エンジンオイルの粘度と粘度指数
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 相互に運動する部品表面間に 液相の潤滑油 を介在させることによって 「流体潤滑」 を行わせる.固体 (多くは金属) 面の直接接触を避けないと固体表面はすぐに摩耗し,齧りが起こって,機械として成り立たなくなる.

 「流体潤滑」 "c" から 「固体接触」 "a" への移行段階に,「混合潤滑,境界潤滑」 "b" という状態がある.この様子を右図に示す.Stribeck 曲線*1 として知られる.流体潤滑下でも粘性抵抗流体摩擦損失は無くはないけれども,境界潤滑条件 (図では濃緑色) になると機械摩擦損失が急増すると共に表面温度も上がる.エンジンの全作動範囲に亘って流体潤滑を実現するのは難しい.弱い境界潤滑条件程度が混じることは避けられない.そこのところがエンジンの実用上の寿命を決める.想定エンジン寿命を確保できる範囲で,低粘度のものを選ベば,粘性抵抗によって失われるエネルギーが小さい.寿命は摩耗 Wear の,粘性抵抗は摩擦 Friction の問題であり,潤滑油は双方の要求を満たさなければならない.摩耗は摩擦を呼ぶとはいえ,まずは双方を切り分けて考えるのがよい.

 *
1 Stribeck 曲線の横軸は,本来は単なる摺動速度 u ではなく,「無次元負荷パラメータ」 μu/σ,σ: 単位面積あたりの荷重,で表現されべきところである.「無次元負荷パラメータ」 は 「軸受特性数」 と呼ばれることもある.

 無次元負荷パラメータ or 軸受特性数 μu/σ から分かるように,まず,摺動速度 u が低いとき,ならびに σ 単位面積あたりの荷重 が高いときに 流体潤滑 から 固体接触」 へと移行しやすい.そういうとき,潤滑油の粘度 μ が高ければそれを防ぐことができる.

 粘度には二種類の表示*2 があり,それぞれで物理的な意味が異なる.動粘度 Kinematic Viscosity ν は,どの程度に潤滑油が固体表面から流れ落ちにくいかという指標であり,これが大きくないと油膜厚さを保って流体潤滑を維持できない.絶対粘度 Absolute or Dynamic Viscosity μ は潤滑油を圧送するときの,流動への抵抗力を表しており,粘度の高い潤滑油を使うと流体摩擦損失が増える.

 *
2 潤滑油をひとつ選んだとき,その潤滑油の性質というのは全体としてはひとつであり,二種類の粘度があるというわけではない.二種類の物性値で潤滑油の性質をすべて表せるということではなく,物性を表すには表したい性質それぞれに適った物理量を採らねばならない.潤滑油でまず最初に考えるべきところは粘度である.

 「混合潤滑,境界潤滑」 "b" という状態での摩擦力は,潤滑油の粘度や荷重,摺動速度だけでは決まらない.潤滑油の化学的特性や微量添加剤の特性,表面の硬さや弾性係数など,表面材料の力学的特性,さらには表面粗さなどが摩擦に大きく影響する. 耐摩擦・磨耗性,分子選択などの機能は材料表面が異種媒体と接触するときの濡れ性や親和性にも依存するであろうから,エンジンの潤滑をこの二つの指標だけで記述し得ているわけではないが,まずは各部位の潤滑について ν で考えるべきか μ で考えるべきか というところから始まる内容であることは論を俟たない.

 二枚の平行平板のあいだに潤滑油を挿み,一方の板を固定し,他方を速度 u で動かすと,潤滑油に速度勾配ができる.この様子を右の図に示す.このとき速度 u で板を動かすためには力 F が必要である.速度勾配は剪断速度である.接触面積が A であるとき,単位面積あたり必要な力 F/A は剪断応力 Shear Stress τ である.絶対粘度 Absolute or Dynamic Viscosity μ は,この力 F と接触面積 A,ならびに速度勾配とで次のように定義される.必要な力 F は速度勾配と流体の絶対粘度 μ に比例する.絶対粘度が速度勾配に依存するような流体は非ニュートン流体と言ってこれとは区別する.


 潤滑油の粘度は SAE 粘度で表示するのが一般的であり,"15W-40" のようなのがそれである (SAE は Society of Automotive Engineers アメリカ合衆国自動車技術会).数値が大きくなるほど粘度が高い.15W-40 のようにふたつの数値をハイフンで繋いだ表示はマルチグレード,ハイフンのないものはシングルグレードであるが,現今では使用可能温度範囲が広いマルチグレードが広く使われている.なお W は Winter の意味である.小文字 w ではなく,大文字 W で書く.

