エンジン特性と車輌走行燃費,吸気管負圧と燃料消費 |
エンジン特性曲線,エンジン性能曲線
右の図は Renault Lutécia に搭載されている K4M エンジンの特性曲線である.絞り弁全開 "WOT", Wide-Open Throttle としたときの軸トルク Brake Torque と軸出力 Brake Power がエンジン回転速度に対してどう変わるかが表示されている.出力 Power の右上がりの曲線に原点を通る直線で接線を引いたときの接点にあたる回転速度はトルク Torque 最大となる回転速度と一致するという関係にある.自動車用機関でエンジン性能を提示するときには,たいていこういう図表示がなされる. 「『馬力の曲線に原点から接線を引いたとき,接する点の回転速度が最大トルクを示す回転速度と一致する』 確かにそうなるのですが,理屈がわかりません.」 というような質問が散見される.下方にも出てくるように,出力 P とトルク Tとの関係は回転速度を N として, であり,原点から出力 P の曲線と交わるように引いた直線の勾配は (P/N) であって,接線となるのは,それら直線群のうち,最も勾配の大きな直線であり,かつ右辺の変数はトルク T だけであるから, と表せる.すなわち,原点から出力 P 曲線に向かって引いた接線により,最大トルクとその発生回転速度とが一義的に結びつけられている. 右図の二線はそれぞれ,エンジンの最大性能を表す曲線であり,この線より上側は非現実,これらの線から下側,最下の水平線までが現実であって,その平面がエンジンの受け持つ領域である. |
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こういう表示の仕方は自動車用機関に特有のものであり,舶用機関や定置型機関などでは定格を表示するだけであって,最大性能は明示されない.
しかし,実際に自動車を運行させているときにアクセルペダルを床まで踏み込み,絞り弁全開となるようなことは滅多にない.九州大分自動車道の日田インターチェンジ,料金所を経由する長い坂を排気量 1-liter の日産マーチに大人三人乗って登ったときにやったくらいであって,ドイツの Autobahn でもアクセルべた踏みの経験はない.エンジンはたいてい部分負荷で使われているのに,そこでどのようなことかはこの性能曲線からは分からない.特に燃料消費量がどの程度かということは埒外である (埒 らち とは馬場の周囲柵のことである).
燃料消費率等高線 この,横においた図は 1990 年代に広く使われた Opel, C20XE という無過給エンジン,φ86×86,の特性曲線*1 である.絞り弁全開 WOT における軸トルクが正味平均有効圧 BMEP, Brake Mean Effective Pressure pme というかたちで間接的に表示されている.
ここに,T : Torque [N⋅m],pm: Mean Effective Pressure [MPa],Vh: Stroke Volume [cm3], D : Cylinder/Piston Diameter [cm],S : Stroke [cm] で,行程容積 Vh は, |
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この図に軸出力 Pe が表示されていないのは,表示されていなくても,軸出力 Pe はトルク Te に回転速度 N を乗じて,
,P : Output Power [W],ω: Angular Velocity [rad/s],N : Engine Speed [rpm, 1/min]
のように,トルクが分かっていれば自ずと知られる量だからである.トルクすなわちサイクルあたりの仕事量を扱うのが第一である.トルクに角速度を乗じるところが理解できない場合には,トルク T [Nm] が付与されるところを軸芯から 1m の腕の先として,トルク T [Nm] と数値で同じ力 [N] がそこに掛かっていると考え,その力に時間あたり進む距離を乗じてそれが仕事であると知るのがよい.
トルクを平均有効圧として表示するのは,それが単位行程容積あたりの仕事量を表す尺度であり,排気量の大小に関係なく,サイクルあたりの仕事量が比較できるという便利さゆえである.横軸はエンジン回転速度で目盛られているが,平均有効圧だけでなく,吸入空気量,容積効率などと関連づけるなら,横軸を平均ピストン速度 Sp = 2S ⋅N /60 [m/s] で目盛ればより一般性が上がる.
