Web-oriented Transcript on IC Engine
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Web 上に構築される内燃機関工学構想
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 書籍という媒体から離れ,Web site ページとしての講義録という形式をかねて構想していた.それの利点は内容の深さに応じて階層的に記事を配置できることと,関連事項へ Link を張ることが容易なことである.掘り下げた内容ほど深い層に置いておくことができる.書籍媒体ではなかなかこれができない.目次は用意しないし,その必要がない.どこから読み始めてもよいし,そこで出てきた疑問に対しては,浅い,深い,または同位レヴェルの別のページへとあちこち飛んで,必要なところを拾えば済む.関連事項に Link が張られているということは,著者の知見だけに留まらず,世界のあちこちから援助を受けられるということでもある.

 Web site に常に出ているのなら,毎日毎日大学に足を運んで講義に出ることなく,いつどこでも,好きな時刻に好きな場所で読んで,考えを深めることができる.初心者は初心者なりにまず最上面を一通り読めば,概念を自らの内に構築できようし,実働のエンジニアには自分の業務で迷ったときに参照して新たな発想を得ることができるということがあろう,という構想である.我国で大学という組織体が進路を見失っているいま,こうしたことが本来のものになる可能性なきにしもあらずである.

 深いところを最初に覗いた初心者はコリャ手強いと思うであろう.しかしながら,網の目のように入り組んでいるからこその学問体系であり,表紙から順にページを繰れば入ってくるものなら,単なる知識の域を出ないに相違ない.どんどん深く進むというだけではなく,地上の明かりも目に入るよう,基礎的なところも欠落なしとする.

 日本人の科学的リテラシー Literacy は国際的に見ると高くないと指摘されているらしい.解説書を書いたり,一般の人に話をする努力を怠っているという.それに応えるという意味もある.また,内燃機関について,いま大学でどういう講義がなされているのか,十年一日の如き,黴の生えたような内容なのではないかという疑問を呈する向きもある.批難されているのは自分であろうか.それに回答するという意味をも込めて,これまで講義してきた内容をここに出す.黴が生えているかどうか判定してもらおうではないか.

 この Site にいま現在掲載してある中味は下表のようであって,そうした構想の試作であり,もちろん未完成である.あちこちに "Under Construction" の Icon が残っている.それはこういう形式の宿命であり,永遠にそれが無くなることはないという性質のものである.この段階でも構想した機能の片鱗が現れているだろうか.その分野のエキスパートの読み込みに耐えるであろうか.増殖中のページは改訂に次ぐ改訂,追加に次ぐ追加となり,昨日出ていた図が今日は別のものにということもあり得る.

 大学三年次程度の基礎的な科目となる地上階ないし山手線ホームに相当するところを先にということから,自分の専門分野,自着火の領域,は後に廻す.東京駅の成田エキスプレス乗場 (地下五階か) まで降りるのはまだまだであり,まずはせいぜい横須賀線のホーム (地下一階か) である."ハイオクタンガソリンはなぜ自着火しにくいのですか" という問があるようだが、これに答えようとすると京葉線のホーム (地下四階) まで降りなければならなくなる.そこまでにはいま少し時間がかかる."高めのギヤでの急加速や登坂時,低速高負荷時,にはなぜノッキングするのでしょうか" という問も見た. 「ノッキング,補遺」 を読めば "低速時" の説明を見い出せようが,"高負荷時" のことはそれだけでは解らないので,この Site はまだ半分だけにしか役立たない.後半を納得してもらうには「自着火の圧力依存性」を説明しなければならず,そこはやはり地下四階のレヴェルである.別枠の構想 「講義:低温度自着火」 の方で解説しようと思う.

 ここでは,Hardware の Mechanism を云々するのは必要最小限として,どういう物理・化学現象のつながりでエンジンが成立しているのかというところを多く取り扱う.とりあえず,各ページの表題を以下のようにした.

火花点火機関の火炎伝播 / 燃焼速度
火炎伝播のシミュレーション
火炎帯 / Ignition Point
消炎距離
火花点火
点火時期とトルク/燃費
ノッキングを動画で
ノッキング,補遺
ノック強度評価
Skyactiv-G エンジンとは何か
火花点火機関への EGR
低温度自着火への EGR 希釈の効果
 
