過給・直噴火花点火機関,我国の現状 |
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2012 年以前は次のようなことであった.2012 年にようやく別途ひとつ登場した.Subaru "FA20 DIT" がそれである.2014 年にまたひとつ出た.Toyota "8AR-FTS" がそれである.このページの下方に順に追加する.
我国発の "過給・直噴火花点火機関" は残念ながら一機種しかない*.Mazda, MZR 2.3 DISI-Turbo, L3-VDT, 191 kW がそれである.国内で搭載されている車種があるらしいが,調べていない."Mazda 6" と "Mazda 3" という名称で欧州に出ている車種に搭載されている.排気量: 2.261 liter,Bore×Stroke: φ87.5×94.0 mm.無過給,ポート噴射のものは MZR 2.3, L3-VE, 122 kW,圧縮比: 10.6 である.例のごとく,RRI, Rototest Research Institute からデータを拾って,三者を下図で比較する.図中の灰色太線はメーカ発表値である."Mazda 6" では圧縮比: 10.6**,"Mazda 3" では圧縮比: 9.5 とある.* スズキ,K6A: 0.66-liter, 47 kW があったが,いまはどうか.** これは 10.6 でなく,9.5 の間違いである可能性がある.下で再度述べる.
まず,L3-VDT への最大過給圧は 1.7 bar くらいであるということがこの図から読み取れる.フラットトルク域の低速端が 1,500 rpm ではなく,2,500 rpm あたりになっており,ターボチャージャの特性に拘束されているとはいえ,1,500 rpm くらいの低速から過給を効かせるに至っていない.これはいわゆる Down-sizing の範疇に繰り入るものではなく,従来思想に基づく過給にすぎない.直噴なのに低速に過給せずして何が今時か.ノックを抑制することができないが故であると考えられる.1,000 rpm では過給効果が全くなく,無過給機よりもトルクが下がるのは PSA/BMW, EP6DT と同様である.
また,"Mazda 6" での 2,500 rpm 以下の,フラットトルクに近づくまでの低速域,ならびに 5,500 rpm 以上の高速域で,公称値との乖離が大きいことに驚かされる.それでも,"Mazda 6" では,最大トルクと最大出力について,その数値だけは公称値を切らないよう,ピーク点が巧妙に設定されている.2,000 rpm あたりのトルクの落ち込みも目立つ."Mazda 6" の高回転端ではメーカ発表値の 2/3 にも達していないのは特に酷い."Mazda 6" で圧縮比が 10.6** であるなら,無過給と同一であることだけは評価できる (** ただし,この 10.6 という値については RRI の間違いである可能性がある.東南アジアに出ている Mazda 6 や CX-7 に搭載されているものなどを見ても 9.5 となっている)."Mazda 3" の圧縮比は 9.5 である.公称最大トルクカーヴを "Mazda 6" のそれと較べると,低速での最大トルクを上げようとしていることは,回転の低い 2,000 rpm にてフラットトルクに移行するというところ (公称値:灰色線の比較) からうかがい知れるが,2,000 rpm における実測全開トルクは公称値の 3/4 ほどしか出ておらず,成功していない.それに加えて,高速側では公称最大出力が実際には得られていない.実際に使えば,5,500 rpm あたりで砕ける感じがあるに違いない.ターボチャージャがいくぶん異なるのかも知れないが,これら二者は同一のエンジンであり,差は主にテューンの仕方によるものであると考えられる.
工学では,論理が求められるそれ以前にまず再現性がなくてはならない.車輌の駆動輪軸での値がエンジン単体での性能よりやや低くなるのは,駆動系の損失があるから当然のことであるが,回転速度と関わる特性が変わることはない.公称値が実測で再現されないことを RRI の複数のデータは語っている.エンジンの特性云々の前にここが疑義がある.メーカが発表している公称値がエンジン単体でのものであるのか駆動輪軸でのものであるのかは明らかでないが,公称値と実測値との乖離は褒められたことではなく,むしろ恥ずかしい.企業倫理の問題でもある.当事者の弁明を訊きたい.
