材のボタンを. p.122」
メタルボタンの方が少しはよりフォーマルである.メタルボタンは制服由来であり,制服はフォーマルな着衣である.
「24 一着目の『ハリスツイード』はヘリンボーン柄を買う. p. 71」
Harris Tweed のジャケットとしてヘリンボーン柄というのは当然というべきでもあり,また,ヘリンボーン柄でないものを探す方が難しいともいえる.しかしそこで,無難に黒/白だけの綾織りを選ぶというのなら,Harris Tweed よりむしろ上質の Merino Wool の方がよい.Harris Tweed の特徴の一つは,草や苔,根などに由来する染料で染めらた糸の色上がりにあり,特に青や緑の鮮やかさが秀逸であるから,一着目としてはそういう色使いを愉しめるものがよい.もうひとつの特徴は,生地に死毛 Kemp, Medullated Fibers が多く含まれていることによる,滑らかさと正反対の粗い手触りにあるが,最近は年々糸も細くなっていて往事の無骨さが失われてきているので,しっかりとゴワゴワ感のある生地を使っているものを見つける努力は欠かせない.もっとも,厚手のジャケットであるゆえ,年間で二箇月間くらいでしか着る機会を持てないから,贅沢なものではある.Harris Tweed を薦めるというなら Donegal Tweed ドネガル/ドニゴール ツイード,あるいは我国,岩手のホームスパンなども当然視野に入るであろう.
「肩幅と着丈が合っているかどうか. p. 75」
上で述べたが,肩幅とはどこを言うのかということがまず微妙であり,"肩幅が合っている" というのがどういう状況であるのかが説明されていない."着丈が合っている" というのも同様で,どれだけの寸法を着丈として著者が想定しているのか,読者には全く何も分からない.少なくとも判断のガイドラインだけでも示すべきではないか.
靴について,「足下は茶」と仰り,
「16 スーツからデニムまで OK のスエードチャッカブーツ,"グレンソン"」
「17 元祖万能靴."クラークス" のデザートブーツ」
「22 "パラブーツ" のデッキシューズ "バース"」
これらの靴はすべて "Off-Duty Footwear" に分類されるものであって,仕事がある日のスーツに合わせて履くものではない.ビジネスの場では,スエードではなく,"Dress Shoes" とか "Oxford" とかの分類から Burnished Calf など,表革でできたものが望ましい.フランスの Paraboot が好みというのなら,Rousseau Actem とか,せめて Lorsen Actem ブーツであろう.色については黒である.ミラノのファッション業界では暖色系のスーツに茶系色の靴という出で立ちも少なくないが,Via Monte di Pietà や Via Manfredo Camperio などの銀行街・金融街を闊歩する人達は寒色系のスーツに表革の黒靴である.重要な交渉事のあるビジネスの局面では足下は黒,セールスなら茶色も可.
「ときどき「紺のスーツに茶の靴って,合うの?」と,特に年配の方から聞かれるのですが,ヨーロッパでは紺に茶は非常にコンサバティブな色合わせです. p. 48」
イタリアでいわれる "azzurro e marrone アッズッロ / マッローネ" のことから敷衍した言であろうが,紺に茶というのはなかなか難しい組み合わせであり,よく釣り合っているという色合いはそう多くなく,僅かな色調の差でも破綻をきたす.赤色の寄与がなにがしか混じっていないと濃い紺には合いにくい.和服においても同様である.藍は和服での主要な色であるが,それと茶との組み合わせでマッチするのはくすんだ焦げ茶だけであり,そういうことも判断の助けになる.グレィに茶というのは無理な組み合わせではないが,そこにもかなりの慎重さがなくてはならない.大抵は軽卒な感じになっている.
紺の側にも Midnight Blue もあれば明るい Royal Blue もあり,一足の茶系の靴でどちらにも合うなどということはない.Bordeaux/Burgundy 色と茶色とは全くというほど別の色であるし,皮をなめしただけの Tan は茶系とはいえ,またニュアンスが異なる.上級者でないなら下手に手をだすものではない.
