低温度自着火の圧力依存性 Pressure Dependence
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 "高めのギヤでの急加速や登坂時,低速高負荷時,にはなぜノッキングするのでしょうか" という問に対しては,0) ノッキングするかどうかは火炎伝播と自着火まえ反応の競合で決まる,というところから始まる.

 1) エンドガスにおける自着火まえ反応が火炎伝播完了以前に熱炎を作ればノックする.
 2) 火炎伝播進行速度は乱れ u' に支配されており,乱れ u' は回転速度と比例関係にある.
 2+) 自着火まえ反応進行速度に変化が無いとしたとき,低回転より高回転の方がノックしにくい.
 3) 回転速度が同じであるとき,アクセルペダルを踏み込む
絞り弁開度が上がる吸入混合気量が増える下死点 BDC:吸入終り/圧縮始めシリンダ/チャージ圧力が上がる圧縮終り/上死点 TDC 近傍でのシリンダ/チャージ圧力が上がる,という経緯をたどる.* これらはすべて "高負荷" を意味する.** 下死点 BDC 吸入終り/圧縮始めシリンダ/チャージ圧力が上がることについては,吸入空気量のページに 説明図 がある.
 
4) 圧力が高くなると自着火まえ反応進行速度が上がる.
 4+) 回転速度が同じであれば,火炎伝播進行速度は変わらないので,自着火まえ反応進行速度が上がった分だけノックしやすくなる.

 このページでは,この 4) 圧力が高くなると自着火まえ反応進行速度が上がる,すなわち,「低温度自着火における圧力依存性」 が正であることについて述べる.


直観的に知る圧力依存性

 別のページで 化学プラントに関係する低温自着火の例を挙げた.そこの 指圧・発光線図 を見れば,一目瞭然,圧力が高い方の着火遅れは著しく短縮されていることが見て取れる.ただし,この例は冷炎支配域の着火についてのものなので,低温自着火の圧力依存性として見るのなら問題ないが,ノッキング関連としてなら,温度域が異なるので,そのままを受け入れてはいけない.


Livengood-Wu 積分から見た圧力依存性

 ノッキングが起こるかどうかの判定条件で最初に出てくるのは Livengood-Wu 積分 である.そこで使う着火誘導期の前炎反応進行速度を表現するアレニウス式:


における圧力 P の肩にある指数 n を知れば,圧力が高くなると自着火まえ反応進行速度が上がると分かる.例えば Douaud & Eyzat はエンジンノックに対して n=1.7 と与えており,我々は青炎支配温度域の着火に対して n=2.86 を与えた.この指数 n が 0 であれば,自着火まえ反応進行速度は圧力 P に依存しないが,実験で出ている値は 2 前後の正の値であるから,圧力 P の一乗;圧力 P に比例,よりもっと強い依存性を示すことになる.


着火誘導期における逐次圧力依存性

 低温度炎反応速度は圧力依存性の高い現象であり,それが重い結果を導くものであるのに,一般にその認識は浅い.炭化水素系燃料の 層流火炎伝播に関する温度依存性,圧力依存性 についてはある程度確立されているのに,自着火については充分調べられていないのは奇異なことである.

 上の Livengood-Wu 積分で使われている着火誘導期前炎反応のアレニウス式表示では,混合気の温度・圧力が持ち上げられたのち着火に至るまでのあいだ,つまり着火遅れ期間全体がひとつの事象として扱われている.Rögener の式 とて,τ1 期間,τ2 期間に分割されているものの,それぞれの着火遅れ期間全体をひとつのものとしていることには変わりがない.

 着火への過程は,冷炎前,冷炎,青炎前,青炎,熱炎前,熱炎と経てくるわけであり,それぞれの事象の性質は他と異なるはずである.そこを明らかにする (1).我々が 1981 年に示したデータであるけれども,他にこうした圧力依存性を呈示したものを見かけず,現在でも古くない.

 モータリング機関* を用いて予混合圧縮自着火を生じさせ,その圧力履歴 P 計測値から熱力学的手法によって熱発生量を求め,壁面への熱損失を別途考慮したうえで,低温度炎反応による熱発生速度で前炎反応が進む速さを代表させた.低温度炎反応は温度一定で進行する連鎖反応ではなく,熱発生を伴った Thermo-chemical, Chemico-thermal 反応なのでそういう取り扱いが許される.燃料には 低温度自着火の圧力依存性 を調べるのにも用いられたジエチルエーテルが充てられ,空気を酸化剤とした混合比は当量比で 0.5 である.* そこのページに図示されたモータリング機関ではなく,先に所持していた φ85×100,Yanmar NT85 をベースにしたもの.回転速度は 300 rpm.

 熱力学的に得られる みかけの熱発生速度容器壁からの熱放散速度 dQloss/dt を表面熱電対出力から見積もって加え合わせることで,化学反応による熱発生速度を得た.すなわち,

 ピストンエンジンでは,クランク角度を把握しておけばチャージが占める容積 V は既知である.比熱比 κ の前炎反応進行による変化は大きくはないが無視できるわけではないので,別途,ガス採取弁を用いた組成データや Powling バーナで得られる組成データを考慮して評価した.


