ピストン圧縮自着火まえ低温度炎発現の不均一性
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Inhomogeniety of Low-Temperature Flame Onset
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低温度炎発現形態,Packet Nature


 ピストン圧縮自着火を扱うに当たって考えておかなければならないのは,ピストン圧縮自着火の前駆として出て来る低温度炎,すなわち冷炎,青炎など,は空間的に不均一にしか発生しないのではないかということである.この点については,混合気流動や混合気乱れも影響するので,現象の把握には慎重でなければならない.

 右の図,上はピストン圧縮で生じる冷炎のシュリーレン写真 (1) である.可視化モータリング機関 が用いられ,燃料にはジエチルエーテルが充てられた. 連続運転ではなく,単一回の現象生成である.図,下の圧力履歴には冷炎反応に依る発熱が記録されている.そこの青色光発光履歴からも分かるように,冷炎出現のあとに強い青炎が生じている.この実験では冷炎と青炎とがオーヴァラップして出現しないように,さらに,熱炎が発生しないようにと,圧縮行程はゆっくり,膨張行程は素早く進むよう細工がなされている.冷炎の縮退のあと急速に膨張させて青炎の出来を弱めようというわけである.青炎反応に依る発熱もかなりあるはずであるが,急速膨張の上に乗っていて,圧力履歴では判別しにくい.これらの低温度炎は 冷炎支配域 高温側に属するものである.

 冷炎出現の粗さのサイズは数 mm,あたかも米櫃を覗いたときのような,米粒大 Cell 状の冷炎が認められる.層流の Powling バーナで定常的に低温度炎を保持させた場合 (2) には Cell 状にはならず,水平方向に均一で流れ方向に温度,色が変化するだけである.しかし,バーナで低温度炎をつくったときでも,乱れがあるときには必ず "Packet Nature" を示すと Dumas らは (3) 言っている.乱流バーナでの低温度炎は Cell 状であると解釈される.乱流低温度炎バーナの経験は我々にはない.


 冷炎が縮退したあとやや時間をおいて生じた "青炎" のシュリーレン写真は右のものである.三枚の写真は左から右へと時間が進んでいる.これらからはどこに青炎があるのかは分かりにくいが,ムーヴィとして流して見ると,黒く抜けた部分がそれであると知れた.その様子の説明として手書きを添えたのが下の列である.

 冷炎核は無数に出て,上述のような米櫃を思わせる冷炎発現となるのであるが,青炎の発現は塊となりその数は僅かに数個である.どういう理由で多数から少数へと遷移して行くのかはまだ分からない.ムーヴィで見ると,次々と合体している様子はうかがえる.

 この観察実験では,燃料・空気を計量して別途密閉容器に入れ,二時間以上静かに撹拌して混合気が作成されており,混合比の不均一は全くない.また,エンジンシリンダの壁温を圧縮開始時の混合気温度に合わせてある.均一から出発しても不均一な出現となる のがピストン圧縮低温度炎の特徴である.

 往復ピストン式エンジンや急速圧縮機によるピストン圧縮の場合,圧縮行程で混合気に必ず掻き揚げ渦 (Roll-up Vortex) が付与される.それが "Packet Nature" の理由であるかどうかははっきりしないが,低温度炎が Bulked Reaction Volume という状態でシリンダ内に生じることはなく,必ず大小の空間的なスケールを伴う組織になる.低温度炎発現が零次元の均一反応場で生じると単純に設定された計算とのあいだに差があったとしても何ら不思議ではない.


 シリンダ内に置かれた着火まえ誘導期チャージの平面内温度分布を調べた長谷川らの研究 (4) がある.イソオクタンの当量比 0.27 の混合気を予混合圧縮着火させ,前炎反応期間の温度が感温色素にて計測されている.

 注目すべきは空間平均温度履歴やその偏差だけでなく,上述のシュリーレン写真と同等,米粒大 Cell 状の低温度炎発現となっていることである.

 しかし,上述の低温度炎発現観測と異なり,冷炎の弱いイソオクタンが燃料であることや,圧縮比が高いことなどから,負の温度係数域後端から青炎支配域にかけての温度域 に相当する着火であり,冷炎縮退後における τ2 誘導期チャージの状況が図示されていると演繹される.冷炎が観測されている可能性は高くない.温度の分散は数 100 K に亘っている.ここの四枚の図以降の後期に,火炎塊スケールが大きくなるとコメントされており,そこが青炎発現であると思われる.

 上述の冷炎・青炎観察と異なり,IMEP: 0.25 MPa / 1200 rpm の連続負荷運転時のものなので,残留ガスの影響はもちろんある.供給混合比の不均一性については言及されていない.冷炎,青炎が個別に同定されていないこと,それに伴い冷炎・青炎・熱炎の時間的分離を図り得ない現象が扱われていること,吸入空気温度 393 K と圧縮比 15.9 が与えられているものの,圧力履歴が示されていないことなど,燃焼学の視点からのものでないことが惜しまれる.


 低温度炎が空間的に不均一にしか発生しないということが特徴であっても,それが本質であるかどうかについてはなんとも言えない.しかしながら,ある局所空間がエリートになってそこだけが先へ進もうとする傾向が認められる.どこか一部でも熱炎になればそれは着火であるから,エリートを育てる場合の方が着火は早く起こる.「低温着火とは自分で場の温度を上げなければならない着火である」 と言う所以である.

 このように低温度炎発現が空間的に不均一であるということになると,反応空間にスワール Swirl などの混合気流動があると,それが着火誘導期中の不均一チャージを撹拌するという操作を果たす.これについては別途 混合気流動 のページを用意する.


文献の所在

  1. Ohta, Y. and Takahashi, H.: Homogeneity and Propagation of Autoignited Cool and Blue Flames, Progress in Aeronautics and Astronautics, 95 (1985), 236-247, AIAA.
  2. Ohta, Y. and Takahashi, H.: Temperature and Pressure Effects in Cool and Blue Flames, Progress in Aeronautics and Astronautics, 88 (1983), 38-56, AIAA.
  3. Dumas, G. M. L., Barbarin, V., Ben-Aim, R. I. and Al-Andari, J.: 20th Symp. on Combust., Poster #120, (1984).
  4. Hasegawa, R., Sakata, I., Yanagihara, H., Särner, G., Richter, M., Aldén, M. and Johansson, B.: Two-Dimensional Temperature Measurements in Engine Combustion using Phosphor Thermometry, JSAE 20077078, SAE 2007-01-1883, (2007).

Still not fixed.


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