* ウィンザー朝の第 2 代国王エドワード 8 世 Edward VIII,退位後称号 ウィンザー公爵 The Prince Edward, Duke of Windsor, 1894 - 1972 年 (現イギリス女王エリザベス 2 世の伯父) がスーツに薄茶のスウェード靴を合わせた.スウェード靴は当時下層民の履物であったから,英国上流階級を震撼させたという.この人でこそできたという変則技であったが,いまその写真を見ると,街着としてのスーツ,その生地が紡毛糸フランネルであって,スウェードと手触りが似ており,色も近くて何の違和感もない.
中島 渉:スーツの法則 では,英国における "Urban 都会・ビジネス" と "Country 田舎・荘園経営" の局面で区別し,前者では黒の靴を履き,後者でしか茶系色の靴は履かない として,「足下は茶」という考えを否定している.その場合,黒・灰・紺のスーツを "Urban 都会・ビジネス" で着,"Country 田舎・荘園経営" では緑・黄・茶・臙脂などのスーツやジャケットを着るという.右の写真がその一例であり,典型的な Country 風 Three-piece Suit である.右裾のポケットの上に Ticket Pocket も付いている.ポケットチーフを刺していないのも Country 風で好ましい.肩の嵌まりや肩線については Milano Fit の傾向と正反対で,Shoulder Seam to Seam は充分にある.色は萌黄であろうか.こういうスーツに合わせるのが茶系色の靴であるという.服については,赤みのある暖色系は秋,春は緑系であるともいう. |
先に挙げた "紺のブレザーと綿 Twill トゥィルパンツ" に関しては,上下揃ったスーツから見れば,"紺のブレザー" という段階でまず一段 Casual とし,それには本来ならグレィのウールズボンを合わせるところである.右写真がその例である.そこをそうせず,"綿トゥィルパンツ" へとさらに一段階 Casual にしているので,自分の仕事に際しては,靴でそれ以上に Casual にならないよう,黒の Wingtip などで足下を締めるようにしている.これで,真面目に仕事をするという気分になんとかギリギリで到達する.紺のブレザーにはセパレーツながら,上の Country Suit とはまた別のカチッとした感じが出ていることが右の写真でも知られる. * ここでの Casual は語彙そのものどおり,"服装が略式の" という意味である.普段着とかスポーティということとはやや異なる. "紺のブレザーと綿トゥィルパンツ" に Bordeaux 色の表革の靴とか,Chukka Boots とかを足下に持ってくるのはそれなりにファッションとして定番ではあるにせよ,それでは日曜日の昼下がりに美術館へ行こうという雰囲気になってしまう."Off-Duty" なのである. |
平日に開催される会議や講演会でも,他の人の講演を聴いているだけならそれでもかろうじて差し支えなかろうが,同業の聴衆の前で自分が話す場合にはそれではいけない.しっかりした黒の靴 で固めなければならない.
仕事の場へ着て行く服装について,本来 "Off-Duty" の場でのものを薦める服飾本が多いのはいただけない.そのまま信じて,そういう服装で毎朝ニューズを報じるアナウンサが出来するというようなことになっているではないか.それぞれに限度というものを弁えてもらいたい.それに,服屋の着ている服や服屋の姿など見たくもない.得々と自分の写真など載っけないでほしい.1980 年代末に跋扈した地上げ屋を思いださせる.
