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TID/MID, トリプルインフォディスプレィ/マルチインフォディスプレィ

 オペル車に装備されているデッキでは,オーディオ情報はデッキにではなく,別のところにあるトリプルインフォメーションディスプレィ TID か マルチインフォメーションディスプレィ MID に表示されるようになっている.そのためデッキ単独での表示はない.デッキがまともに動くかどうか,機能をチェックしようとしても,ラジオの選局すらできない.TID/MID が手元にないとなにかと不便である.とりあえず "8-文字 TID 表示", "8/10-文字 TID 表示" などを机上に用意し,表示が出るようにした.もっとも,こうしたものより旧い ETY650M タイプのデッキはそれ自体にオーディオ情報表示用液晶ディスプレィを持っているのでその必要は無い.


ただし,もとの図では TID の 6-pin が Illumination につながっているけれども,そこをつなぐと表示がでなくなる.理由はまだ解からない.

 最初に入手した TID, Triple Info Display は "P/N 90-478-319: Siemens 5WK7-442" というもので,"F" Astra 用である.同じ顔つきで "P/N 90-434-642: Siemens 5WK7-418", "P/N 90-437-127: Siemens 5WK7-456" というものもあり,それらは "B" Vita 用であって,顔つきとともに中味も同じであるが,ステイの形状が異なっている.正面には三つの枠があり,左から順に,時計,オーディオ情報 (デッキに電源が入っていないときは日付),外気温 が表示される.写真では温度センサを結線してないので,温度の数値は出ていない.左右は 7-segment Display だが,中央部は 8 文字分の Alphanumeric 14-Segment Display が付いている.日付の初期値は 1992 年.

 Philips の I2C (Inter-Integrated Circuit) Bus と呼ばれる方式で,Serial Clock SCL, Master Request MRQ, Serial Data SDA の三線にて 1200 bps で通信がなされる.デッキ側が Master で,TID/MID 側が Slave になる.通信プロトコルには "Eight-Character Protocol" と "Ten-Character Protocol" とがあるが,上記の TID は 8 文字表示であって,"Eight-Character Protocol" で解釈する.

 "AA" なる線は Antena Amplificator の意であるが,デッキを ON にするとデッキが +12 V を出し,それを受けた TID が中央表示部に出していた日付を引っ込めて,外からの表示要求に備えるというものであり,ポール式のオートアンテナがついている場合には,同時にこの電圧でアンテナが伸びる.

 これらについてはまず, http://www.carluccio.de/index.php?page=pro-tid
なる Site が参考になった.ドイツ語で書かれている.プロトコルやパルスのタイミングなどが整然と記述されている.続いて,ポーランド,ルブリン工科大学,電子工学科,Leszek Szczepaniak という人の
  http://elektron.pol.lublin.pl/users/djlj24/studio24/kable/opeldisp.htm
なる Site があり,そこにも詳しく書かれている.しかし,記述はポーランド語である.

 

 ポーランドには何度も行っているが,語を解するには至っていない.字句については類推の域を出ないのだが,図がおおいに有用である.右の図もそこから引用している.ただし,もとの図では TID の 6-pin が Illumination につながっているけれども,そこをつなぐと表示がでなくなる.理由はまだ解からない.

 この Site の表門は http://www.studio24.prv.pl/ であり,知りたくてもとても他では得られないものが多くて目を見張る.そこの "Kablomania ケーブルマニア" というところには接続ケーブルやコネクタのピン配置についての膨大な情報が納められている.

 英語で書かれた Site としては下記のものがあり,それなりに解かりやすいが,必要なことが何でも書いてあるというわけには行かない.
 http://www.eelkevisser.nl/

 この TID は オペルのカセットデッキ ETY-810M, CQ-LY8351A / ETY-840M, CQ-LY8650A / ETY-850M, CQ-LY5750A / ETY-860M, CQ-LY8950A / ETY-700M, CQ-LY4650A とは問題なく話す.しかし,Subaru Traviq の CQ-GF0100A, H6218XA500 につなぐとオーディオ情報は消える.

 TID には写真のような横長で三つの窓というのだけでなく,二段で三つの窓というものもある.時刻と外気温は 7-segment Display,Alphanumeric 14-Segment Display で 8 文字なるものは,大きさや外見が "10-文字 MID 表示" に似ていても,やはり"8-文字 TID 表示" のようである.

 次に入手した TID は "P/N 00-91-64-455: Siemens 5WK7-0005" というものである.GF-XN140 など,いわゆる "C" Vita についていたものである.

