オクタン価,Octane Rating, RON & MON |
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さらに Octane Index |
燃料の着火性の指標とは言うものの,ディーゼル燃料:軽油・重油についてのセタン価 CN: Cetane Number/Rating,火花点火機関用のガソリンに関するオクタン価 ON,すなわち RON: Research Octane Number/Rating (F-1) ならびに MON: Motor Octane Number/Rating (F-2) は直裁的に着火遅れを記述するものではない.オクタン価 ON はエンジンでノック Knock, Knocking が起るかどうか,つまり,アンティノック性 Anti-knock Property を表現する一手段に過ぎない.
RON や MON は CFR: Co-operative Fuel Research Committee エンジン*1 を使って規定の条件*2 で測定される.標準燃料 PRF: Primary Reference Fuel を iso-Octane と n-Heptane の混合液として作り,iso-Octane の容積 Percentage をその標準燃料と同一条件でノックがおこる燃料のオクタン価とする.このことは iso-Octane のオクタン価が 100,n-Heptane のオクタン価が 0 という意味でもある.
*1 Single-Cylinder, Water-Cooled Four-Stroke-Cycle, Carbureted Engine w/ 0.622-liter, φ83×114, Variable Compression-Ratio: 4 to 18. Build by Waukesha Enginne Company in 1928, now Dresser Industries, Waukesha.
*2 ASTM D2699-09 & ASTM D2700-09, JIS K 2280, DIN EN ISO 5163/5164
Test Engine conditions | Research Octane Rating, RON | ||
====================== | ====================================== | ||
Test Method | ASTM D2699 | ||
Engine RPM | 600 ±6 rpm | ||
Intake air temperature | Varies with barometric pressure | ||
(eg 88 kPa : 19.4 oC, 101.6 kPa : 52.2 oC) | |||
Intake air humidity | 3.56 - 7.12 g H2O /kg dry air | ||
Intake mixture temperature | Not specified | ||
Coolant temperature | 100 ±1.5 oC | ||
Oil Temperature | 57 ±8.5 oC | ||
Ignition Advance - fixed | 13o bTDC | ||
Carburettor Venturi | Set according to engine altitude | ||
(eg. 0-500 m : 14.3 mm, 500-1000 m : 15.1 mm) | |||
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Test Engine conditions | Motor Octane Rating, MON | ||
====================== | ====================================== | ||
Test Method | ASTM D2700 | ||
Engine RPM | 900 ±9 rpm | ||
Intake air temperature | 38 oC | ||
Intake air humidity | 3.56 - 7.12 g H2O /kg dry air | ||
Intake mixture temperature | 149 ±1.1 oC | ||
Coolant temperature | 100 ±1.5 oC | ||
Oil Temperature | 57 ±8.5 oC | ||
Ignition Advance - variable | Varies with compression ratio | ||
(eg. 14o - 26o bTDC) | |||
Carburettor Venturi | 14.3 mm |
これらの条件はその規格に定められた当時の自動車用エンジンの状況が如実に反映されていて,エンジン回転速度は充分に低い.また,MON の条件では混合気吸入時温度が 149o C と極めて高い.ここで当時というのは CFR エンジンが出てきた 1928 年あたりを指す.こうしたことは必ずしも現状に合致しておらず,そこを修正しようとして "Octane Index, OI" *3 が提案されている.それは下のようである.
OI = (1 - K) × RON + K × MON
ここに K は効果の重みを表す係数である.これは模式的な表現であって,変数は Italic で一文字という数学の原則に従うなら,例えば下記のようにしなければならないであろう.
この OI ならびに K について注意しておかねばならないことは,エンジンとか運転条件が変わったときに,現実的なアンティノック性から見てどういう K 値を示すのかということを問うているという点である.まず,PRF に対しては RON = MON = OI と定義されており,PRF の OI は常にオクタン価そのものであり,RON テスト条件では K = 1,MON テスト条件では K = 0 である.RON = MON = OI という表現が誤解を生むのであるが,PRF の RON や MON は OI に等しいというのは,上式に当てはめて K = 0.5 ということでない.K とは,PRF 以外の通常の燃料で運転したとき,その運転条件が要求する K 値であり,燃料の RON や MON に較べ,OI が上がって,現実的なアンティノック性が上がっているのか,それとも下がっているのかを見るのである.