紐靴の羽根の様式には "内羽根式 Balmoral" と "外羽根式 Blucher" とがある.後者 "Blucher" について,誰が最初に書いたのかは分からないが,「プロシアの陸軍元帥 ゲルハルト・レーバレヒト・フォン・ブラヘルが軍靴用に考案したもので,その苗字ブラヘルを英語読みした」というような説明になっている.ゲルハルト・レーバレヒト・フォン・ブラヘルと言っているのは "Gebhard Leberecht von Blücher" のことであるに違いない.まず,名前に "ゲルハルト" とあるのは,もともと "Gerhard" ではなく "Gebhard" なので,読みとしては "ゲープハルト" が近い.中間名 "レーバレヒト" も "レーベレヒト" であろう."Lebe+Recht" と "Leber+Echt" では意味が異なる.さらに,苗字の "Blücher" を "ブラヘル" とはとても発音できない.せめて "ブリュッヒェル" とか "ブリュッヒャ" であろう.後者のリンクには発音記号も出ている.何人もが,本来のところを調べもせず,過去の間違った記述を鵜呑みにそのまま書き写して知ったかぶりでいるのはいただけない.英語表記 "Blucher" はドイツ語表記 "Blücher" の Umlaut を省いただけのものである."レーベレヒト","ブリュッヒャ" と聞けば,ドイツの戦艦を思い浮かべる方も多いであろうに,我国の服飾評論界がどの程度のものか,こうしたところからも窺い知ることができよう.その言辞聴くに値するや否や.
アメリカの服を買って,内側に縫い付けられた Tag を見ると "Loro Piana" とか "Ermenegildo Zegna","Luigi Ricceri","Vitare Barberis Canonico" となっていて,生地の製造メーカが分かる.Brooks Brothers はイタリア "Loro Piana",スイス "Gessner",イギリス "Abraham Moon & Sons" などの Wool 生地を使っている.Lands' End が売る中級品のスーツでさえイタリア "Lessona" の生地とある.つまり,アメリカで見かける紳士服に使われている生地の多くはイタリア製かイタリアの会社名があるものなのである."Loro Piana" には Woven in USA まである.
愛知県一宮市を中心とする,いわゆる "尾州" はいまも我国における毛織物の一大産地である.かつては大手の御幸毛織,大同毛織,長大毛織,日本毛織など以下,小規模な工場も無数というくらいにあった.人件費の低い中国などから安価な服地が入ってくるようになって,日本の毛織物産業の規模は往時の 1/4 であると聞く.アメリカで広く使われるイタリアの服地は "人件費の低い国" からの安価輸入品に該当するのか,日本で生産される毛織物はなぜアメリカの服とならないのか.いまの日本の毛織物産業は上質なものを求める市場に入れてもらっていないのではないか.
大同毛織はほぼ 50% の持株比率 (いまはそれより下がっているという) でブルックス・ブラザーズ・ジャパンに参画したらしい.ブルックス・ブラザーズ・ジャパンには当方に適うサイズは用意されていないから,国内の店を訪れることもないが,上海で作られているという日本サイズの服に大同毛織の生地が使われているのであろうか. * かつては日本サイズであったが,このところ,アメリカサイズに変わっている.ただし,Long はほとんどおかれておらず, Short が多い.
絹についてもイタリアが席巻している.ネクタイ生地のほとんどがイタリア製である."Made in USA, woven in Italy" とか,"Handsewn in USA of Imported Fabric" とある原産地表示はイタリアである.Silk Knit Tie は全数 "Made in Italy" である.ドイツに Ascot という Silk Knit Tie が売り物の会社があり,Hermès にも納めている."菱屋" を潰してしまった国でそれを言っても詮無いことか.絹は外貨の稼ぎ頭であったはずなのに,現在,日本の絹は,糸,染め,絹織物,ネクタイなどの製品でこうした分野における競争力はないのか.いまの日本の絹織物産業もまた上質なものを求める市場に入れてもらっていないのではないか.本来そこを得意にしていてしかるべきなのに.
* 一部分ながら,かつて菱屋は Ralph Lauren のネクタイを作っていた.これを書いてから,手持ちのネクタイを見てみると,Cable Car Clothiers のネクタイが日本製であった.また,Ralph Lauren のネクタイのうち "Chaps" というシリーズの多くも日本製のようである.詳しくは知らないが,Don Corporation というところが出しているらしい.我国では Don Collection / Don Brothers という銘柄で売られている.
ひょんなことから服飾本を幾つか読んだことで生まれたこの記事は,躯に合う服を近隣で調達することができない者の愚痴を並べ立てたものである.服飾を,また服飾評論を業にしている人が書いた服飾本にはほとんど得るところがなく,こういうことを読者に推奨してよいのかと怪訝に思うことが少なくなかった.あなたが間違った買い物をさせていると言いたくなる.
