聞くと鬱陶しくなる! |
こういうのをお読みになればきっと,書き手の "物差" がどういうところにあるかということの方に気がまわるでしょうね.
このページを読んだ別の学科の学生から 「先生も大変ですね,もっと気持ちを楽にして生きていきましょうよ」 と慰められたが,大変なのは私ではないことを認識なさっていないようです.私も今の世に汚染されて,気持はすでにダラァっとなってしまっているわけですから,気持を引き締めようとすることはあっても,さらに楽にしようなどとは思いません.
こういう Website もあります.さらにこういう Website もあります.
|| "ら" 抜き言葉のすべて || 「食べれる」 はその代表.最近は 「見れる」 というのも多い.疲れる.
|| いけてる || 「こいつはいける」 というくらいまでが限度ではなかろうか.『来年1月−2月に発売とされる、ドコモの次期FOMA。主管を務めるiモード企画部長のzyx氏は、「デザインひとつについても私が文句を付けている。イケてる端末」だと話す。』とのことである.そりゃきっと洗練されたデザインでしょうよ.
"こんどの土日" ではどこがいけないのか,という質問を受けた.まず響きが汚い.それだけではなく,話し言葉でなら,"こんどの土曜,日曜" というのと時間的になんら差がない.無いのに吝むその気持が貧しい.同調できない.これと同じようなことなのだが,学会の講演で 「秒」 を 「セック」 という人がいる.耳障りである.「セカンド」 と言っても講演時間が減るわけでもあるまいに.「セック」 の響きはもちろん良くない.昔,単位記号として [sec] が使われたことから来ているのかもしれないが,SI 単位系では [s] であり,それをいまや 「セック」 と読む根拠はさらさら無い.
|| 立ち上げる || 「立ち上がる」,「建てあげる」 という言葉ならあると思うが,「立ち上げる」 は日本語ではなかろう.しかし,これに変わる適切な言葉も見当たらない.悔しい.「新しく始めて,ある程度のレヴェルにまで育てる」 では長すぎるであろうから.
防災科学技術研究所の坂田正治氏は私と同窓同級であるが,ここを読んで,代わりの言葉がなくはなく,単純に 「立て上げ」 といえばよいと言う.
これに似て || つなげる || がある.「次につなげる」 というように使われている. 「繋ぐ」,「繋がる」 という語しか本来は無い.さてどうする.
|| 改善した || 「私はそこのところを改善した」 というような使い方ならいいのだが,経済紙を読んでいて 「A 社の粗利益はこの四半期で 1 ポイント改善した」 などとやられると,急に胃の調子が悪くなる.最近,これでない方を探すのが困難なほどにはびこっている.日経型改善ヴィールスか.
|| 今月ドイツで開催する世界選手権大会 || 「今月ドイツが開催する世界選手権大会」 か 「今月ドイツで開催される世界選手権大会」 しかなく,基本は後者だろう.それとは別に (あるいは,別にではなく本当に主格が明確でないためか),最近は,誰が開催者で,誰が主催/主宰しているのか,はっきりせい,と言いたくなるような会合が増えて,実に鬱陶しい.主催/主宰者なら仕切るところは仕切れ.会期中に出席者に相談を持ちかけられても困る.
|| いただけますよう || これは話し言葉としてはあまり聞かれないから,見ると鬱陶しくなるの部類だが 「ご返事いただけますようお願い申しあげます」 などと書いてあるのを見ると実に鬱陶しい.どういうきっかけで 「いただけますよう」 になってしまったのであろうか. 本来 「いただく」 のは自分の行為であるから,「いただきますよう」 でも大いに問題があり,「くださいますよう」 と相手の行為として言うべきものである.大学の先生でかなりの年齢の方までがけっこうこれなのは嘆かわしい.け を入れて "可能" の意を含めたいのなら,「ご諒解いただければ幸いです」,「ご了承いただければ願ったりかなったりでございます」 というように使う.
|| 「ナァ」 の氾濫 || 「ナ」,「カナァ」 はもちろんのこと
> それを紹介したいナァと考えたこともありました.
> そういうことじゃなかったかナァと思います.
> そういうふうじゃなかろうかナァと思います.
> 次の仕事はこれかナァと思っています.