 例えば "Mobil 1, 0W-40" の性状は以下のように規定されている.

SAE Grade: -
0W-40
Kinematic Viscosity ν, ASTM D 445: cSt @40o C
80.0
cSt @100o C
14.3
Viscosity Index, ASTM D 2270: -
187
Sulfated Ash, ASTM D 874: wt%
1.2
HTHS Viscosity, ASTM D 4683: mPa⋅s @150o C
3.6
Pour Point, ASTM D 97: o C
- 54
Flash Point, ASTM D 92: o C
236
Density ρ, ASTM D 4052: kg/liter, @15o C
0.855


 マルチグレードの "15W-40" のような表示では,前半分の数値と後ろ半分の数値とは,共に粘度を表現しているとはいえ,物理的な意味が異なる.

 SAE 粘度記号/番号 (●●W-○○) の
前半分は低温粘度 μ を表現する指標であり,低温流動性の善し悪しを粘度 μ (動粘度と区別して絶対粘度ということがある ) で表し,エンジンを始動してよい外気温の下限を表す指標になっている.CCS, Cold Cranking Simulator で評価される.下限温度以上の条件下では,始動時にどの程度早く潤滑油が各部に行き渡るかという指標であるとも解釈できる.また,始動後,暖気終了までのあいだの走行燃料消費率を左右する指標でもある.表示の単位は [mPa⋅s, (cP, Centipoise センチポアズ)] である.

粘度記号
CCS 粘度 μ [mPa⋅s, (cP)] (規定温度)
ポンプ吐出限界粘度 μ (規定温度)
0W
3250 以下 (- 30o C)
60000 以下 (- 40o C)
5W
3500 以下 (- 25o C)
60000 以下 (- 35o C)
10W
3500 以下 (- 20o C)
60000 以下 (- 30o C)
15W
3500 以下 (- 15o C)
60000 以下 (- 25o C)

 絶対粘度 μ は速度勾配を与えるために必要な力で定義されており,その意味は送り出すことへの抵抗力,潤滑油を送り出すのに必要な力である.オイルポンプの能力が一定なら送り出す流量になる.低温粘度ではエンジンをクランキングして始動するとき (エンジン温度は外気温と平衡している) が想定されており,粘度が 3500 cP 以下でないと,オイルポンプで圧送してもエンジン各部に潤滑油が廻らないので,そうならないようにそれ以下の粘度の潤滑油を選べと言っているのである.これは低温流動性の指標であり,後述するが,近年は始動時クランキング負荷そのものよりも,逸早く潤滑油をエンジン各部に送って,始動時/始動直後の部品摩耗を下げようとする動きになっている.

 SAE 粘度記号/番号 (○○W-●●) の後ろ半分は油温 100o C のときの粘度の大小を表す.動粘度 ν = μ/ρ で定義されていて,表示の単位は [mm²/s, (cSt, Centistokes センチストークス)] である.

粘度記号
動粘度 ν (100o C) [mm²/s, (cSt)]
HTHSV μ (150o C) [mPa⋅s, (cP)]
20
5.6 - 9.3
2.6 以上
30
9.3 - 12.5
2.9 以上
40
12.5 - 16.3
(0W/5W/10W) 2.9 以上
40
12.5 - 16.3
(15W/20W/25W) 3.7 以上
 SAE J300, Nov., 2007 において数値が変更されているようであり,間違いがあるといけないので,以下に表をそのまま貼り付ける.



 粘度の値は動粘度 ν を測って知る.絶対粘度 μ は動粘度から算出する.動粘度を得るには毛細管通路から規定量が流れ下り切るのに要する秒数を測る.セイボルトユニバーサル秒 Saybolt universal seconds,レッドウッド Redwood No. 1/No. 2 Seconds, エングラ Engler degree, ウッベローデ Ubbelohde,キャノン-フェンスケ Cannon-Fenske,ツァイトフックス Zeitfuchs など粘度計にはいろいろあるが基本概念は変わらない.潤滑油が細孔を通過するのは重力による自重 (密度 ρ で決まる) に引っ張られてのことであるから,動粘度 ν = μ/ρ の定義そのものから,通過速度はその潤滑油の動粘度に反比例し所要時間は動粘度に比例する.潤滑油が流れ込んで固体表面に付着したとき,どれだけの時間経過すれば流れ落ちてしまうのか,つまり一度できた油膜が流れて,潤滑油としての油膜が切れるまでの時間が長いか短いかを動粘度は表している.