WOT とある曲線 (青色) はこの C20XE エンジンが出す最大トルクであり,この線から下側,水平線までがエンジンが受け持つことのできる領域であることは K4M エンジンを例にして上に述べたことと変わらない.薄い青で色づけしてあるところがその受持領域平面であり,WOT 線より下は部分負荷域であって絞り弁は全開ではなく,下方に向かって弁の閉じる程度が増す.この平面内でのみエンジンが運転され得る,そのときの 燃料消費率 SFC, Specific Fuel Consumption が等高線 (緑色) で描かれている.これは Fuel Consumption Map とか Fuel Consumption Contour Lines と呼ばれる.ここに描かれているのは,エンジンの出力軸への仕事について必要燃料量を数えたものであるから,正味 (軸) 燃料消費率 BSFC, Brake Specific Fuel Consumption である.
冒頭,"上級者ならこのページを読み飛ばして差し支えない" と断った.こういう図は適合を済ませた,出来上がったエンジンの性状を表しており,その中には,燃料/空気混合比であるとか,点火時期であるとかという,人為で変えることのできるパラメータが 表おもて に出ず,一枚の図の中に "突っ込み" になっていて,結果をもたらした要因や繋がりを直接知ることができない.もともと商品のカタログ上にその機械の性能 Specification を提示するためのものである.上級者には既知,物足りない情報であるが故の断りである.工学部機械工学科の学生に対して,この段階から説明を始めるということはなく,講義の内容はこの節以降である.
高過給・直噴 Downsizing 火花点火機関の燃料消費率等高線 の例を別のページに置いた.こちらには上級者も見るべき内容がある.
出力に対する燃料消費,燃料消費率 SFC の表示単位は [g/(kW⋅h)] である.出力 1 kW で 1 時間仕事をさせたときに必要な燃料量,1 kW⋅h の仕事をさせるのに必要な燃料の質量である.動力単位 [W] に時間単位 [s] ではなく [hour] を乗じるのは,エンジンの使用法がおかれている状況に沿ったもので,[W] ではなく [kW] であるのもそれである. 石油系燃料では単位質量あたりの低位発熱量は 44 MJ/kg とほぼ一義的であるということが,熱機関の熱効率を表現するのに必要燃料質量表示である燃料消費率 SFC を使うということに合理性を与えている.燃料消費率等高線の代わりに 熱効率等高線 で表示するのも合理的である.例えば右図のようにである*1. 燃料消費率等高線は同心円が歪んだようなかたちであり,中心が最良燃費点である.通常の火花点火機関で最良燃費率点は,全回転速度域のなかでやや低速寄りの,比較的最大負荷 WOT に近いところにある. |
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*1 Werner, S.: "Der neue Zweiliter-Vierventilmotor von Opel", MTZ 49-4 (1988), S. 66. ただし,この図では燃料単位質量あたりの低位発熱量は 42.5 MJ/kg あたりに採ってあるもよう.
C20XE エンジンの最良燃費は 240 g/(kW⋅h) であるが,近年に出たエンジンでなら 210 g/(kW⋅h) にごく近いものもある.ディーゼルでは,昔はともかくも,いまでは 200 g/(kW⋅h) を切っている.
狭義の理想気体を作動流体とするオットーサイクルの理論図示熱効率は圧縮比だけの関数であって,負荷の大小に係わらない.ポンプ損失の無い理想サイクルの図示熱効率でなら,低負荷でも熱効率に変化はない.それなのにどうしてこれだけ大きく負荷の影響を受けているのか.図示ではなく正味で表示されているこれらの図では,部分負荷で負荷が下がると燃費は 600 g/(kW⋅h) というように急激に悪化する.これは,絞り弁によるポンプ損失 Pumping Losses の増加による図示平均有効圧の低下を燃料/空気混合気量増加で補わねばならないのに重ねて,摩擦損失 FMEP が常に Overhead 諸掛としてかかり,その割合が図示平均有効圧の大きさに対して相対的に増えてくることによる*.また,最大負荷 WOT で燃費が最良にならないのはノックを抑えるために点火時期を MBT から遅らせたり,濃いめの混合気を供給したりするからである.