> 皆様にお買い上げいただけるのではないかナァと考えています.
というような言い回しを最近頻繁に耳にします.どこか変です.かつてはこういうことはありませんでした.もちろん 「ナァ」 だけでなく 「ナ」 も含みます.
> そういうことじゃなかったかナァと思います.
については
--> そういうことじゃなかったかナァ.* 単なるひとりごと
--> そういうことではなかったと思います.* 普通の人の普通の発言
のどちらかでしょう.
> 皆様にお買い上げいただけるのではないかナァと考えています.
全体として丁寧な表現を指向しているにもかかわらず,途中に 「ナァ」 という "Casual" な音節がはさまるので,一挙に話者の知的水準を疑わせることになります.
もちろん上述のうちでも 「カナァ」 というのが最も鬱陶しいのは言うまでもありません."カ" が入ることで不確定性がさらに高まっています.
> 充実した一年が送れたんじゃないカナァと思います.
> それにしたいナァと思います.
> 今後発展させて行きたいナァと思います.
> そういうふうにできるといいナァと思ってやってます.
こういうのを聞くと,自分のことなんだからもうちょっとはっきり大人の言葉でしゃべってよ,と実に鬱陶しく感じます."〜できるといいナァと思う" という表現はいまの流行のようです.まるで子供です."〜を目的,目標として努力しています" くらいに話すのがまともな大人でしょう.
「彼はそのとき,そういうように述べたと記憶します.」 と言うところを「彼はそのとき,そういうふうに言ったんじゃなかったかナァと思います.」 と表現することで,どれだけニュアンスが変わるかお解かりいただけるでしょう.前者で進行させるべき場所,局面でもいまは後者がまかりとおっています.若い人達だけではありません.五十,六十歳台でも多く見受けます.「「ナァ」 も 「ナ」 もすべて無しに願います.無しの方が正しく意味が伝わります.
ドイツ語で接続法第二式という間接話法を使うと 「確実さを保留」 することができます.上記のような会話表現には,それと考え方として近いところがあるのかもしれませんが,会話での詠嘆詞 「ナァ」 が "Formal or official" な場でも出てくることに違和感があるわけです.
> ランチのほうが料金もおとくかな〜と思います < 「料金もおとく」 も手伝い,これでは気持が悪くてレストランにも行けませんがナ.
|| カタログにはいいことしか書いていない || 最近こういう物言いが増えてきた.日本語に特有の "暗黙の主語" を考えても筋がとおらない.「書いてない」ならまだ辛抱できる.「書かれていない」 と受動で表現するよりない.「猫舌三昧」柳瀬尚紀,朝日新聞社,でも 『と 「論語」 には書いていない』(p. 53) という表現を見た."カタログには" と同列である.「孔子は書いていない」 という表現なら,孔子に対しての尊敬の念が微塵もないことに懸念があるが,まだ許せる.「そう言えば,日本は湿度が高く,不快指数が最高の国だとガイドブックに書いていたのを思い出した.京都教育大講師 xyz」 というのを見た.これで教育されていたんではもう ・・・.
|| 一部に修正が必要であるかと思います || ここに 「か」 が入っているから,修正しなくとも済むという程度であると判断し,そのまま放っておくと,修正の請求が来る.初めから 「か」 抜きで言ってよこせ.
|| 16:20 から,同じ場所で,予定していますのでよろしくお願いします.|| 「よろしくお願いします」 と言っておけば済むとの考えなのかもしれないが,聞く方とすれば,"何を頼まれているのか" 分からないので不安である.このコンテキストの場合,「出席せよ」 なのか,「掃除をしておいて」 なのか,とにかく,依頼内容が不明である.もっとも私もたいてい 「よろしくお取り計らいくださるようお願いします」 と言って済ませている.こうして "とりあえずよしなに計らっておいて" と相手に下駄を預けておく.けれども,少なくともそれで 「取り計らう」 という依頼事項は特定されている.
|| 責任者の先生,対応,宜しくお願いします|| 前項と似ているが,いまや大学内でもこういうのが平気で流れている.軽すぎる.幼稚園じゃないぞ.「頑張りますので,応援よろしくお願いします」 と言っているのと同程度のおつむ.「責任者の先生にはよろしくご対応くださるようお願いします」,「責任者の先生にはよろしくご対応くださるよう願い上げます」と朱を入れておく.