 昔のシングルグレード鉱物油はたいていニュートン流体であったが,マルチグレードになって非ニュートン性を示すようになった.粘度指数向上剤による高温側の増粘効果が高剪断速度下では効かず,そのときだけ粘度低下が起こるのである.特に動弁カムの摩耗や齧りに関係する.そういうことで 高温高剪断粘度 (HTHS Viscosity, High-Temperature High-Shear Viscosity) が規定されるようになった.剪断速度 Shear Rate とは空間速度勾配のことで,速度v[m/s]/隙間h[m] = [s-1] であるからその表示単位は [s-1] であって (同じメートル m ではあるが,速度の方は流れ方向,隙間の方は流れと直角方向),一般に 150o C, 106 s-1 の条件下での絶対粘度 μ が確保されるようにする.これは TBS, Tapered Bearing Simulator で計測される.HTHS 粘度が動粘度 ν で規定されておらず絶対粘度 μ での規定になっているのは,動弁系の潤滑では,他の部位が面接触であるのと異なり,カムがタペット面を擦るさまが線接触であるからであろう.潤滑油を雪に喩えて,その雪からみればショベルローダで雪掻きがなされているようなものであって,通常以上の速度勾配がある.HTHS 粘度が 2.6 mPa・s を下回ると境界潤滑領域が増加するとされている.3.5 mPa・s 以下を許容しないカーメーカもいくつかある.ピストンリング-シリンダライナの摺動も剪断速度から見れば 104 ないし 106 s-1 であって,決して低い値であるわけではない.

 このように,SAE 粘度記号/番号の前半分 (●●W-○○) と後ろ半分 (○○W-●●) の数値は互いに独立の,別々の指標であって,基本的には連動しない."5W- は相当「シャブシャブ」のオイルなので、パッキンからの漏れも心配だし,高速道路を走るときに粘度不足ではないかと心配" というような言辞を見たり聞いたりするが,それは考え違いである.0W-, 5W- オイルの,0o C, 40o C での動粘度 ν は,-50, -60 オイルの,暖気後,通常走行時の動粘度 ν に相当する 100o C (212o F) 動粘度 ν よりずっと高い.このことは下掲の,粘度指数のところの図で明らかであろう.それゆえ,0W-, 5W- オイルが漏れているのなら,暖気後の通常走行時,100o C に近いときにその漏れは最も激しいのであって,低温時に激しく漏れるのではない.0W-, 5W- オイルは決して「シャブシャブ」ではなく,100o C の動粘度に較べれば,低温では十分に固い.高速道路走行時の粘度不足が心配ならば,番号の前半分 (●●W-○○) を見るのではなく,後ろ半分 (○○W-●●) の数値が高い潤滑油を選べば済む.もっとも,マルチグレードで低温側数値と高温側数値の差が大きいものは,下で述べる粘度指数が高くなければならないから,人為的に粘度指数向上剤などを多めに加えてそれを達成するということもしばしばであり,それがその潤滑油の機能的寿命を短くし/していたことは否定できないことではある.例えに挙げた言辞は 0W, 5W オイルのシングルグレード油についてのことであるなら全くそのとおりである.ハイフン "-" の有無は意味を根底から変える.

 もちろん,高温まで粘度が維持されるということと高温で劣化が進行しないこととは同義ではない.エンジンオイルの劣化は温度が上がると速く進み,10o C 上がるごとに速さが二倍くらいになるようである.一般の油脂類の空気中酸化速度に当て嵌まっている.潤滑油が介在する部位:シリンダ,ピストンの温度がどの程度になっているかの 例 1例 2 は別のページにある.潤滑油もほぼその温度に達しているということである.