*3 Kalghatgi, G. T.: "Auto-ignition Quality of Practical Fuels and Implication for Fuel Requirements of Future SI and HCCI Engines", SAE Paper 2005-01-0239, (2005)
旧来のエンジンに対するアンティノック性指標に加えて,K という係数ひとつを導入すれば現状に合わせることができるのかどうかはともかくも,オクタン価の規格が定められた時代には K は正であったが,時代を経るにつれて小さくなり,1950, 1960, 1970 年代には停滞しておよそ 0.25,1980 年代から継続的に下がり,2010 年でほぼ零ないし弱い負となり,現在では K = -0.4 くらい,結果として OI は RON よりも大きくなってきているという.それは運転条件設定でシリンダ内圧力が上がっているのに並行して吸入混合気温度が漸次低下していることによるのであろう.いま MON で考えて事が済むのはレーシングカーくらいであるらしい.こういう時間経緯は市販燃料を長年調整している企業の人でないと知り得ないことである.しかしながら,現今のエンジンではかなりの EGR が付与されており,温度上昇が無い条件下 EGR 10 % で火炎速度は 20 % 低下するとされるところを,内部 EGR で温度を高めて火炎速度を補償,確保している.K が負であることと,内部 EGR で混合気温度がかつてより上がっていることとの整合性があるのかという疑問もある.
大雑把に言えば,K 値は,運転条件の内でも,シリンダでの圧縮終り温度・圧力で決まり,圧縮終り温度が低い条件が与えられたときには K 値が低い.さらに,現在の火花点火機関でアンティノック性を言うなら,K 値はほぼ 0 であるから,RON だけで済むということである.それ以上の意味はない.これが Science かと問われれば返答に窮するが,これが Engineering である.RON, MON にかかる係数を (1 - K), K と相補的 Complementary にし,一変数で表したところに工夫がある.もっとも,相補性が厳密に成立するという根拠はないと思われる.HCCI に適用して,K = -1.6 とか K = +2.2 とかというところについては K 値の絶対値も大きいので,この相補性と オクタン価の加成則 とを含めて,しっかり考えなければならない.
もちろん,"Octane Index, OI" は研究者のあいだで議論されているだけであって,工業規格であるとか,市販燃料の性状表示に使われているわけではない.下の図のように,"Octane Index, OI" とノック発生限界点火進角 Knock-limited Spark Advance とはほぼ一義的な関係を保つといい,また,車輌の加速との一義性も認められるという.下図では,MON とノック発生限界点火進角とのあいだに相関がないことも表れており,さらに,OI で整理することにより,MON の情報も入って,RON での整理に存在するばらつきが解消されている.
K =0.5 であれば,OI = (RON + MON)/2 であり,これは米国で一般に使われるオクタン価指標 AKI, Anti-knock Indexとなる.しかし,米国の運転条件が K =0.5 に相当するという意味では全くない.現在市販されているガソリンでは,RON > MON なので,"Fuel Sensitivity, RON - MON" は正であって,この差値は各種市販ガソリンで大きくは変わらない.MON と RON とは互いに常に独立というわけではなく,練成していることが多い.そのため,ガソリンオクタン価が米国でのように AKI 値 で表示されていようと,我国や欧州諸国でのように RON で表示されていようと,絶対値は異なるものの,また,その種類の数に違いがあっても,これらの諸国間ではほぼ同じアンティノック性のガソリンが数種販売されている.現在の車輌運転条件では K 値は 0 から -0.4 くらいで,同一 RON 値を持つ燃料同士なら MON 値の低い側の燃料の "現実的なアンティノック性" が高いと上式は述べているのであるが,そういう別々の燃料が市販されているということではない.
Livengood-Wu 積分 に使われるような着火遅れ τ に含まれる圧力依存性 p-n に関して,PRF には指数 n =1.7 である*4 としても,ガソリンには 1 より小さいところからせいぜい 1.3 までと言われている*5.ガソリンの方が着火遅れは短くなりにくい.そうしたことも,圧力の高い場が出来するエンジンでは PRF とガソリンとでアンティノック性が乖離し,そのガソリンの RON より "Octane Index, OI" の方が大きくなる理由のひとつである.
*4 Douaud, A. M. and Eyzat, P.: "Four-Octane-Number Method for Predicting the Anti-knock Behaviour of Fuels and Engines", SAE Trans. 87, SAE Paper 780080, (1978)
*5 Gauthier, B. M., Davidson, D. F., and Hanson, R. K.: "Shock Tube Determination of Ignition Delay Times in Full-blend and Surrogate Fuels, Combust. Flame 139 (2004), pp. 300-311
Still not fixed.
名古屋工業大学大学院の 「内燃機関特論 」 という科目で講義していた内容の一部,もしくはそれをすこし増補したものである. 読者を想定している書きようであるかもしれないが,聴講者のある講義が基であるがゆえであり,本稿の趣旨は自分のためのこころ覚えである. |