* "4-ストローク機関の吸気" に記したように,BMEP = gIMEP - PMEP - FMEP という関係にあり,正味平均有効圧 BMEP が小さくなるとき,摩擦損失 FMEP はたいして変化しないが,ポンプ損失 PMEP は大きくなる.つまり,仕事の正のループ gIMEP も小さくなるにはなるが,BMEP が小さくなるほどには小さくならない.燃料を消費しているのは gIMEP であり,gIMEP の中からポンプ損失 PMEP と摩擦損失 FMEP とが賄われる.gIMEP 単独にかかわる熱効率に関しては,負荷の大小で大きな変化はないというのが火花点火オットー機関本来の特質である.もちろん,高速側での燃え切りが遅れるという現象など種々の要因が絡むから,常に gIMEP にかかわる熱効率が一定というわけではないが,大枠として大きくは変わらない.
こうした燃料消費率等高線 Fuel Consumption Map が公開されているエンジンは極めて数少ない.燃料消費率等高線の例が挙がっている教科書などでも,それがどのエンジンのものであるかが特定されてはいないのが通例である.けれども,過給しない自然吸気火花点火機関に限定すれば,どのエンジンであっても燃料消費率等高線について定性的には同じようである.
図中に紫色の細線で凹双曲線状の曲線が描き込まれている.これは等動力線/等出力線である.上の式から動力 Power P,トルク Torque T,回転速度 Engine Speed N の三者が関係づけられており,後ろ二者が縦軸,横軸であるから,動力 Power P も目盛をもつ軸という意味を持ち,面上では,直線ではないものの,重みを有する何本かの罫線になる.等動力線/等出力線は目盛罫線であり,エンジン性能そのものではない.三つの目盛軸平面に等燃費等高線が描かれている.いま,50 kW の動力を必要とする負荷を考えるとき,この C20XE エンジンで 3,200 rpm にてそれを得るなら 240 g/kW⋅h の燃費で済むが, 6,000 rpm でなら 310 g/kW⋅h くらいに燃費が増えるというようなことがこの Chart から分かる (50-kW の曲線は表示されていないので,40-kW と 60-kW 二線の中間を目分量で読む).
WOT 最大トルクを示す曲線がなぜ上に凸となるのかについては,基本的に,その回転速度において空気をどれだけ吸入できるかということによる.容積効率の曲線 が,理由は異なれども,低速側でも高速側でも下がるということが第一で,それにノック回避のための点火時期遅延であるとか,高速での摩擦損失増加などの要素が順次からんだ結果のトルク値である.高速側では吸入系での Mach 数 という壁があり,それだけでもトルクは右下がりである.
車輌走行性能曲線 後方に変速機を備えてこのエンジンが車輌に搭載されると,エンジンが出すトルク Te は変速機各段に応じた減速ギア比で増強され,車輌の駆動輪へと導かれる.その様子を右図に示す.伝達されたトルクは駆動輪タイアの有効半径で除されて,車輌の駆動力 FD [N] となる.タイアが路面と接する部位において後方へと蹴りだす力である. |
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車輌の駆動力 FD [N] を,車速 V を横軸として描いたものが右の図である.これは走行性能曲線と呼ばれている.ただし,この図のように燃費が重ねて描かれていることはまずない. 理解を容易にするため,機械式五段手動変速機を想定してある.ありそうなギア比を仮想して描いてあり,現実の Opel の車輌そのものから採ったものではない.伝達経路で幾分のエネルギー損失を伴うものの,歯車列での伝達効率は例えば 0.95 といった値であって,1 に近いから,エンジンが持つトルクカーヴや燃費等高線はほとんどそのまま相似形でこの Chart へ移る.三段 3rd Gear はほぼそのままの縦横比で置かれている.四段 Top, 4th Gear, 五段 Over Drive, 5th Gear は横長になり,一段 Low, 1st Gear,二段 2nd Gear は縦長になる.エンジンと変速機,終段減速機,駆動輪で構成されるこのシステムでは薄い青色に塗られた領域が実働可能範囲である.後退段 Reverse Gear の表示は省略した.手動変速機なので,車速 V に対してエンジン回転速度 N は原点を通る直線で表される (紫色). 一方,車輌が走行するときには,駆動力がタイアの転がり抵抗とか,車輌前面にかかる空気抵抗とかに打ち勝つことで前に進む.転がり抵抗,空気抵抗,勾配抵抗などを加えあわせて走行抵抗と呼ばれる.駆動力 FD [N] とは逆の方向に加わる力 FR [N] として,上図に赤線で描かれているのがそれである. |
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図に燃費等高線を描き入れたので次のようなことを判別できるようになる.いま,10% 勾配の道路を車速 80 km/h で走行しようとするとき,五段 Over Drive, 5th Gear では駆動力 FD は不足するから,四段 Top, 4th Gear か三段 3rd Gear でということになる.四段 Top, 4th Gear での燃料消費はかろうじて 240 g/(kW⋅h) (濃い緑色部) に入るのに対し,三段 3rd Gear では 260 g/(kW⋅h) くらいまで悪化する.車速 40 km/h 走行でなら,四段 Top, 4th Gear で 270 g/(kW⋅h),三段 3rd Gear では 260 g/(kW⋅h) となって,燃費の甲乙は逆転する.二段 2nd Gear まで落とすとさらに良くなるかといえばそうではなく,300 g/(kW⋅h) である.