 着火誘導期,低温度炎発現期,熱炎発現期について,温度履歴を同一とし,圧力経過にのみほぼ 1 : 2 と差をつけて熱発生速度を比較した.上図がその結果である.左側に圧力履歴 "P" が出ているが,その縦軸スケールは,上では 1.5 MPa, 下では 4.0 MPa と同一ではないことに留意されたい.圧力履歴には,熱炎着火に近づく裾野に低温度炎による典型的な圧力ジャンプが見られる."Tw" とあるのがシリンダヘッド内壁表面温度履歴,"T" は線径 25 µm の細線熱電対と熱容量慣性補償器の組み合わせで得られたチャージの温度履歴である.この温度履歴からは複数回の縮退を伴う多重冷炎の存在が知られる.

 図右側で,横軸 logP,縦軸 log(dQ/dt) としてデータをプロットすると,近似直線の傾き tanα がアレニウス式で圧力 P の肩にかかる指数となる.冷炎前の熱発生は少量すぎて計測に乗らないが,そのあとの 冷炎発現・多重冷炎・青炎前・青炎発現・熱炎前・熱炎についてはそれぞれ固有の圧力指数が得られている.冷炎での圧力指数は 1.5 程度,熱炎では常識的な 2 程度であるが,その中間,熱炎着火裾野の青炎における圧力指数はおよそ "4" と極めて高い.青炎領域の反応は圧力の 4 乗に比例して速くなるという意味であり,圧力が 2 倍になると反応が 16 倍速く進むというわけであって,自着火の発生にとってここが特に重要である.ただし,青炎発現の不均一性は特に大きい ので,この指数はそういう事象をも包み込んだ値である可能性は否定できない.青炎前の圧力指数 2.26 は充分信頼に足る値であろう.

 1981 年,現今のベラルーシ,かつてのベロルシア,Minsk で開催された ICDERS でこれを話したのだが,その後,そこで会った人から,低温酸化反応でよく知られた化学者 S. Benson が同じようにコメントしている (2) と連絡があった.その論文には "It also accounts for the idiosyncracies of the cool flame and hot ignition regions and an unexpected dependence of the overall rate on a high power of the total pressure (e.g. P3 or P4)." とあった.根拠などについては触れられていない.

 τ1 + τ2 + τ3 の着火誘導期間全体をアレニウス表示しただけではこのような特質は表現されない.低温度炎の各段階について,そこでの圧力依存性を知ることで,低温度炎の性質がさらに明確になり,着火制御手法を考える上での指針を与える.特に,青炎の重要性については,現在でも充分認識されているとは言えず,熱炎着火と一体で扱われることがしばしばであるのは残念である.


・ 実験のテクニック,パラメータを如何にしてひとつにするか

 圧力依存性を知るためのものなので,圧力以外の条件は変わらないように設定されなければならない.つまり,圧力履歴のレヴェルのみがパラメータである必要がある.それでは着火に関する温度履歴の差を消去するにはどういう手法が用いられたのか.

 モータリング機関 のページで述べたように,"ピストン圧縮では,初圧を変化させても,ピストン圧縮行程での状態変化におけるポリトロープ指数 n の変化はほとんど無い" という特徴がある.圧力履歴のレヴェルだけを上下させても圧縮行程での温度履歴はほとんど変わらない.

 圧縮行程はそれでよいとしても,低温度炎が出てくると発熱によって温度が上がり,圧力も上がってしまう.けれども,それについても救い主がいないわけではない.ピストン-クランク機構 では,上死点 TDC の前後,クランク角 ±10o くらいの範囲ではシリンダ容積の変化はごく僅かである.チャージの容積が変わらないのであれば,温度上昇は熱発生量に比例し,それはまた圧力に反映される.容積が変わると圧縮や膨張が起きてこれが成り立たない.一方,圧力履歴のレヴェルにチャージの質量や燃料の質量が比例している.それゆえ,燃料が有する化学エネルギーの内,その時刻までにどれだけがすでに熱として放出されたか,その割合が等しいところ同士で較べるなら,低温度炎発現過程を含めて,圧縮始めからの温度履歴は変わらないことになる.熱発生量を計測しているわけであるから,その時刻までに放出された熱量は把握されており,この熱発生累積割合 Percentage of Liberated-Heat Integrated でデータが整理される.図中に Heat Integrated: 20 % などとあるのがそれである.この実験では幸いにも自着火現象は圧縮上死点前後の比較的狭い範囲に収まっている.

 このように,モータリング機関を使って圧縮上死点前後の比較的狭いクランク角度内で現象を起こさせるなら,化学反応を調べるための反応容器として適格である.エンジン技術者に熱力学は必要ないと宣われたエンジン関連の大学教授がおられることを耳にしたが,この実験条件を設定するのに熱力学は不要と言い切れるであろうか.


文献の所在

 1. Ohta, Y. and Takahashi, H., Temperature and Pressure Effects in Cool and Blue Flames, Progress in Astronautics and Aeronautics, Vol. 88, (1983), 38-56, AIAA.
 2. Benson, S. W., The Kinetics and Thermochemistry of Chemical Oxidation with Application to Combustion and Flame, Prog. Energy Conbust. Sci., Vol. 7 (1981), 125-134, Pergamon.



Still not fixed.


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