潤滑系統,Lubrication System
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 エンジンには潤滑油が必要である.油なので "Oil" と呼び習わされているけれども,Technical Term としては "潤滑油 Lubricant もしくは Lubricating Oil" である.我国ではエンジンオイルと云うが,米:"Motor Oil",独:Schmieröl と言うのが一般的である.エンジンに潤滑油を注入すると,それは "オイルパン Oil Pan" に溜まる.Oil Level Gauge でここの油面高さを管理し,潤滑油消費の目安とする.

 右の図は潤滑油がエンジン内部に送られる機構を模式的に表したものである.この図には,本来の使徒で循環する潤滑油は常にすべて "フィルタ Filter" を通過する,全流式 Full-Flow 方式と呼ばれるものが描かれている.他に一部分しかフィルタを通過しない Bypass 方式も無いではないが,現在ではかなり少ない.

 潤滑油はオイルパンからポンプで汲み上げられる.たいていはギアポンプである.右に Fixed Displacement Pump とあるのがそれであり,ポンプへはエンジン出力から駆動力を割け与えるのが一般的である.定容積回転型であり,エンジン出力軸に繋がっているので,ポンプ吐出流量はエンジン回転速度にほぼ比例したものになる.その様子を次の図*1 に示す.


 ポンプ吐出流量が回転速度依存であるのに対し,潤滑油の通路は回転速度によってほとんど変わることはないから,要求される油圧になったらそれ以上には油圧が上がらないよう,余剰分を逃がさねばならない.それが上図の Pressure Limiting Valve であり,通常 Oil Pressure Regulator と呼ばれる.余剰を逃がして圧を下げるので下流への流量も落ちる.それが下側の緑実線である.Regulator 開弁圧,Regulator バイパスとあり,これらにより油圧や流量がどう設定されているか分かる.Regulator が働いて得られる油圧が右図,上に赤実線で示されている.油圧は大気圧 (0.1 MPa, 1 bar) よりも 4 bar くらい高いということである.

 低速ではともかくも,中速・高速域ではオイルポンプは必要流量の二倍程度の能力を持っている.経年変化で部品間のクリアランスが増加しても必要流量に充分対応できると知られる.1,700 rpm あたりまでは油圧も流量も規定値に達しない.エンジンの低速化が図られるいま,潤滑の問題点は低速域 にあることが分かる.

 オイルパンに浸かっている "ストレイナー Strainer" は粗い金網なので,潤滑油の品質維持には貢献せず,大きな異物の吸い込みを防ぐ以上の機能はない.おおよそ一定に加圧された潤滑油はフィルタに送られ,"すす Soot" や潤滑油劣化に伴う不溶性ガム質,摩耗による金属粉などの固体成分が濾過されたのち,必要とされる部位に届けられる.右図の油圧は Regulator が働いているポンプ出口のそれではなく,メインギャラリーでの油圧であり,いくぶん回転速度の影響を受けている.

 オイルギャラリの様子 は別のページにある.もちろん,油圧 Warning Lamp の閾値圧力は Regulator 開弁圧よりもずっと低い.

 ここで留意すべきことは,油温や粘度の情報が与えられておらず,温度が変化したときどうなるかが明らかでないことである.上の図は温間でのデータであると思われる右上がりの直線で与えられるポンプ吐出能力流量と Regulator 開弁圧とが装置としての前提であり,それらは温度に依存しない.潤滑油メインギャラリーの油圧は,油温や粘度に係わらず,低速域を除きほぼ Regulator 開弁圧で規定される.そこを源として潤滑油が流れ出る.下流の各流路形状が大きく変わることはないので,油温が上がり,粘度が低下するに従って流れの抵抗が下がり,下流への潤滑油流量が増加して,Regulator で逃げる油量が減る.それゆえ,上の図のエンジン内部への潤滑油流量 Engine Circulation は油温依存である.低速域を以外では,流量を確保する能力は担保されている.

 上図のような特性,制御系統を見ると,中・高速側でポンプ吐出量の多くを逃がし弁で戻し,低速ではポンプ吐出量に不安があるという状況が浮き彫りになっていて,オイルポンプ吐出流量特性が回転速度依存であることの必然性はないので,将来的に可変機構付きとか電動へと移行するものであると知られる.

 フィルタが目詰まりとなって必要部位に潤滑油が送られないとエンジンには危険なので,そういう緊急時にフィルタを介さず流路を迂回させ,潤滑油を直接供給する "逃がし弁 Choke-up Relief Valve" がフィルタ近くに設けられている.エレメント上流下流圧力差が 0.1 MPa (1 bar) くらいになるとこれが開く.そういう状況に至る以前にフィルタエレメントを交換すべきであることは論を俟たない.