五段 Over Drive, 5th Gear で車速 100 ないし 120 km/h で走行するときに,平坦路では最良燃費点に設定されておらず,5% 勾配あたりで最良燃費になるようになっている.平坦路といえども,道路の凸凹とか向かい風など,常になんらかの抵抗が付帯するから,それらを勾配抵抗で置き換え,外的擾乱をが入っていても安定な低燃費走行をとの現実的な意図である.
トルク曲線の高速側半分は右下がりであり,走行抵抗は右上がりである.定常走行状態はその交点で表される.上図では WOT トルク曲線しか表示されていないが,絞り弁開度を変えた部分負荷特性が分かっていれば,同じようにして,部分負荷時車輌走行性能曲線を描くことも可能である.部分負荷ではトルク曲線の受け持ち速度範囲は順次低速寄りに限定され,車輌速度が高くなくても,右上がりの走行抵抗線はトルク曲線右半分,右下がり部分で交わる.その交差角度が深ければ深いほど安定した走行ができる.一旦,道路の凸凹とか向かい風などで速度がやや低下したならば,エンジントルクは増加,走行抵抗は減少するので,人為的なアクセル操作を施さなくても元の速度に復帰するという,制御系でいう安定系であるからである.加速が良いかどうかは,その時点での交点からその回転速度での WOT トルクまでどの程度トルクの積み増しが可能かということで決まる.
こうしたエンジンから見た燃料消費特性に車輌の走行抵抗を重ねた図において,最終段の Gear 比をどう選択するかの考え方を示したのが下の図である.表現法に見るべきところがあるのでここに挙げた.ただし,"Extra increment for acceleration" というところは "Acceleration margin" くらいではないか.内容は上に述べたことで尽きているので,図の見方を説明するということはしない.Robert Bosch "Automotive Handbook" 8th Edition (2011), p. 336 に等価な図があるので,この図の出典はおそらくそれの 7th Edition (2007) であると思われる.判り次第ここに載せる.
Hybrid Car ではエンジンのどの領域が使われているのかは興味の対象となろう.2ZR-FXE の燃料消費率等高線と作動領域を表した図 を参照されたい.
部分負荷ないしは吸気管負圧との関係は
本当は大事なことであるはずだが,部分負荷の状況を表現する吸気管負圧がエンジン性能曲線のなかに描かれている例はあまりない.本来なら上で出した C20XE エンジンのデータを挙げたいが,入手できないので,かなり古い資料*2 で別のエンジンのものながら,下の左に吸気管負圧の入ったそれを示す.単位などは現在の SI 単位系に直してある.吸気管負圧は,ブルドン管式の圧力計に Inlet Manifold からホースで導けば簡単に知ることができ,そういう圧力計が Vaccum Gauge などという名称で市販されている.
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左の図で,部分負荷の表現として吸気管負圧が採られている.大気圧から下方へと -120, -240, -360 mmHg の三つの部分負荷条件と WOT とで,出力,トルク,燃料消費率が知られ,それらから全体の性能を推し量る.真空状態は -760 mmHg である.WOT のときでもいくぶんかは負圧,おそらく -10 mmHg くらいであろうが,その値は示されていない.トルクカーヴから見ると,-120 mmHg で 85% 負荷,-360 mmHg でおおよそ 50% 負荷にあたると知られる.図示されている吸気管負圧条件の刻み幅が 120 mmHg なので,本当の最良燃費がどこにあるのかはこの図では分からない.それでも,そのあたりというようなことは読み取れる.