"Off-Duty" でのことについてなら,自由度は大きいからとやかく言うほどのことはない.仕事に出掛けるときに着るものについては,出掛けてゆく人の仕事の局面がそれぞれにあることを軽く見てはなるまい.その場には対等か対等以上の相手が単数ないし複数加わっている.そこで交わされる遣り取りが必ずあり,いかなる方面からも負けられないという瞬間がある.服装は最重要ではないものの,その内のひとつの方面である.そのとき服装は一種,自分の内面 "Une Manière d'être" でもある.そこをお解りになっていないのではなかろうか."Men in dark suits" の意味をご存知か.風采も上がらぬというわけにはいかない.
いずれにせよ,単にこうすればいいと教えるのではなくて,求められるのは,こういうふうにして行けば自分なりの審美感ができてきますということなのではなかろうか.
"誂え" から "既製" へと移行したのは一般の経緯と逆である.鄙陋/卑陋 (ひろう) と罵る (ののしる) もよし.大抵は "既製品" を卒業して "誂え Bespoke" に至るのであろう."既製" が "誂え" を凌駕すると主張するつもりはないが,既製は既製なりに誂えを越える利点がないわけではないことをここで述べた.いずれにせよ,"誂え Bespoke" も含め,有るものの中から選ぶだけのことであり,その選び方が個々人に依存するというに過ぎない."包みても包みがたきは人の好尚 (こうしょう) なるらん 鴎外・舞姫".そこでの極限を見渡せば,自分の着る和服を自分で縫い仕立てる母の方が "誂え Bespoke" を着る息子より遥かな高みにあること自ずと知られよう.
* 紺のブレザーに綿 Twill パンツという組み合わせに関しては,"Scent of a Woman, 1992, セント・オブ・ウーマン / 夢の香り" という映画に,資産家の子弟を引き受ける全寮制進学校 College Preparatory School の服装としてその典型を見ることができる.
Still not fixed.
どうでもよいような,しかしどうでもよいわけでもないことなのである.我国でいまだ礼服として命脈を保っているものにモーニングがある.Tail の付いた上着に黒/灰色縦縞のズボン Striped Trousers (我国ではコールズボンと称される).それを着たときに持つ手袋のことである. 下の写真は昭和 42 年 (1967 年) ころに入手したフランスは "Gant Perrin" の薄鼠色の手袋.材質はおそらく "子山羊 Kid"."Lavable" (Washable) とある.これまで二回ばかり白洋舎に洗いに出した.裏革 suède 仕立てで裏は付いていない.手袋の内側が革としては表皮である.内縫いで,サイズは 8-1/4.もう 40 年以上経つ. どうやら,我国だけでなく欧米諸国を含めて,これに相当するものを買おうとすると,どこで売っている ? という状況であるらしい.フランスのこの高名であった手袋屋 "Gant Perrin" はいまはすでに廃業してしまった模様であり,検索しても "Vintage" と頭に付いた手袋くらいしか出てこない.右図の広告は 1924 年のそれのようであるが,処番地の表示には 45 Avenue de L'Opéra, Paris とある.店が存続している様子はない. |
滅多に使うものではないから好い加減に考えており,欧州の街を歩いていて,手袋屋があり,ちょっと時間も割けるというときに物色するというようなことであったが,適当なものを見つけることは疎か,店員に伝えてもなかなか品物を特定できなかった.ミラノに立ち寄る機会があるので,ようやくいま有る現物 (上の写真がそれ) を持参して,それなりに知られた手袋屋を訪れることにした.Via della Spiga 46 にある Sermoneta,店に入って上記の品を見本として出すなり店員は店長を呼んできますという.店長は現社長の息子らしく,貰った名刺には David Sermoneta とある.「これと同等のものを今は作れるところがない.Don't use this. Keep this carefully.」と言いながら慈しむかの如く何度も撫でている.Sermoneta でも昔の良いものは博物館のようにして保存しているともいう.今回新たに購入したのが下の写真のもの.先のものに較べるとやや青みがかっている.また手の甲にあたる部位にステッチがない.サイズは 9 で,裏は絹である.値引きしてくれて €75.店には各サイズを揃えていた.この手の手袋は含まれていないようであるが,Sermoneta は伊勢丹や三越に品物を卸しており,店長は何回も日本に行っているとのことであった.