 SAE 粘度記号/番号の前半分 (●●W-○○) と後ろ半分 (○○W-●●) の関係を下図に示す.横軸を log10 (θ + 273) で, 縦軸を log10・log10 (ν + 0.7) で目盛って,温度と動粘度の関係を示したものである*.前半分は横軸,温度 θ との関係で規定され,後ろ半分は 100o C (212o F) の動粘度で規定されている.シングルグレードでは動粘度の温度依存が大きく,マルチグレードが広く使われている理由が解るであろう.
* この尺度は 1921 年,Neil MacCoull によって提案され,MacCoull equation として ASTM に取り上げられたものとのことである (ASTM D341 Appendix 1).Also cf., http://diem1.ing.unibo.it/mechmach/rivola/forli/mam_II/04Lubrificazione.pdf

粘度指数 Viscosity Index, VI

 粘度表示/番号/グレードのことを粘度指数と呼ぶのは誤りである.粘度指数とは 粘度の温度依存性 である.温度が上がるとどんどん潤滑油の粘度は低下する.つまり,粘度の温度依存性が大きい.この性質は潤滑油としては美点ではない.それゆえ,温度上昇に対する粘度低下の程度が低いことをもって粘度指数 VI が高いと表現する.

 旧くは,Pennsylvania 油が持つ比較的低い温度依存性のそれを粘度指数 100 という最大値とし,Gulf Coast 油の 0 を最小値としていたが,現在ではほとんどの潤滑油で粘度指数 VI は 100 以上であり,100 以下のエンジンオイルを見つけるほうが難しい.VI は 40o C (100o F) と 100o C (212o F) の動粘度から算出されるが,その計算式は対数を含む複雑なものであるうえ,100 以下と以上とで別の式になっていて面倒極まりないが,幸いにも VI を計算してくれる Web site があって,そこに行けば任意の温度における動粘度やセイボルトユニバーサル秒などもほぼ瞬時に得ることができる.

 上図は粘度指数の意味をあわせて示していて,直線の勾配がその潤滑油の粘度指数 VI である.この図で勾配が小さいほど粘度指数 VI が高い.SAE 粘度記号/番号の前半分 (●●W-○○) はどの程度低い温度まで始動可能かを表す指標なので,図では横軸の θ 温度目盛箱に対応づけられている.粘度指数 VI は 40o C と 100o C の動粘度 ν (縦軸目盛) から算出されるから,始動時の低温粘度 (●●W) には間接的な影響しか与えないように見えるが,その潤滑油の粘度指数 VI で低温粘度 (●●W) は一義的に決まってしまう."Mobil 1, 0W-40" の線 (赤線) が SAE 低温粘度 (●●W) の目盛箱と接していないのは,SAE 低温粘度の規格が xx cP 以下のような,ある値以下であればよいという,両端ではなく片端の規定であり,"Mobil 1, 0W-40" はその規定をはるかに凌駕しているためである.外挿して上横軸との交点を得れば,使用可能温度は - 60o C くらいになっている.

冷却水温度をもとに選択すべし

 暖機終了後のエンジン温度はまずは冷却水温度で規定されるから,それは外気温には大きくは左右されない.特にピストンリングとシリンダ壁との摺動面温度は冷却水の温度でほぼ決まる,高温側粘度が油温 100o C のときの動粘度で定義されているのはこのような意味を持っていよう.冷却水温度は日本車では 80o C,欧州車では 90o C が一般的であり,そこに 10o C の差がある.冷却水温が 90o C のとき,シリンダ内壁温度は 115o C くらいであろう.冷却水温 90o C のエンジンに 10W-40 を使い,80o C のそれに 10W-30 を使うとき,シリンダ/ピストンリング間にある潤滑油の動粘度には大差がない.上述の Web site に温度を入れて 10o C ずらしてみればすぐに出てくる.SAE 粘度記号/番号 (○○W-●●) の後ろ半分は 外気温を基準に考えるのではなく,冷却水温度をもとに選択すればよいと諒解される.外気温が上昇して熱的に負担が増えるのは冷却系,ラディエータ であり,冷却系の機能が正常であればエンジン内部温度は外気温の影響を大きくは受けない.近年,欧州車,米国車の指定認証潤滑油には,世界中,地域,緯度の高低にかかわらず,粘度での選択肢が与えられていない.SAE 粘度記号/番号 (●●W-○○) の前半分の値が 0W, 5W と小さいからそれが冬期専用というわけではなくなっていて,一種類の潤滑油のなかに外気温の高低は吸収されている.例えば,夏の Arizona においても 0W-30 の使用が許容されている.