WOT のトルク曲線は,上述のように,低速側でも高速側でも下がる上に凸であるが,ここでの部分負荷特性は,回転速度に対して絞り弁開度 (アクセル踏みしろ) 一定ではなく,吸気管負圧一定で採られているため,下がるにつれて順次平坦,Flat Torque へと近づく.低速における点火時期遅延などがなくなり,高速側では絞り弁開度が上がっているからである.Vaccum Gauge 指示値との関係ではこの方が一義的である.
正味燃料消費率 BSFC を見ると,WOT からやや負荷の下がった,85% 負荷:-120 mmHg の条件で,すべての速度域で燃費がよく,そのなかでも回転速度 3,000 rpm 付近で最良燃費となっている.-240, WOT, -360 mmHg の順に燃費の悪化をきたし,エンジンは異なるけれども,上の C20XE エンジンの燃費特性と同様の傾向を保持している.等燃費等高線の性向と吸気管負圧の特性とを重ねあわせて取り扱うとよいと知られる.つまり,等燃費等高線図に吸気管負圧依存のトルクカーヴを脳内で描き入れておくということである.
こう見てくると,吸気管負圧計 Vacuum Gauge を用意する意味が明確になる.たいていの車輌にはエンジン回転計がついているから,いまエンジン性能曲線 "横軸" のどこにあるかは分かる.しかしそれだけでは片手落ちであって,面にはならない.吸気管負圧計 Vacuum Gauge があればエンジン性能曲線の "縦軸", トルクないし平均有効圧 がどのあたりにあるかを知ることができて,エンジン性能曲線が本来の平面に広がる.その上の等燃費等高線が頭に入っていれば,どういう燃費で走行しているのかを把握しながらアクセルを踏み,ギアを選択することができるようになる.これが吸気管負圧計 Vacuum Gauge を持つ有利性である.
ただし,そこでは "ある出力" で仕事をさせるということ (仕事率既定) が前提となっているときに最小燃料消費でという指向であることに留意しなければならない.ある距離を "最小燃料消費量" で走るという指向 (走行距離一定) であるなら,km/liter ないしは liter/100 km 表示の走行燃費計を見て走ることになる.このとき走行速度も到着に要する時間も可変である.たいていは 70 km/h あたりの一定速度で走れば使用燃料量は最低になる.そこなら走行抵抗もほどほどに小さいからである.
"吸気管負圧が大きい方が燃料消費が少ない" というのは,時間あたりの仕事量が少ない,つまり低負荷であるというにすぎない.低負荷なら当然のことながら単位時間あたりの燃料消費量は少ない.このページの議論はそれとは違う.吸気管負圧を見ながら走るというのは,ある決まった速度で走るということを前提とする."一般の火花点火機関では最良燃料消費率は全回転速度域のなかでやや低速寄りの,比較的最大負荷 WOT に近いところにある" という,エンジンの燃費率等高線図を記憶に留めてアクセルを踏むのである.しかし,ひとえに状況を把握しているという満足感があるだけで,現実にはせいぜいギアを一段上げるか下げるかくらいしかすることはない.
吸気管負圧計 Vacuum Gauge に関しては,それが絶対圧を測っているものなのか,それとも大気圧との差,つまりゲージ圧を測っているものなのかの区別をしておく.山に登ると,例えば海抜 1,450 m の高度で大気圧は 15 % 低下する.それぞれの計器に応じて表示の解釈を変更しなければならない.
*2 機械工学便覧 改訂第6版 (1977), pp. 14-6 to 14-8, 日本機械学会編
上,右側の図は絞り弁全開 WOT 条件のデータでしかないが,空気流量 ,容積効率 ηv,図示出力 Pi が正味軸出力 Pe,正味平均有効圧 pme との対比で出ているところが有用である.