"Black Tie Guide" という Web site の付録に モーニングのページ があり,そこでは我らが言うモーニングコートは "Morning Dress/Cutaway" となっている.上着に Tail が付かない略礼装,いわゆる ディレクターズスーツは "Morning Suit" と切り分けられている.Vest/Waistcoatについては ここ.慶事に "黒" は用いず,light gray ("dove" or "pearl" gray) もしくは creamy yellow (buff) とあり,後者の場合には Chamois 材/色の手袋を. いずれの色の場合にも "持つ usually carried" だけで,実際に手にはめることはない.右下の絵でどういう局面でどう使うものなのかが分かる.向かって右が Morning Dress,左が Morning Suit である.帽子のランクも服に合わせるということらしい.イラストレーションではなく,我国での 現実の局面ということなら.
服部 晋「洋服の話」2004, 小学館ラピタブックス ISBN4-09-341111-5 という本の p. 110 に 「鼠又はクリーム色,この手袋が,日本では最も間違って解釈されている.つまりデパートあたりの礼装コーナーへ行って,モーニングの手袋を下さい,というとまず 90% 以上,白い手袋が出てきます.実は私は時々結婚式などの洋服のお世話をすることがあって,そのときアクセサリーを一式揃えて下さいと御依頼を受けることがあるのですが,ネクタイはともかく,グレーの手袋を探すのにいつも大変苦労します.この問題はずい分昔からあったようで,私の父も同じ経験を何度もしているのです.本当は私共の店などに,常時用意をしておかなければいけないのでしょうが,正直言ってそう何時もモーニングの御注文がある訳でもないのでなかなかうまくいきません.でも間違っている事ははっきりしているのですから,何とか対策を考えないといけないと思っています.」とある, 上掲のものがその入手困難という手袋である.金洋服店ですらこういう状況なのであるから,国内でサイズの合うものを入手することはほぼ不可能であると想像される.この本には他に面白いことが幾つか書いてあり,衆参議長副議長はかつてはディレクターズスーツを着ることになっていたのであるが,坂田道太が衆議院議長になったときにはその規則は廃止されていたという話もそのひとつである. |
London の Fortnum & Mason などに行くと,Morning Dress を着た売り子が目に付く.それが似合っているというか,あまりにも様になっているので,それまでいわゆるディレクターズスーツ Morning Suit で済ませていたところ一転して,Hackett にて Morning Dress を購った.また,いわゆるコールズボンに関して,巷では「ダブルの裾はカジュアルですので,フォーマルに用いることはありません」というようなことが得々と言われているようであるけれども,Brompton Road の Harrods で買った Striped Trousers は "Cuffed".
アメリカで結婚式に着るのは,昼間に教会で行われる際にも,Morning Dress ではなく,Tuxedo である.夕刻から夜に開かれる Reception に重きがおかれているということかもしれない.双方の親族男性には,襟形とか Vest とかについて,同一スタイルの Tuxedo で揃えるのが通例のようであり,それゆえに自分の Tuxedo を持っていたとしても,それを着ることはなく,当日は貸衣装とならざるをえない.45 日くらい前に,靴などをも含め,各人のサイズあわせに店まで出向かなければならない.親族が他州に住んでいるような場合にも対応できるよう,多くの州に店を展開している大手貸衣装屋が選ばれることが多い.来客の方にはそうした揃えるという制約はない.アメリカの結婚式/Reception について我国と最も大きく異なるのは,花嫁に関する基本色を設定することであろう.卓上の花もその基本色に添ったものである.