|| になります || 先日,東京駅で新幹線に乗ったら,名古屋で降りるまでずっとこれでした.「この列車はひかり,岡山行きになります.次の停車駅は新横浜になります」 から始まってあらゆる車内アナウンスが 「なります」 口調なのである.「次の停車駅は新横浜になります」 と聞かされると,その次の停車駅は「京都になります」 と突然言われて,名古屋には停車しないのでないかとの不安にかられる.あたしぁ名古屋で降りますよ.もともと決まっているものに対する 「〜になります」 アナウンスは,本来のものから変わるというニュアンスを注ぎこむ.いまは平静な気持でいようとするなら,自分が持っているセンサのいくつかを外しておかなければならない.「〜です」で済むところに「〜になります」を使うな.まぎらわしいじゃないか.
* 「新幹線に乗る」 という表現も本来なら避けたいところ.新幹線というだけでは路線以外に列車を含むかどうかに疑義があるから.
|| ご出発された || 「された」 の前方に 「ご」 をつけないでもらいたい.「出発された」,「ご出発になった」 が正しい.前者は 「出発する」 という動詞から,後者は 「出発」 という名詞から敬語表現へ進んだものである.「ご利用できます」 というのも同じ部類である.「利用できます」か「ご利用いただけます」 でなければならない.そのうえ,このごろは単に 「使える」 という意味でしばしば 「利用できる」 が使われたり,単に 「買ってください」,「お買い上げください」 というところを 「ご利用ください」 などと 「利用」 という言葉が曲げて使われる例を耳にするが,実に不快である.
「こちらは KDDI です.おかけになった電話番号は現在お取り扱いしておりません.」,
「今後、メール配信をご希望されないお客様は、お手数ですが本メールを stop@ebankjp.com へご返信ください。」
というような事例は日常茶飯事である.企業にはまともな年寄りはいないのか.《次項も同様》
|| 電信振替:電信振替は送る方、受け取る方の双方にゆうちょの送金のための口座を用意していただき、送る方の口座から受け取る方の口座に口座の預り金を振り替える送金方法です。即座に振替の処理を行いますので、すぐにお受け取りできます。|| 説明の内容理解不能.「ゆうちょの送金のための口座」 というなかの 「送金のための」 は不要ではないか.全体としてこれで丁寧な表現なのか.「送る方」 は 「送るかた」 なのか,それとも 「送るほう」 なのか.「即座に振替の処理を行い」 とあるが,これの主語は人間なのかシステムなのか.もし人間なら,通常の郵便振替払込手続きに郵便局へ行っても 「即座に振替の処理を行」 わないぞという断りの意を含むのか.「すぐにお受け取りできます」 にはもう目も当てられない.
|| おっしゃられた || これは東海地方だけの一種の方言なのであろうか.当地でしばしば耳にする.「おっしゃった」 以外にはないのではないか.「おっしゃる」 だけで充分な尊敬語なのだから.
「(会場に) 行かれている方はすでにお気付きだと思いますが,」 という表現も聞かれる.「(頭が) いかれている方は」 のように聞こえることがある.せめて 「おいでになった方は」 or 「(しばしば) おでかけになっておられるなら」 ではなかろうか.
|| どなたか経験がある方がおりましたらご指導をお願いします.|| こんな輩になんぞ誰が教えてやるものか.「どなたか経験のある方がおられましたら」,「どなたか経験がおありでしたら」 あたりにしてくれ.
|| 鉄斎の作品は、偽物が大変多く、この作品が真筆であるとは言えません。|| 鉄斎の作品であるなら鉄斎の真筆に違いなかろう.
|| ぜひご覧いただければ幸いです。|| 「幸いです」 は弱い勧誘,「ぜひ」 は強い勧誘.整合性なし.