通常の火花点火機関ではほぼ 量論比 Stoichiometric の燃料/空気混合気 Mixture がシリンダに供給されるので,空気流量 と燃料流量 の比はほぼ一定である.熱機関は燃料の持つ化学エネルギーを燃焼という操作を経由して一対一で熱エネルギーとし (燃焼効率はほぼ 1),それを機械仕事に変換する装置である.狭義の理想気体を作動流体とする Otto Cycle の熱効率 ηth が熱供給量/仕事量の大小に関わらない値であることが示唆するとおり,熱からの変換効率,つまり熱効率はまずは一定と考えてよい.
すなわち
ここに Hu は燃料の低位発熱量である.エンジンの図示出力 Pi は燃料流量 に比例するが,それ以前に空気流量 に比例する.空気を取り込み,それに燃料が一定の比で加えられる.図示出力 Pi と空気流量 のカーヴがほぼ相似であるという状況が上,右側の図に示されている.
"4ストローク機関の吸気" のページで述べたように,容積効率 ηv は次式で定義される.
容積効率 ηv は行程容積に比較しての吸入空気量であり,単位行程容積あたりという意味で平均有効圧と同じ取り扱いである.図示出力 Pi が空気流量 に比例するということは,図示平均有効圧 pmi が容積効率 ηv に比例するということと同義である.上,右側の図にある容積効率 ηv のカーヴと正味平均有効圧 pme のカーヴを見較べると,容積効率 ηv のカーヴがやや右上がりになっていることが分かる.ここの関係を説明したのが右の二つの図であり,それぞれ,平均有効圧と出力について,図示と正味 (軸) とが揃っている. |
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BMEP = nIMEP - FMEP, pme = pmi - pmf , Pe = Pi - Pf であるから,関心は摩擦損失 FMEP, pmf, Pf へと移る.上の二図に負の向きに青線で描いてあるのがそれである.
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最も上に位置する右上がりの線は,エンジンのいちばん外枠,補機まで装備した状態でモータリングされたときの値で,オイルポンプ,冷却水ポンプ (ファンは装備せず),オルタネータ (発充電せず),ディストリビュータが付いているとある.これは,絞り弁閉じでの,いわゆる "エンジンブレーキ" として作用する負の動力である.次にそれら補機類を取り外した状態の値が緑色上側の線であり,吸排気マニホールド,気化器を含むとなっている.それら吸排気系も取り去ったときが緑色下側の線である.緑色上下側線間の高さ,薄青に塗られたところが絞り弁閉じでの "ポンプ損失" にあたる (モータリング法であっても,絞り弁全開 WOT とすれば,この領域はほとんど現れなくなる).図示平均有効圧 pmi,正味平均有効圧 pme を云々するとき,このポンプ損失は平均有効圧に繰り込み済みであるから,このページで言う摩擦損失 pmf とは,このポンプ損失を考えない,緑色下側の線までの値のことである.それが一段飛んで上の図に,負の方向,下に向かって青色の線で描かれている.
特徴的に知られることは,ピストンならびにピストンリングに係わる摩擦が大きいということ,また,回転速度が上がると増えることである.火花点火機関において,現在,低速・高負荷指向になっている意味がこういうところから分かる.
定地走行燃費 平地を定速で走行する場合に燃費がもっとも小さくなる速度はどのあたりか,との質問があるであろう.これはもちろん,車種し依存する.最少燃費となる速度はエンジン特性曲線とか車輌走行性能曲線などからは直ちには得られない.かつてカタログに出ていた車速 60 km/h での "定地走行燃費 Steady-state Fuel Economy at Road Load" のような値について,広い速度範囲で発表がなされていないから近道はない.基本的には,車速が 80 km/h あたりを越えると空気抵抗が増すので,"定地走行燃費" は大きくなる. CVT などが普及していない時代のかなり古いデータ* ながら,平地交通流平均速度と燃料消費率を調査した結果を右図に示す.高速道路での値 (三角印) が "定地走行燃費" にあたるであろう.最少定地走行燃費が得られる車速は 70 km/h あたりにあるという結果が示されている. * 片山硬・鮎沢正:交通流と燃料消費率に関する調査,日本機械学会 交通・物流部門大会講演論文集, 2nd, (1993), 489-494 |
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Still not fixed.