 枠の分割は無くなり,表示は二段に分かれ,上段には左から順に,時計,外気温,下段にオーディオ情報 (デッキに電源が入っていないときは日付) が表示される.写真では温度センサに相当する抵抗を結線して温度の数値を表示させている.温度のマイナス符号を確認するため 82k オームにした.

 上段には時計 4 文字分,外気温 4 文字分の,下段には 10 文字分の Alphanumeric 5x7-Dot Display が付いており,右肩に Snow Mark がある.温度がマイナスのときこれが点灯状態になる.コネクタは 12 ピンで上のものと同じ本数であるが,形状は異なり,ピンアサインも違う.これは "8/10-文字 TID 表示" と呼ばれるものなのであろう.

 この TID は オペルのカセットデッキ ETY-810M, CQ-LY8351A / ETY-840M, CQ-LY8650A / ETY-850M, CQ-LY5750A / ETY-860M, CQ-LY8950A / ETY-700M, CQ-LY4650A と問題なく会話する.Subaru Traviq の MD ヘッドユニット CQ-GF0100A, H6218XA500 とも話すことが確認できた.

 コネクタのピンアサインについては
   http://www.astrasite.de/?id=03106
   http://www.eserviceinfo.com/ にある TID-Connector.pdf

が参考になった.前者を見れば,外気温度センサがどこについているのかがわかる.

 引き続いて入手したものは "P/N 002 419 386: GM 24 418 957". Siemens ではなく Borg 製.2000 年式 "G" Astra, GF-XK180 についていたもの.顔つきは前記の 5WK7-0005 と同じ.

 "G" Astra 用としては他に "P/N 00-91-33-265: Siemens 5WK7-0007", "P/N 00-91-33-266 というものもあるらしい.

その後,ドイツにある Astra G のSite: http://www.astra-g.de/tippsundtricks/tid.htm, http://www.astra-g.de/tippsundtricks/displays.htm にも情報があることを知った.そこには 32-pin コネクタのものが MID であり, 12-pin コネクタのものは TID であると書かれている.

 これの照明電球は "Osram" の 2 W で P/N #90566032, "20 98 925", @ 260.- である.

 

P/N 00-91-64-455, 5WK7-0005
Siemens. "Corsa/Vita C"
日付の初期値は 2000 年

正面の顔つきも,コネクタ,ピン配置も同じ.標示の仕方が微妙に違う.

 

P/N 002 419 386, GM 24 418 957
Siemens ではなく Borg. "Astra G"
日付の初期値は 1997 年

 この二種に関するピン配置やリード線の色分けなどについては,最初に挙げた http://www.carluccio.de/ に "Astra G", "Corsa C" に分けて書かれている.

    

 さらに引き続いて入手したものは "P/N 90-379-234: Siemens 5WK7-441" という形番を持ち,1997 年式の "B" Omega についていたものである.これは MID, Multi Info Display のはずである.

 枠の分割は無くなり,表示は三段に分かれ,上段一行にオーディオ情報 (デッキに電源が入っていないときは日付),中段は二行でそこに,外気温,下段に時計が表示される.写真では温度センサに相当する抵抗を結線して温度を表示させている.抵抗値は 8.2k オームである.日付の初期値は 1992 年.

 上段一行 4 文字分,中段は二行 4 文字分の,下段には 4 文字分の Alphanumeric 5x7-Dot Display が付いており,Snow Mark はなく,温度がマイナスのときこれが数値が点滅する.コネクタは 26 ピンである.

 このディスプレイの背面には 26-ピン黄色コネクタ12-ピン黒色コネクタとがある.これらのピン配置を知ろうとしていろいろ調べたが,はっきりしたものがなかった.上記ポーランドの資料と http://www.life-is-too-short.de/rennsemmel.html の Pin-Belegung から,26-ピン黄色コネクタだけについて,そのうちの必要最低限だけを類推して右図のようにつないだ.

  

 

 ピン 5 をパルス的に "High" にして行くと,"Oil Lack", "Coolant Level", Brake Lamp, Fuse", "Brake Pad", Wash Fluid Level", "Automatic Gearbox" などと,また "Instant Consumption -- l/km" などと出てくる.それゆえ,これは単なる TID ではなくて,MID であると推測される.
 26-ピンコネクタには青色のものが別途あるようで,そのピン配置は黄色のそれとは似ても似つかない.12-ピン黒色コネクタの方も形状,色は TID 初期型と同じであるが,ピン配置は異なる.