 外気温と適用 SAE 粘度記号/番号との関係については,かつては右二図のうち,左側にあるような分類が多く見られた.5W-30 なる潤滑油なら外気温 30o C 以上では不適格という表現がなされていたけれども,こういう分類は既に過去のものである.近年では,右側のように,温度の高い方の制約は取り払われていて,0W-30 でも外気温 40o C 以上で使って差し支えないという表し方に変わっている.

 0W-20 のような低粘度油使用によって走行燃費を改善しようとの試みも盛んである.右の図は潤滑油の循環経路を示したものである.低粘度油でもクランク軸主軸受,コンロッド大端部軸受,ピストンリング摺動部などは比較的問題が少ないようであるが,動弁系,特にカム表面については高温高剪断粘度 (HTHS Viscosity) を満たさないと危険なようである.このところ HTHS 粘度が高く,CCS 粘度が低い潤滑油が求められる時代に入ったと言える.つまり,かつてなく高い粘度指数 VI が要求されている.

 cSt@40o C/cSt@100o C/VI/HTHS の値を挙げると:

Mobil 1, 0W-20: 43.0/8.4/165/2.65
Pennzoil, 5W-20: 47.4/8.2/146/2.65
Amsoil, 5W-20: 45.4/8.5/165/2.70

であって,SAE 粘度記号/番号 (○○W-●●) の後ろ半分,油温 100o C 高温側動粘度指標が "20" では,高温高剪断粘度 HTHS が限界値の 2.6 mPa・s にごく近い値となっていることに不安があるから,新規格ロングライフオイルの代替とはならない.新規格ロングライフオイルでの HTHS は:

Castrol Longlife 2, 0W-30 (VW 503.00/506.00/506.01): 2.9
Castrol Formula RS, 0W-40 (VW 503.01): 3.6
Mobil 1, 0W-40 (VW 502.00/505.00/503.01): 3.6
Castrol Longlife 3, 5W-30 (VW 504.00/507.00): 3.5
Mobil 1 ESP Formula, 5W-30 (VW 504.00/507.00): 3.58


 それにしても,エンジンメーカと石油会社は営々努力していても,潤滑油の選択によって燃費改善を図るのは最大で 3 % の世界 であることを知っておかねばならない. 加賀谷峰夫:エンジンオイルの物性と評価技術,日本機械学会,No. 4-108 講習会,2005 年 1 月

 SAE 粘度記号/番号 (●●W-○○) の前半分は低温流動性の指標であり,外気温基準で選択すべきであるものの,近年は始動性そのものよりも,始動クランキングで迅速に潤滑油をエンジン各部に送って,摩擦というより "摩耗" を極力下げようとする動き になっている.この動きが潤滑油のロングライフ化と同時進行で来たから多少の混乱を招いているが,この低温流動性重視とロングライフ化とは直接には結びつかない.外気温には関係なく指定ロングライフ油には 0W-30/0W-40/5W-30 のものしかない.SAE 粘度記号/番号 (●●W-○○) の前半分の値が 0W, 5W だからといって冬にしか使ってはいけないというわけではない.始動後の一回走行距離 "Trip" が短い我国での自動車使用形態においてはその意義は大きい.一回の冷間始動で生じる摩耗量は,雑な評価とはいえ,温間走行距離に換算して 30 km とも 150 km とも言われる.またあまり認識されていないことであるが,冷間始動時にオイルフィルタ部での粘度が高いと,オイルフィルタの逃がし弁が開き,濾過されないオイルがそのまま送られる.上の図は潤滑系統の模式図であるが,それで経路が分かる.オイルフィルタは全流式が基本であるから,こういう場合には フィルタに目詰まりがなくても逃がし弁が開いてしまっており,濾過器として機能しない.潤滑系統 の詳細については別のページにおいた.

 そうこうして,10W-30/15W-40 の半合成油を 3,000 km 走行ごとに交換していても,SAE 粘度記号/番号 (●●W-○○) の前半分,低温粘度 μ が高いから,エンジン摩耗は 0W-30/0W-40/5W-30 の潤滑油を前提としたメーカの想定より大きくなる可能性があることを指摘しておく.

 ここまで書いたのだが,混乱は必ずしも収まっていないようなので,さらに細かくは,エンジンオイルの粘度と粘度指数 補遺 で.

 また,エンジン摩耗の低減に関して,1960 年代にエアクリーナ,エアフィルタの性能が一挙に上がったことの貢献が最も大きく,エンジンオイルの性能向上によるエンジン摩耗低減に対する寄与は大きくない.このことについては エアフィルタのページ で.


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