|| ヨーロッパの宮廷でステイタス・シンボルとして珍重された有田焼 || これでよいようにも思ってしまうのだが,ステイタス・シンボルとして大切にされたのは確かながら,柿右衛門手,古伊万里手はヨーロッパの宮廷で互いに競いあうほどにステイタス・シンボルとして "広く認識されていたもの" なのだから,「ステイタス・シンボルとして」 に 「珍重 (珍しいものとして大切にする)」 と続くのはやはりなじまない.整合性が低いと言わざるを得ない.一般的なものが 「珍」 と表現されているからである.「珍」 の置かれるべき位置が違ってはいまいか."これでよいように" 一見思われるのは,ヨーロッパ全体として見れば 「珍 (珍しいもの)」 であると認めているからであろう.「ヨーロッパの宮廷で珍重され,ステイタス・シンボルであった - - -」 なら文句は言わない.はたまた,「有田」 はよいとして,「有田焼」 はどうか.
|| 海外でインターナショナルキャッシュサービスをご利用の場合は、帰国時に暗証番号を変更されることをお勧めいたします。|| 「帰国時に」 というのは,微妙ではあるが,まだ 「海外に」 いるときということのはず.そのときにやれというのか.それ以上に,その前が 「ご利用の場合は」 と未然形に近いものになっていて,これから使うための注意事項が出てくる用意となっているのとそぐわず,この言葉どおり解釈するなら海外でキャッシュを出すことができない.前段を過去形にし,後段を「帰国後に」 とするよりない.
|| 退官される方のために、全学教職員用メールサーバにて、メールスプール保存サービス・メール転送サービスを行っています。|| これは一月時点での案内.「退官される方」 というのは退官が近いとはいえまだ在職中の人であって,すでに退官したというわけではない.保存サービス/転送サービスを退官前に始める必要があるのか.いま若い人もいずれは 「退官される方」 なのだから,これの該当者は全員であると言えなくもない.いずれにせよどこかに 「退官後の」 あるいは 「退官されたのちも」 というのがなければ意は尽くせまい.それにいまや国立大学法人に移行したのだから 「官」 はもう学内にはひとりもいないのだが.
|| まもなく名古屋に到着をいたします / すぐに発車をいたします || Deutsche Bahn に乗ると,主要な駅に到着する少し前に,正確なドイツ語で,かつ小音量で "In wenigen Minuten erreichen wir . . . " というような車内案内がなされるのを聞く.名詞の後ろに見境なく "を" を付けるのは我国鉄道業界専用語法なのかと思っていたら,「相談をします」,「協議をします」,「検討をします」,「決定をしました」 などと,どんどん一般へも拡がる勢い.「相談をして決定をしました」はないだろう.「相談して決めました」 となぜ言わない.「名古屋市長が緊急要望を行いました」 としゃべるアナウンサもいた."朝のバロック" という FM 放送番組に土,日曜日に出るアナウンサは 「活躍をして」 と言う.なんとかならぬか.早朝から気分が悪いじゃないか.いずれ 「就寝を行います」,「起床をします」 なども出てくるのだろう.
|| 今日の午前十時すぎ小泉首相が靖国神社を参拝しました || 「靖国神社 "を"」 という四格での表現を最近しばしば見かけるようになった.しかし,本来の日本語は 「靖国神社 "に" 参拝した」,「靖国神社 "へ" 参拝した」 と三格になっていなければならないだろう.「参拝する」 は英語では "visit",ドイツ語なら "besuchen" であり,英語の場合には三格/四格の区別が難しいものの,ドイツ語では明らかに四格の目的語をとる.「今日の午前十時すぎ小泉首相が靖国神社を参拝しました」 と表現して気持が悪くないのはきっとドイツ語を勉強し過ぎたからに違いない.「御霊 "を" 拝む」 のなら四格でよい.
|| 周知 || 「機関内の全ての関係部署に対し、確実にご周知いただくとともに、この主旨を踏まえ、より一層の適正管理を図っていただくよう、お願いいたします。」 というような通達が文部科学省大臣官房XX課YY室というようなところからしばしば届く.「周知」 というのはこういう使い方をするものなのか.少なくとも「ご周知」 はないのではないか.ここでは 「周知徹底させる」 でしかないし,そこに 「徹底」 があれば 「確実に」 は必要なかろう.また,「いただくよう、お願いいたします。」 のように "、" や "," をあいだに入れるものではない.もちろん,大学事務局に来た通知を,こういうものが来たとそのまま添付して掛員が個々人に配るだけでは,なんら実質的効果はなく,「周知徹底」 には至らないであろうことはご推察のとおり.