すでに,偉大なる試行 のページに挙げたが,参照に便利なように,"過給・直噴火花点火機関" の代表例として,VW, 1.4 TSI, BLG,PSA/BMW, 1.6, EP6DT のエンジン性能曲線を下に再掲する.
VW, 1.4 TSI, BLG |
PSA/BMW, 1.6, EP6DT |
1,500 rpm における最大トルクを較べると,VW, 1.4 TSI, BLG で 220 N⋅m,PSA/BMW, 1.6, EP6DT で 230 N⋅m 出ているのに対し,排気量でそれぞれ 1.64 倍, 1.44 倍ある Mazda, 2.3 DISI, L3-VDT ではそれより低い 210 N⋅m に留まっている.Mazda 6 での公称値は 260 N⋅m,Mazda 3 での公称値は 300 N⋅m と読み取れる.
Mazda からは "SkyActiv-g 2.5T" 2.488-liter が 2016 年に出た.
直列 4-cylinder, 2.488-liter, Bore×Stroke: φ89×100 mm, 圧縮比: 10.5:1, 最大出力・最大トルクについては,186 kW @5,000 rpm, 420 Nm @2,000 rpm.350 Nm @1,250 rpm
日産 "MR16DDT" が類するものとして 2010 年に出ている.数の出る車種に搭載する気は全くないように見える.2011 年に Juke に載った.我国にも持ち込まれたれたかどうかはっきりしない.4-cylinder, 1.618-liter, Bore×Stroke: φ79.7×81.1 mm, 圧縮比: 9.5:1, 140 kW@5,600 rpm, 240 Nm@2,000-5,200 rpm.エンジン性能曲線は下図.
Subaru "FA20 DIT" 2.0-liter が 2012 年に登場した.水平対向 4-cylinder, 1.998-liter, Bore×Stroke: φ86×86 mm, 圧縮比: 10.6:1, ターボチャージャは Honeywell 製.最大出力・最大トルクについては二機種,206 kW@5,700 rpm, 350 Nm@2,000-5,600 rpm ならびに 221 kW@5,600 rpm, 400 Nm@2,000-4,800 rpm.エンジン性能曲線は下図.
燃料消費率等高線などが入手できないので,コメントはできない.
Toyota "8AR-FTS" 2.0-liter が 2014 年中頃に出てきた.もっとも Downsizing と大きく謳っているわけではない.直列 4-cylinder, 1.998-liter, Bore×Stroke: φ86×86 mm, 圧縮比: 10.0:1, 最大出力・最大トルクについては,175 kW (238 PS)@4,800-5,600 rpm, 350 Nm@1,650-4,000 rpm.最大過給圧は 2.1 bar, abs らしい.Intercooler は水冷.D-4ST と呼ばれる燃料供給系はシリンダ内直接噴射だけでなく給気ポートへも噴射できるようになっている.シリンダ 1-4 と 2-3 の二つの Pair で排気は Twin-Scroll Turbocharger に導かれている.Turbocharger は 自社製.Boost が必要ない領域では吸気弁遅閉じ Miller Cycle となるよう VVT-iW という連続可変動弁機構がついている.燃料は RON 98 以上の Premium.エンジン性能曲線は下図左,4-2-1 排気系は右.
同じ行程容積 2 liter,同じ Flat Torque 値 350 Nm,同じ圧縮比: 10.0:1 を持つ BMW "N20 B20 A" 2011 とこれらを比較したくなるであろう.直列 4-cylinder, 1.997-liter, Bore×Stroke: φ84×90 mm, 圧縮比: 10.0:1, 最大出力・最大トルクについては,180 kW@6,500 rpm, 350 Nm@1,250-4,800 rpm.混合気形成方式は Spray-Guided.エンジン性能曲線は下図.BMW "N55 B30" の特性も参照されたい.
Toyota "8NR-FTS" 1.2-liter が 2016 年に出た.
直列 4-cylinder, 1.998-liter, Bore×Stroke: φ71.5×74.5 mm, 圧縮比: 10.0:1, 最大出力・最大トルクについては,85 kW (116 PS)@5,200-5,600 rpm, 185 Nm@1,500-4,000 rpm.
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