シリンダ内の混合,In-cylinder Mixing |
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往復ピストン式エンジンのシリンダ内で,残留ガス,新気,燃料などがどの程度に混じり合うかというその程度が圧縮終りあたりで起る燃焼の状況を左右する.つまり,温度,濃度,ガス組成の不均一性がどこにどの程度あるのかという知見ということである.
そうはいうものの,それほどよく解っているわけではない.ディーゼルの性能や排気特性を調べて改善が見られると,たいてい「燃料と周囲空気の混合が良くなったためであると考えられる」となるけれども,混合の程度を数値で表現する明確な尺度が確立されているわけではない.想像であって根拠がない.
下の図は可視化されたエンジンで PLIF, Planar Laser-Induced Fluorescence で燃焼室の一断面における温度分布,空気濃度分布を計測した例であって,それぞれが定量であるのが珍しいのでここに挙げた.吸入行程のデータであり,クランク位相は吸排気上死点 TDC からの角度 CA で与えられている.180o CA が下死点 BDC である.燃焼室全域が見えるわけではないが現象の把握に支障はない.
観察されている断面はシリンダヘッドから 20 mm 下,吸気二弁は画面では右下に相当する.20o CA の齣では画面右下に低温の空気,左上に暖かい残留ガスがある.それが,吸入行程で順次空気 (白色) が入って来て,140o 進むとほぼ均一になる様子が知られる.温度・濃度が同時に,かつ定量でなされているだけでなく,単なる Motoring ではなくで,温度の高い残留ガスがある Firing 条件でなされていることにこの計測データの価値がある.
現象として重要なことは,吸入行程の 140o でほぼ均一になるということである.ピストンの動きが如何に有効であるか,あるいは,吸気弁からの流れが混合にどれほど寄与しているかを認識させられる.良い計測である.難を言えば,シリンダ壁付近は隠れているので,その挙動が分からないこと,および,シリンダヘッドにごく近い高さのデータなので,下死点に近づいたとき,シリンダヘッド側の対岸近く,ピストン頂面に近いところでもこういうように均一になっているのかどうかが判断できないこと,である.そういう現れていないところが関係してくる案件を議論する場合にはこのデータだけでは充分でない.
これで圧縮行程まで続いていればさらにありがたいのであるが,残念ながらそこはない.圧縮行程では温度,圧力が上がってくるので,そのままでは測れないようである.
この PLIF, Two-line Planar Laser-Induced Fluorescence は Stanford の R. Hanson and J. Snyder の仕事であり,Tracer として 3-Pentanone が Dope されている.温度計測誤差は 5 K 以下という.
* Snyder, J., Dronniou, N., Dec, J., and Hanson, R.: "PLIF Measurements of Thermal Stratification in an HCCI Engine Under Motored and Fired Operation", DOE Advanced Engine Combustion Working Group Meeting, February 2010.
Still not fixed.
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