 フィルタ目詰まりでなくとも,冷間始動時に潤滑油粘度が高すぎて吐出量が充分でないときにもこの弁が開く.0W-○○,5W-○○ 粘度表示/番号/グレードの潤滑油を入れる意義はここにもある.

 あまり知られていないが,潤滑系統にはこうした二つの制御弁以外にもうひとつ,"ドレインバック防止弁 Anti-Drainback Valve" ないしは "Anti-Drainback Diaphram" というものがある.上の図の中の "Non-Return Valve" である.エンジンが停まったあと,オイルフィルタ容器内の潤滑油が重力で抜け落ちてしまわないようにという意図である.

 ドレインバック防止弁の例を右図に示す*1.オイルフィルタ内に潤滑油が残っていないと,再始動したときに,フィルタ容器が潤滑油で満たされるまでの時間には,必要部位に潤滑油が供給されない,いわゆる Dry Start になり,始動時摩耗の亢進につながる.経路の途中に逆止弁を設けることによって,フィルタ出口より上流側に必ず潤滑油が留まるようになる.始動時への配慮が多くなされているのは,摩耗に対して,始動時の寄与が大きいからである.

  *1 村中重夫編著: "新訂 自動車用ガソリンエンジン",(2011), 218, 養賢堂.ISBN978-4-8425-0482-7, ¥3400E

 上図のオイルフィルタはフィルタ容器ごと交換する,いわゆる Spin-On 型である.他に,エレメントだけを交換する Cartridge 型も存在し,一時期廃れたかとの様相であったが,廃棄物低減の世相により近年復活している.理由はそれだけでなく,Spin-On 型では "ドレインバック防止弁 Anti-Drainback Valve" 内蔵のものが多く,この形式の純正外粗悪品には,エレメントの性能だけでなく,この弁の働きが悪いものもあって,潤滑油抜け落ち防止ができず,Dry Start による始動時摩耗について問題が生じる懸念もあったのである.上の図のように,Spin-On 型フィルタを上から被せるように (Upside-Down),あるいは水平に取り付ける形式 (Horizontal) では "ドレインバック防止弁 Anti-Drainback Valve" が必要であるが,逆に下側から嵌める形式 (Upright) ではもちろん要しない.

 また,Spin-On 型の中には Choke-up Relief Valve 機能も内蔵されているものも多く,エレメント上流下流圧力差 0.2 MPa (2 bar) くらいに設定されているらしい.

 オイルフィルタを購入しても,そのオイルフィルタの性能がどのようなものかというデータが添付されているわけではない.Bosch は部品屋だけあって,一枚だけであるが,自社編集の Handbook には出していて*2,右図がそれである.しかしながら,本文には何の説明もない.この図の Caption には ISO 4548-12 となっており,それは Methods of test for full-flow lubricating oil filters for internal combustion engines -- Part 12: Filtration efficiency using particle counting, and contaminant retention capacity ということなので,単なる試験例を挙げているにすぎないかもしれない.ISO 4548-12: 2000 は JIS D 1611-2: 2002:全流式オイルフィルタの粒子カウント法による濾過効率試験方法およびコンタミナント捕捉容量試験方法−第 12 部:粒子カウント法による濾過効率およコンタミナント捕捉容量 として取り入れられている.

 緑実線の Minimum が基本的な性能であり,粒径 50 µm ならほとんど捕捉されるが,5 µm のものは 10 % 程度しか減らない.保証するという最低性能であるが,そこから Maximum という緑点線までのピンクハッチング部分のどこかが 実際の性能 であると読める.99.6 % @ 25 µm と謳っているものもある.また,使えば目詰まり側に進行するので,捕捉効率は次第に上がっていき,5 µm のものでも 50 % くらいまでトラップできるようになる.もちろんこれには本来の目詰まりという限界がある.オイルフィルタをたびたび交換するのは意味がなく,30,000-km 走行くらいまでは換えない方がよいとの主張があるのはこういうものを根拠としているのであろう.

  *2 "Automotive Handbook", 8th Edition (2011), 458, Robert Bosch. ISBN978-0-8376-1686-5, $49.95, Bentley Publishers.

 フィルタエレメントの濾過・捕捉性能だけでなく,"ドレインバック防止弁 Anti-Drainback Valve" の機能などについても,オイルフィルタについては気の抜けないところがいくつかある.まずは仕様 Specufication の表示開始を望む.部品として単に安価であればよいというものではない.


 Still not fixed.


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