ノックする直前,エンドガスは楔形になっている
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Wedge-Shaped End Gas
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 この Web site のなかの,ノッキングについて説明しているページに出ている可視化写真や動画を仔細に見るなら,本来おおまかには球形に拡がるべき伝播火炎が対向壁に近づくと,ノッキングが起きそうな条件では,起こる / 起こらないに関わらず,伝播火炎に楔形の凹みができていることがわかる.


 例えば,"ノッキングを動画で" ページ 冒頭にある動画の説明に挙げた図を上に再掲するが,そこでも自着火が発生する箇所付近で伝播火炎が凹んでいることが知られる.

 同じく,"ノッキング,続き" ページ 冒頭に掲載した,日産自動車動力研究所の中島らによって撮影された高速影写真をもう一度右に出す.ノッキング発生前のクランク角度位相に限定してその一部を挙げた.上段はノッキングが起こらない場合,下段が起こる場合であり,ノッキングが起きそうな条件では伝播火炎が楔形に凹む箇所がいくつかできると見て取れる.しかしながら,楔形エンドガスのことが論文のなかで論じられているわけではない.

 1980 年代前半に,このことについて調べた結果を下の可視化画像に示す.実験装置は "ノッキングを動画で" ページ 下端に挙げた単サイクル モータリングエンジン であり,回転速度は 240 rpm である.ノック発生条件でエンドガスが楔形になるということを端的に示すために,実験条件はかなり極端なところに設定されている.駒 20o-n では画像右上に明確な楔形エンドガスが残り,その内部に僅かながら自発光が認められる.駒 30o-p で完全な熱炎発生となる.ここの写真では必ずしも明確ではないが,もとの映像には楔形エンドガスの内部に数多くの白い核が写っていて,それを見分けることができる.


 Ohta, Y. and Takahashi, H.: "Inhibitory Action of Preflame Reactions on Flame Propagation in End-Gas", Progress in Aeronautics and Astronautics, Vol. 108 (1986), pp. 316-328, AIAA

 この実験は,高速ノック の発生原因を明らかにしようと模索してのものであり,この結果から理由を化学反応に求めた.上の論文表題がそれである.もちろん,このような火炎形態となることに対しては,流れや流体力学的不安定の問題を避けて通ることはできない.さらに,前炎反応が進行するエンドガスにおいても徐々にしろ発熱があり,その速度は時間経過とともに高まるから,火炎伝播による火炎帯を押し戻す効果も考慮に入れなければならない.

 この実験ではチャージを用意するにあたって混合気が通過するポートと弁の形状が一般のエンジンのそれらとは大きく異なり,チャージにはスワールやタンブルが付与される可能性はほとんどない.また,回転速度が低いので,通常のエンジンシリンダでの現象に較べて混合気に与えられている乱れ強度も低い.それでもなお,楔形エンドガスとなる理由を 化学反応 / 流体力学的効果 のあいだではっきりと切り分けられているわけではない.根拠がまだ不足している.火花ノックは火花放電がなければ自着火が起こらない条件の下での自着火現象として定義されており,この実験がその範囲を逸脱していないことは言うまでもない.つまり,ピストン圧縮だけで自着火する条件で火花点火を加えたものではない.

 では,なぜ楔形エンドガス生成だけに別途このページを立てているのかというと,単に高速ノック抑制という観点からだけでなく,楔形エンドガスが伝播炎にまだ取り込まれていない最後のエンドガス部位であるからである.楔形に凹むことがなければ,そこは本来すでに伝播炎になっていて,そのまま燃え終わり,自着火熱炎の成立に至らないはずである.エンドガスがこのように楔形に残る理由を知り,それを防ぐ方策を立てればエンジンのアンティノック性が上がり,ひいては高圧縮比化により熱効率向上につながる.

 最近になってようやく,このエンドガスが楔形になることが注目されるようになり,コメントする人も増えた.一般のエンジンではチャージにはスワールはもちろん,タンブルがなんらかの形で与えられており,タンブルは上死点近傍で通常 三つ子渦 に変わる.シリンダ内流れではその影響は大きく.それゆえであろう,上死点近傍で最後に残るエンドガスが一つないし二つの楔を形成するとの計算結果* が呈示されている.比較になるかどうか分からないが,タンブルが比較的強い場であると考えられる Chalmers 工科大,J. Wallesten & A. N. Lipatnikov の動画 で,最後に残るエンドガス部位はそれとはかなり異なる場所である.ペントルーフの角度なども影響するかもしれない.

 * 寺地・角方・津田・橋詰:"三次元シミュレーションによるノッキング発生に対する火炎挙動影響の考察",自動車技術会 2008 年 秋季大会,#178, 講演会前刷集 121-08


 Still not fixed.


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