 このディスプレイはオペルのカセットデッキ ETY-810M, CQ-LY8351A / ETY-840M, CQ-LY8650A / ETY-850M, CQ-LY5750A / ETY-860M, CQ-LY8950A / ETY-700M, CQ-LY4650A と会話する.しかしこれでも,Subaru Traviq の CQ-GF0100A, H6218XA500 につなぐとやはりオーディオ情報は消える.これは TID でなく MID のはずであるが "8-文字プロトコル" でしか反応しないようである.上記ポーランドの資料を見ると,このディスプレイは "Pre 1996 Omega", "8-char" となっていて "Post 1996 Omega", "8/10-char" とは異なるとある.MID であっても "Ten-Character Protocol" を解釈しえない機種があるようである.

 "Eight-Character Protocol" と "Ten-Character Protocol" とでは,表示文字数の違いだけでなく,Slave Address: $4A/$4D, Symbol-Byte: 2/3, のように異なっており,違いはそのほかにもあるとのことである.

 スバル Subaru トラヴィック Traviq に付いている MD デッキを外してオペル Opel につけたら,中央の枠にあるべきオーディオ情報が消えるとある人は言い,別の人は消えなかったと言って,混乱をきたしている.その理由を明解に示した Web site がない.

 MID の新しい機種について知りたいが手元にないので詳細を調べることができない.5x7 Dot Matrix Display で 10 桁,2 行,合計 20 文字分が中央に置かれたディスプレイがあったことを思い出す.94 年の "F" Astra に付いていた.それには "Check" というようなランプがあったからおそらく MID のひとつ.MID にもいろいろなものがあるが,それはかなり初期のもの.MID ではすべて "Ten-Character Protocol" が使われているのかどうかはまだわからない.

 カセットデッキ ETY-810M, CQ-LY8351A / ETY-840M/ETY-850M/ETY-860M/ETY-700M は少なくとも "Eight-Character Protocol" でしゃべることができる.TID 5WK7-442 は "Eight-Character Protocol" しか理解できない.TID: 5WK7-0005 / 24 418 957 は "Ten-Character Protocol" を受け取ることができる.これから言えることは Traviq の MD デッキ CQ-GF0100A は "Ten-Character Protocol" しかしゃべらない,ということである.95 年あたりの "B" Vita に付いていた ETY-800M カセットデッキを Traviq の MD デッキ CQ-GF0100A と入れ替えたら TID, 5WK7-418 にオーディオ情報が出なくなったというようなことが起こる理由はまずこれである.ピン配置が異なるというようなことはない.Omega のテープデッキを MD デッキに換装して標示が出なくなる問題もこれであり,その際には "Post 1996 Omega", "8/10-char" TID/MID を試すべきである.ディスプレイに出る日付の初期値が 1997 年以降かどうかが判断基準ではなかろうか.デッキ背面 ISO 10-pin "C" コネクタのピン "6" は "X13 Diagnose 16P" に繋がっていて,デッキが存在することを "Board Computer" に返すピンであり,ディスプレイとは直接には関係しない.

 上記ポーランドの資料によると,TID/MID の通信プロトコルについてデッキは三種類:"8", "8/10", "10/8" となっていて,"10" 単独というのは有るとも無いとも書かれていない.そこのデッキリストの中には日本で装着されている機種は含まれていない.まだ確かなことは分からないが,MD デッキをカセットデッキと入れ替えても問題なかったという情報から,カセットデッキ ETY-840M/ETY-850M/ETY-860M は "8/10" ないし "10/8" である可能性が高い.

 シリアル通信の SCL, MRQ, SDA なる三線はデッキ背面の ISO 10-pin プラグ "C" のそれぞれ 2, 4, 1 ピンにつながっていて,それはデッキが変わっても変わらず,ピンの位置が入れ替わるというようなことはない.通信はこの三線で行われているので,TID/MID が別の種類のものであっても,TID/MID 側のピン配置そのものは正しく通信できるように車輌のハーネスに準備されているはずである.この通信方式ではデッキが Master で TID/MID が Slave であるから,TID/MID が 解釈できるプロトコルでデッキが話せば表示されるに違いない.また,プロトコルの相違で表示が消えた状態に放置して,それ以外の部位に新たに故障が生じるというような懸念はない.前述のように,ピン 6 は 診断ピンであり,ディスプレイとは関係ない.


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