過給・直噴火花点火機関の過早着火
乱流燃焼分類ダイアグラム

- 下記からなら重くない -
ノッキングを動画で
歪みゲージ指圧計,コンディショナ
ピエゾ指圧計,チャージアンプ


 とはいうものの,これは自分のためのこころ覚えであり,読者を想定してのものではない.自分が納得できる解釈に達するまで何度となく考えることしかものごとの本質に近づく途はないであろうから,再び書くのである.古から研究者の多くは自分の不安を解消するためにだけ活動して来た. アァそうか,と思ったときに嬉しい唯それだけである.それらのうち,おそらく一般性のあるものだけは他の人達にとっても役に立つものであった.我々はいま,こうした過去の遺産のなかに生きている.遺産のなかにいるとはいえ,工学の分野ではこれまで,あるひとつの課題に対して参考になる資料,情報は極めて少ないという立場にあった.そうでないなら新たに実験などやってみる必要がない.社会科学のように膨大な情報の中から本質となる核を見つけて磨きあげるというのとは立場が異なる.しかし最近はこれが少し変わってきて,工学分野でも,嘘か誠か,虚か実か,軽いか重いか,一番乗りか二番煎じか見分けのつかない情報が溢れている.そういうものをいちど網で漉してみるのも悪くないであろう.Mit dem Alter nimmt die Urteilskraft zu und das Genie ab. Immanuel Kant (齢とともに判断力は増し,独創力は落ちていく.カント) というのも,その行為に対するひとつの言訳になろうか.

 ここに挙げた形式は Hypertext, Hypermedia と呼ばれるものの一種であり,それは本来 "集合知" を目指す.学問は個々人の貢献が大きいが,学問領域として見れば "集合知" である.しかしながら,ここに挙げたものは自然に任せた Hypermedia ではなく,そこに一個人が現象をどう解釈したかというフィルタが掛けられている."網で漉してみる" というのは解釈というフィルタである.そこのところが単なる集合知とは大きく異なる.知そのものではなく,解釈を提示しようとしているのである.そのフィルタが恣意的私見に陥らないよう意を用いたが,他の意見を引き出すために煽ったところも少なからずある.見る人が見ればお気づきになるであろう.

 英語のページで AutoZine Technical School というところがある.ドイツ語のページでよいなら Dieselinfo - Wissenswertes über Dieselmotoren というようなところが参考になる."Wissenswertes" とは "知っておくべき内容" というような意味である.Aachen 工科大学の SFB 224 が出している啓蒙ページを訪問なさるのもよいと思う.しかし,そことて,ここで意図している Web-oriented Textbook という構想とはやはり異なる."On-Demand . . . " というものとも違う."On-Demand . . . " は点である.点ではなく,面もしくは立体的な繋がりのある知見,それらの集合体でないといけない.

 学術書では印刷は Monochrome が基本であるのに対して,Web では総天然色* が可能かつ容易であるから,図を使った説明には好都合である.しかしながら,思索に色が必要であるとはいえず,むしろ逆に働くことが多い.何事も一長一短である.* 子供の頃,白黒写真/映画 Black-and-White Film,天然色写真/映画 Color Film と言っていた.いま,"てんねんしょく" と入れても電子辞書から応答がない.

 書き進めるにあたり,図の蓄積が足りないことを痛感する.講義しているときなら,頭の中にあるイメージを黒板に描いて,数値などはほどほど,おおまかでよいが,Web site に出すとなるとそうは行かない.正確を期すとなると,自分のデータがないものについては,他の誰かの著作から持って来なくてはならず,そこには著作権も存在する.図を新たに描くのは時間をとる作業であるうえ,マウスの微小な動きが要求されるので肩凝りを誘発する.そういう理由で,項目がなかなか増えない.文章だけで済む分野が羨ましい.

 一部のページは "です"・"ます" 調 (敬体) で書かれている.それらはこの Web の発祥当時に,特に非専門家を読者に想定して書かれたものであり,それをそのままにしているからである.残り,大半は文末が "である" で終わるような書きかた (常体) になっている.常体に属するらしき "〜だ" という文端にしたところはおそらく全くない.

 また,工学に関係する内容をどのように記述しなければならないかの基本的な Format は 工学を記述する文章 というページにまとめてあるが,それに沿った記述法になっている.こうしたことに注意を払っておかないと,学会誌などに論文を投稿したとき,Format を見直せと返却されることになる.

 図の Format は論文のレヴェルに合わせてある.現在我国で出版されている教科書では,図中の用語はいまだ日本語であるが,論文ではすでに英語で統一されていよう.つまり,大学の教科書以上のものを読もうとする読み人がそこにいてのことである.本文は日本語であり,その横にある図の縦軸・横軸が何であるかというようなことについては,その横の本文に説明を付けてある.読み人にはこの Format で読み通すレヴェルが期待されている.

 教科書に相当するものとは言えど,図は単なる定性図だけで終わらず,一例ではあっても,縦軸横軸ともに定量で描かれているものを多く採るように努めた.定量図でないと,物理量や変数の絶対値がどの程度の大きさなのか,そのオーダーがどれくらいかを把握できない.そのあたりが分かってきたときに人はその分野の Engineer となる.そのために欠かせない.

 大学は Semester 制であって,一学期 15 週である.一週は最終考査に充てられるから,一週あたり 90 分 (以前は永く 100 分であった) で,講義は 14 週 (ある時期から15 週になった),それでもそこで話せる内容はおよそ上表のもの以上にはならない.あるメーカの技術者のコメントに,これだけやられたのでは学生さんは大変だったでしょうね,というものがあった.受講していたみなさん,大変でしたか.


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